五、三国三様
「王丞相、例のものはできそうですか?」
「明日にはできるそうですよ」
「さすが元薬草売りの息子ですね。それとあの件はどうですか?」
「それも問題ありません。あの者たち以外は」
「素晴らしい。羅洋、譚子安、白庭」
三人は孟景天の前で跪き、指示を仰いだ。
「羅洋は妓楼であの者たちを」
「御意」
「譚子安は私が合図を出したら、羅洋に合図を送ってください」
「御意」
「白庭は例の情報を曽と楚へ」
「御意」
三人は一斉に孟景天の目の前から散っていった。
「王丞相、心の準備はよろしいですか?」
王浩の心の準備は全くできていなかったが、もう逃げられないゆえ、やるしか選択肢はなかった。
「若様・・・大丈夫です」
「王丞相、大丈夫です。あなたは本来座るべき椅子に座ろうとしているだけですから」
王浩は自分の頬を思い切り叩き、気合を入れた。
「陛下、魏が我が国と組み、楚を攻め、聖女を捕らえることに承諾しました」
「建明、よくやった。今日はお前にもこの酒を飲ませてやろう」
普段は奴隷のようにこき使う曽の皇帝熊耀が、今日は建明に対し、他国の皇子のように丁重に扱っていた。
(馬鹿な李叡め。今の魏はあの皇帝と李義というお飾り皇太子殿下だけだ。操ることなど造作もない。しかし、万が一・・・)
玲莉を奪還する見込みが立ち、建明の心に少し余裕が出てきたが、魏にはまだ行方不明になっている孟景天がいる。もし、建明の知らぬ水面下で動いていたら、今の建明には対抗する術がなかった。
「陛下、こちらの国には魏から誰か遣わされるのですか?」
「そうみたいだ。誰だったか・・・王勇毅と王逸翰だったかな?魏の丞相の息子たちだ。そんなやつらを曽に遣わすということは魏も本気だろう」
(勇毅と逸翰か・・・ということはこの話は嘘ではないな。私がいることを知っていて偽物を遣わすわけないだろう。あと少し・・・あと少しの辛抱だ)
建明は下品な笑い方をする熊耀を横目で見ながら、人形のような作り笑顔で、熊耀の機嫌をとっていた。
「慮空、これは一体どういうことだ!」
楚の皇帝劉正は慮空を呼び出し、問い詰めていた。
「陛下・・・安心してください。魏からのこの文は真っ赤な嘘です」
「嘘・・・だと?」
皇帝は玉座に座り、一旦深呼吸をした。
「それでなぜ嘘だとわかる」
「私の占いでは魏が楚を攻める兆しが全く見えません。それに攻めてくるというよりかは・・・それに陛下、この文は・・・胡宦官、水をいただけますか?」
胡宦官は皇帝の顔色をうかがい、皇帝が頷いたので、慮空に水を持って行った。
「ありがとうございます。では・・・」
慮空はその文に受け取った水を豪快にかけた。
「なっ!」
皇帝も胡宦官も慮空の行動に驚いたが、慮空が手にしている魏の文に新たな文字が浮かび上がってきた。
「陛下、これが真実です」
文を受け取った皇帝はその内容に驚愕した。
「まさか・・・」
劉翔宇と玲莉は莉花宮の庭で菓子を食べながら、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
(どうすれば玲莉を私のものにできるのだろうか・・・)
劉翔宇は菓子を幸せそうに食べる玲莉の顔を見ながら、ずっと同じことを考えていた。
前世ではただ見ることしかできなかった楊秀英が王玲莉として、許嫁として隣に座っている。
手の届かなかった相手が、今では触れることもでき、何度も唇も重ねている。
玲莉とのひとつひとつの口づけを劉翔宇は鮮明に覚えている。
それ以上の関係にもなりたいが、理性が働き、今はどうにか抑えられている。
しかし、この先ちょっとしたきっかけでタガが外れる可能性もある。
「玲莉・・・」
「どうしたの、翔宇?」
「いや・・・何でもない」
「変な翔宇」
玲莉はここ最近悩んでいた。建明が曽の軍を率いて、聖女である自分を手に入れにくる。それに加え、魏の軍まで楚を攻めれば、一番の被害者は楚の民である。自分の存在が原因で無辜の民を巻き込みたくなかった。
(もし二国が攻めてきたら、私の力でこの国の民を守らなければ・・・景天。もしあなたが私を迎えに来るためにこの民を危険に晒すなら、たとえあなたに敵対してでも、この国を守るわ。私は聖女なのだから)
今まで守られてばかりだった玲莉が、今では聖女として民を守ろうとしていた。




