二十一、聖女と皇族ー因縁の書
「若様、例の者より文が届いております」
孟景天は文に目を通すと、誰から見てもわかるほどうれしそうな顔をしていた。
「若様、何か喜ばしい報告が書かれてあったのですか?」
「まぁ、そうだな。吉報だ」
(玲莉お嬢様の近況について書かれているのだろう。若様がこれほど喜ぶとは。劉翔宇と玲莉お嬢様が喧嘩でもしたのか?)
白庭の予想は外れていたが、玲莉お嬢様に関する情報であることには間違いなかった。
「それと若様、冬陽からも文が届いております」
先程までのうれしそうににやけた表情から打って変わって、真面目な表情に変わっていた。
(さて、建明は何をしているのだろうか)
孟景天が冬陽からの文に目を通すと、建明は孟景天の予想通りの行動をとっていた。
「白庭、まずいぞ。建明が曽の皇帝に玲莉が聖女であることを漏らしたようだ」
「若様、このままでは玲莉お嬢様の身が危険にさらされるのではないでしょうか?」
孟景天は頭を手で軽く叩きながら、何か策を考えているようだった。
「白庭、曽の者が陛下に接触してこないか見張っておけ。動きがあったらすぐに報告を。くれぐれも誰にも見つからないように」
「御意」
白庭が地下の部屋から出ようとした時、思わぬ人物たちとぶつかった。
「逸翰様、紫睦」
逸翰と紫睦は王家に帰ってきてすぐその足で、孟景天に会いに来ていた。
「お二人が帰ってきたということは何か収穫があったということですね」
「はい、これを見てください」
逸翰は任朗からもらったある一冊の書物を渡した。
孟景天は受け取ってすぐ、黙読し始めた。
「やはり・・・私の考えは当たっていたようですね」
孟景天は次々読み進めながら、自分の仮説が正しかったことに喜んでいるようだった。
「逸翰も見ましたか?」
「いえ、最初の頁を読んだだけで、驚きのあまり、読むことができませんでした。この書物は父と若様に最初に読んでいただかないといけない代物だということがわかりました。
「逸翰、何を言っているのですか?これは逸翰の今後にも関わることなのですよ」
「それはそうなのですが・・・恐れ多くて」
「逸翰が言うこともわからなくはないですが、なんせ王家は・・・」
「若様、それ以上は言葉にしないでください。身震いしそうです」
「どうしてですか?堂々としていればいいですよ。それに、私の方が逸翰に跪かないといけない立場ですよ」
孟景天は王浩の子供たちが皆、丞相という高貴な身分の息子や娘たちでありながら、謙虚であることを理解していた。
(やはり、王家の者がふさわしい)
「白庭、王丞相の家族を呼んでくれ?それと・・・」
孟景天は今まで我慢していたが、とうとう我慢できなくなった。
「逸翰、紫睦、何日湯あみしていないのですか?この地下の部屋は密室なのですよ。臭くてたまりません」
逸翰と紫睦は自分自身を嗅いでいたが、孟景天の言うとおりだった。
「これは申し訳ないです。一刻も早く若様にお見せしたかったので・・・あっ!」
逸翰は思い出したかのように玉佩を取り出した。
「これもその書物をくださった老人からいただいたものなのですが」
逸翰は孟景天に渡そうと近づいたが、手だけ出され、身体は引いていた。
逸翰はその姿に噴き出しながら、孟景天の手のひらに玉佩を置いた。
(・・・玲瓏?玲瓏って、たしかこの書物の中に書かれていた申玲瓏のことか?だとするとこの玉佩は・・・)
孟景天は蝋燭の灯りで玉佩をじっくり観察していた。
集中してる孟景天には声をかけず、逸翰と紫睦は湯あみへ直行した。白庭も一礼し、王浩たちを呼びに出た。
「春静?何をしているの?」
春静が辺りを見渡して挙動不審な動きをしていたので、玲莉は気になって声をかけた。
「いえ、その・・・私も辛圓に見倣って、不審者がいないか見張っていたのですよ」
「私には春静が不審者に見えたけど。どうせ・・・景天に文でも送っているのでしょう?」
「えっ!?なぜわかっ・・・しまった!」
春静は両手で自分の口を手で押さえたが、時すでに遅かった。
「やはりそうだったの?春静を楚の送り込んだのは景天でしょう?私の様子を逐一報告していたのでしょう」
春静は苦笑いをしているかと思ったら、急に泣きそうな顔になり、跪き、謝った。
「いいわよ。それで、どんな文を送ったの?」
「それは・・・」
春静は口が裂けても言えなかった。文に書いた内容のほとんどが玲莉と劉翔宇との関係についてであった。それも春静が知っている玲莉と劉翔宇との親密な様子まで事細かに知らせていた。
「それは・・・」
「春静、あなたは私の侍女でしょ?なぜ景天の言うことを優先するの」
「わかりました。でも、玲莉お嬢様。これだけは言わせてください。私は玲莉お嬢様の事を一番に考えています。お嬢様のためならいつでもこの命捧げられます。・・・ですから・・・怒らないでくださいね」
「春静の私に対する忠義は十分伝っているから。怒らないわよ。それで、どんな文だったの?」
「本当に怒らないでくださいね」
春静の口から文の内容を聞いた玲莉は激怒した。
「春静ー!!」
「お嬢様ー、怒らないと言ったではありませんかー」
春静によって玲莉の身に起きた全ての出来事を孟景天に知られていたことを、玲莉は今知ることとなった。




