六、忠誠か陰謀かー魏から遣わされた兄弟
雪が解けはじめ、春の訪れを感じはじめた頃、曽では楚へ派遣する軍の準備が着々とすすめられていた。
「陛下、魏より王勇毅と王逸翰が来ました」
「おぉ、やっと来たか」
王勇毅と王逸翰は皇帝熊耀に跪き、挨拶をした。
「お前たちが聖女王玲莉の兄たちなのか?」
「はい、その通りでございます」
「それで、魏の皇帝がお前たちをよこしたということは何か条件があるのだろう。何だ?」
「はい、陛下。魏の軍が楚の軍と同盟を組む条件は、私と逸翰を曽の軍に加えていただくことです」
皇帝は二人を見ながら、様子をうかがっていた。
(何か企んでいるのでは?しかし、丞相の息子たちをわざわざ曽に遣わすとは、自ら人質を送っているようなものだ。それに、この男たちは聖女の兄だぞ・・・あの魏の皇帝は何を考えているのか全くわからない)
皇帝からずっと睨みつけられてる勇毅と逸翰には緊張が走っていた。
「よかろう。お前たちを曽の軍に入れてやる。しかし、まだお前たちを信用しているわけではない。お前たちには監視をつけさせてもらう」
「感謝いたします」
勇毅と逸翰は皇帝に見えないよう目を合わせ、笑みをこぼしながら頷いた。
勇毅と逸翰には常に監視の者がついていた。その者の名は馮一といい、楚の国でも五本の指に入るほどの強者だという。
勇毅はふと上を見上げていた。逸翰にそれに気づいていたが、馮一をちらっと確認しながら、勇毅を見て頷いた。
勇毅は石で躓き、こけた。逸翰は勇毅を馬鹿にしながら、起き上がらせた。
「兄上、それでも長兄なのですか?しっかりしてくださいよ」
「すまない。うっかりしていた」
勇毅、逸翰、馮一が去った後、一人の男が勇毅のこけた場所であるものを拾った。
その者はそれを拾うと誰にも見つからないよう、身を隠し、拾った紙を丁寧に広げ見ていた。
「なるほど・・・」
男は軽々と宮城の上に上り、仲間と合流した。
「・・・わかったな、寒松」
寒松は胸を叩き、理解したことを示した。
「若様は本当に人使いが荒いですね」
冬陽はそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。
「久しぶりだな、建明」
「ひ、久しぶりですね。勇毅、逸翰」
魏にいた時は勇毅と逸翰に敬語を使うことがなかった建明が、媚びを売るようにあからさまにへつらうような態度を取っていた。
「本当だったら、ここで斬り殺したいが、まぁ、私たちは建明を殺しに来たのではない。しかし、よくもまぁ・・・」
勇毅は怒りを抑えつつ、建明の耳元で囁いた。
「よくも玲莉を曽の国に売ったな。玲莉に手を出してみろ。お前が誰であろうと私はお前を許さない。その場で斬り殺してやる」
建明は抵抗しようとしたが、勇毅の形相があまりにも恐ろしく、腰を抜かしてしまった。
次は逸翰が建明の前で屈み、気味の悪い笑顔を向けていた。
「お前ごときが玲莉と一緒になれると思っているのか?お前がこんなに腐っていた男だったとは。婚姻する前に気づけてよかったよ。私たちはあくまでも皇帝の命で曽の軍に協力するために来ているのだ。お前に命などどうでもいい。仲間だなんて思うなよ。私も兄上もお前を殺したいほど憎んでいることを忘れるな」
建明は二人についている馮一に訴えようとしたが、馮一はわざとよそ見をし、何も知らないふりをしていた。
(忘れていた。玲莉の兄たちは玲莉を溺愛しているのだった・・・なぜ監視役の馮一が曽の側の私を助けないのだ・・・まさか・・・皇帝もすでに私を見限っているのか?まぁいい、今に見てろ。お前たちの可愛い妹を私の手で汚してやる)
勇毅と逸翰は冷めた目で建明を睨みつけ、宦官の案内で用意された部屋へ行った。
(くそっ)
建明の玲莉への執着がより一層大きくなっていた。
「お嬢様?どうされたのですか?」
玲莉は急に震えるほどの悪寒がしていた。
「わからない。今日はこんなに暖かいのに。どうしたのかしら?風邪でも引いたかな」
「お嬢様、いつ曽と楚が攻めてきてもおかしくありません。今、体調を崩したら大変です。今日はゆっくり休みましょう」
「そうね」
玲莉は春静の助言通り、寝台に横になり、眠りについた。




