十七、人たらしの娘
孟景天は羅洋の調査で藩弘と鐘峰峻が王吉祥と孟景天が同一人物ではないかと疑っていたことをすでに知っていた。
孟景天はもし藩弘と鐘峰峻が王吉祥の正体見破ろうとした時のために、羅洋に本物の王吉祥を丞相府へ連れてくるよう命じていた。
「陰で様子を見ていましたが、驚きましたよ。まさか、背中のあざのことも知っているとは思いもしませんでした。それにしてもさすが王家の血筋ですね。少し状況を話しただけで、理解してくれましたから」
王吉祥は笑みを浮かべながら、孟景天に謙虚な姿勢でお礼を述べていた。
「前もって知らせてくださいよ、若様。私がどれほど焦っていたことか」
「申し訳ございません。敵を騙すには先ず味方からというでしょう?」
王浩は呆れた顔をしながらも、安堵していた。
「それで、若様の身体の具合はもう大丈夫なのですか?」
「はい、問題ありません・・・私は・・・」
孟景天は陳太医が言っていたもう一つの弱い脈が、何を表しているのかわかっていた。
「王丞相・・・玲莉の身に何かあったかもしれません」
「!!!」
王浩は自分の娘の危機に居ても立っても居られなかった。
「安心してください。危険は去ったようです」
「なぜ、わかるのですか?」
孟景天は左胸に手を当てて、何かを感じていた。
「私の身体は玲莉とつながっているようです。私が高熱でうなされたのは玲莉の身に何か起きたからです。しかし、急に身体が回復してきました。玲莉が救われたのかどうかはわかりませんが、少なくとも今は危険な目には遭っていません」
「玲莉とつながっている・・・?」
王浩は思い当たる節があった。水晶玉の時も玲莉の身体が傷つくと、孟景天も玲莉と同じように身体が傷ついていた。
「それで、これから吉祥はどうするのですか?」
「もちろん、これからは王吉祥として楚へ玲莉奪還に行ってもらいます。しばらくは王吉祥が孟景天だという疑いは晴れないでしょう。ですが、もしもの時のために、王吉祥本人が王吉祥として行動した方がよいでしょう。剣の腕を確認しましたが、なかなかのものです。蘭玲といい勝負でしょう。これなら問題ありません」
「そうですか。それにしても、吉祥、よく家から出てこれたな。母親が亡くなって、家に閉じこもっていると聞いたのだが」
王吉祥は悲し気な遠い目をしながらも、何か吹っ切れたように笑顔を見せた。
「たしかに母上を亡くした悲しみから、私は家に閉じこもっていました。いつものように剣を振り回していたら、羅様がいきなり現れまして。『若様と玲莉お嬢様を助けてください』と懇願してきまして。若様が誰であるかはわかりませんでしたが、玲莉のことは知っています。本当に無邪気な子で。最後に会ったのは私が十五で、玲莉が十の時だったと思います。あの時の私は父上からの重圧で心が弱っていました。私は明らかに沈んでいたのですが、玲莉はそんなことおかまなしに私を連れまわしたのです。どれだけ癒されたことか。その玲莉を助けてほしいと言われたのです。男として黙っているわけにもいけません」
王吉祥は勇ましく、キリッっとした表情で述べていた。
孟景天は王吉祥が玲莉に気があるのではないかと思い、不機嫌になっていた。
「そうなのです、王丞相。わ・た・し・の玲莉を助けるために協力してくれたんですよ」
「玲莉は孟様の許嫁だったのですか。しかし、その許嫁をみすみす楚へ連れ去られるとは」
孟景天と王吉祥は気味の悪い笑顔をお互いに向けながら、いがみ合っていた。
「では若様は楚へ行かないのですか?」
王浩は二人の注意をそらすため、孟景天に質問をした。
「もちろん行きますよ。王吉祥の従者として」
王吉祥は少し嫌な顔をしていたが、孟景天はよろしくお願いしますといって、満面の笑みを見せていた。
(この二人一緒に行かせて大丈夫なのか?逸翰がいるから問題ないか・・・いや、逸翰も玲莉を溺愛しているのだった。玲莉はどうしてこうも・・・)
王浩は孟景天と王吉祥を見ながら、頭を抱えていた。
「翔宇兄上、明日には玲莉帰って来るので、いい加減落ち着いたらどうですか?」
劉翔宇は玲莉が劉若㬢と皇宮を出てから、ずっと落ち着きのない様子だった。
「他の女には目もくれないのに、好き女がそばにいなくなった途端これだもの。翔宇兄上と婚姻したら玲莉は毎日大変そうですね」
「何が大変だ。毎日、幸せになるはずだ」
「私が言っているのは夜のことですよ」
劉翔宇は玲莉との情事を想像したのか、耳まで赤く染まっていた。
「それは・・・ほどほどにする。許嫁もいないお前に言われたくないぞ」
劉長寧は劉翔宇をからかうように舌を出していた。
「長寧、翔宇をからかうのもそれくらいにしなさい」
「昇豪兄上!」
劉昇豪は余妙を連れて、仲睦まじく二人の前に現れた。
「長寧もそのうちわかるさ。翔宇の気持ちが」
「どうせ私にはわかりませんよ。昇豪兄上もよかったですね。永楽兄上から手を付けられていなくて」
「長寧!」
劉昇豪は指をさしながら、劉長寧を怒っていたが、劉長寧は余妙の後ろに隠れた。
「義姉上、もし昇豪兄上の寵愛に耐えられなかったら言ってくださいね。父上に頼んで注意してもらいますから」
劉翔宇と劉昇豪は劉長寧のわざと追いかけまわし、懲らしめていた。
余妙はそれを見ながら、くすくすと笑っていた。




