三、豪快な曽の皇帝
皇帝李叡に王吉祥、王逸翰、王浩が呼び出されていた。
今回は何があるかわからなかったため、蘭玲が逸翰として皇帝の前に出ていた。
「建明から文が届いた。その文によると、曽の皇帝が玲莉が聖女であることを知り、軍を率いて、聖女王玲莉を捕らえに行くと。玲莉は我が国の聖女だ。曽にも楚にも奪われてはならない。あと一月もすれば、楚へ続いてる道の雪も解ける頃だろう。王吉祥、王逸翰。二人には玲莉奪還の指揮をとってもらう。袁将軍の軍を借りるといいだろう。袁将軍には二人からの指示に従うよう朕から命じておく。わかっていると思うが失敗は許されないぞ。絶対に曽だけには奪われるな。王丞相は二人の補佐をしてくれ」
「御意」
皇帝の話は終わったが、なぜかまだこの場を立ち去ってはいけない空気を感じていた。
三人は跪いたまま、いつ立ち上がればいいのかわからなかった。
皇帝は言葉は発さなかったが、宦官に目で何かを指示していた。
宦官は王吉祥に近づき、頬をつねった。
「痛っ」
王吉祥はつねられた頬を押さえ、宦官を不機嫌な顔で睨んでいた。
宦官はすぐに王吉祥に謝った。
「すまない。史宦官のことは許してやってくれ。朕が命じたからやっただけだ」
「陛下、もしかして王吉祥が偽物であるという者がいたのでしょうか?」
王浩の発言に皇帝は話すべきかどうか迷っているようだった。
「そうだな・・・藩弘と鐘峰峻が訴えてきてな。王吉祥は偽物の可能性があるから信じるなと。朕は王丞相が裏切ることはないと思っているが、他が裏切らないとも限らない。それで、史宦官に王吉祥が変装でないかどうか調べてもらった。これで朕によって本物だと証明された。期待してるぞ、王吉祥」
「ありがとうございます。この命に代えてで王玲莉を連れ戻します」
後宮を出た三人はようやくきちんと息をすることができた。
「若様の言う通りでしたね。『陛下は王吉祥が本物かどうか調べるはずだから、今日は王吉祥本人が入宮すべきです』と」
「しかし、例の作戦を早く実行しないと、このままでは楚で三国の戦争が始まってしまいます。父上、父上の方はどうなのですか?」
「一部を除いて、順調に進んでいる。予定通りだ。あとは、皇太子殿下次第だ。明日、明後日は私は皇太子殿下と後宮の外に出る。私の代わりに勇毅がいるから、何か問題が起こったら勇毅を頼れ」
「わかりました」
これから起こることへの不安と緊張からか、それ以降、三人は一切話すことなく、馬車に揺られながら、王家へ帰っていった。
「建明、お酒が入ってないぞ。早く入れろ」
「はい、皇上」
建明は曽の皇帝熊耀の機嫌を損なわないよう、屈辱に耐えていた。
(玲莉を取り戻したらこんなやつ真っ先に殺してやる)
曽の先帝は若くして崩御し、今の皇帝は建明と同じ年の皇帝だった。実力ですべてが決まる曽の国であるため、身分の低い母を持つ熊耀だったにも関わらず、頭は切れ、豪快であり、力では敵なしの熊耀が皇帝となった。
曽の国は狩猟民族のため主な食べ物はほとんどその日に狩ってきたものばかりである。
他の国では皇帝という立場は尊き身分であるため、自ら狩に行くにしても護衛をつけるのが普通だが、この国ではたとえ皇帝であっても護衛をつけることもなく、自分自身の身は自分で守らなければならなかった。
「早く会ってみたいものだな。聖女か。きっと美しい女だろうな。味わってみたい」
建明は怒りを抑え、冷静を装っていた。
「しかし、元はお前のようなやつが許嫁だったとは。聖女もさぞかしかわいそうだ。俺みたいな男の女になってこそ、聖女としての価値があがるわけよ」
皇帝を信奉している者たちは手を叩きながら、皇帝をほめたたえていた。
(私はもしかしたら間違った奴と手を組んでしまったのかもしれない)
建明は後悔しながらも、曽の宮城に入ってしまった以上、狼のような皇帝に従うしか他なかった。
「建明、本当に魏の軍も助けてくれるのだろうな。いくら俺が最強でも楚の軍には勝てない。魏の軍が加われば、そいつらを戦わせている隙に、聖女をさらえばいい。聖女が手に入れば、楚も魏も敵ではなくなる。俺が最強の皇帝になるのだ」
知らない者が聞くと絵空事のように聞こえるが、熊耀という男はそういうことを平然とやってのける。玲莉が熊耀の女になってしまう可能性は否定できない。
(慮空さんはこうなることがすでに分かっていて、私に帰るよう言ってくれていたのだろうか)
建明は大声で笑っている皇帝を殺意に満ちた目で見ていた。




