二十三、生きた証ー親友と想い人と私
この書は王晟陛下の子孫である王の名の者のために書かれた書である。
王の名はこの国では皇族が与えられた名である。
それゆえ、王の名を継ぐ者よ。
君たちは紛れもない皇族の血筋なのである。
この書は王家の末裔と申玲瓏のために存在する。
この書を王家の末裔が手に取るとき、どれほどの月日を経ているのか、今は知ることはできない。
しかし、私は信じている。この書を読む頃に、申玲瓏、君もその時代に再び生きていることを。
この書を通して、少しでも私のことを思い出してくれたらうれしい。それだけで私は幸せだ。
王晟、申玲瓏、君たちと出会ったのは、まだ成人にもなっていない頃だった。
私は十五歳、王晟が十四歳、申玲瓏が十三歳の頃だった。
申玲瓏、君は楚の商人である両親と魏に来ている時だっただろうか。王晟と私は陛下には内緒で町に遊びに来ていた。その時に出会ってしまった。もしかしたら、出会うべきではなかったかもしれない。
私も王晟も君の美しさに心を奪われてしまった。
王晟は皇太子、私は丞相の息子。陛下が私たちが申玲瓏に興味を持っていることを知り、話す機会を設けてくださった。
それから、私と君と王晟はよく会い、遊ぶようになった。いわゆる幼馴染という言葉が適当だろう。
君は私と王晟の君への好意に気づいていた。しかし、君は言った。許嫁がいると。生まれた時から決められていると。
私と王晟は君との関係が壊れることを恐れ、ただの幼馴染でいようと決意していた。
君が楚から再び魏に来た時は王晟は皇帝となっていた。
私は将来父の跡を継ぐため、父の側で学んでいた。
あの時の王晟と私の顔は、君の目にどのように映ったのだろうか。
君の大きくなったお腹を見て、私は絶望を感じていた。
王晟は私ほど落ち込んではなかった。王晟にはすでに皇后と息子がいたからだろう。
李威が君に対して何か良くないことを企んでいることは知っていた。
君の美しさに見惚れ、側妻にでもするつもりなのかと思っていた。
そのほうがまだましだったのかもしれない。
まさか、李威が君の力を利用して、この国を乗っ取ろうとしていただなんて、夢にも思っていなかった。
私は知らなかった。君は楚では聖女として崇められ、多くの民を救っていたことを。
君は知らなかった。聖女として救いを与えていた力が、反対に人の命を奪うこともできることを。
君は突然私の家に来た。君は腕に君に似てかわいらしい赤子を抱いていた。
私の母も驚いていたが、私たちの親しげな様子に何やら意味深な笑顔を浮かべながら、君を屋敷に招き入れた。
二人きりになった時、君は私にこう言った。妻はいるのかと。
私はその時すでに二十だったが、正妻どころか妾すらいなかった。
私がいないと告げると君は跪き、懇願した。
この子を育ててほしいと。
私が夫はどうしたのか尋ねると君は口を開こうとしなかった。
捨てられたのか、遊ばれたのか、亡くなったのかはわからないが、もし生きているとしたら、私は後悔していた。無理やりにでも自分のものにしておけばよかったと。現実はそのような事に及ぶ勇気すらない。
君は何も答えなかったが、私は承諾した。その時の君の微笑みは今でも忘れない。
それから、数日後、私は大事な親友と大事な想い人を同時に失うことになる。
李威は人を怒らせるのが上手かった。私も君に李威には気を付けるようもっと強く言うべきだった。
暴走した君は李威の望み通り、王家の者を滅ぼす結果となってしまった。
王晟は李威に何度も剣で斬られながらも自分を盾にし、私を逃がした。
王晟は血まみれになった手を去って行く私に向かって伸ばしながら、こう言っていた。
申玲瓏のせいではない。申玲瓏を責めないでくれ。どうか息子を守ってくれと。
私は恐れていた。本当に私が王晟の子を守れるのかと。
暴走している君から王晟の子を守れるのかと。
しかし、やはり君は聖女だった。
君は王晟の子は殺さなかった。最後に残された力で君は王晟の子を隠した。
私は安堵したのと同時に、親友の子でさえ守れない自分の弱さを痛感した。
私が君を見つけた時には君は今にも事切れそうだった。
私は君の最後を看取ることができ、幸せだった。
私は李威から隠すように王晟の子を信頼のできる夫婦の養子とした。
王の名を受け継いでいく必要があると思い、表向きには別の名を、しかし、その子が大人になったら王の名を必ず継ぐよう夫婦にお願いした。
私は信じていた。いつか必ず王の名の者がこの魏の国の皇帝として名を知らしめてくれると。
王の名を持つ者よ。魏の皇族として立ち上がってくれ。
申玲瓏。どうか私のことを思い出してくれ。約束を無事に果たせたことを喜んでくれ。今生きている君の身体は、君の血が流れていることを喜んでくれ。
私はもうこの世にはいない。生涯君以外愛することができなかった。しかし、私は一人ではなかった。
君が残してくれた娘が最期の時まで娘として寄り添ってくれた。
私は幸せだった。
君が私を思い出してくれたら、私が生きてきた証となる。
申玲瓏、愛している。




