十九、波乱の妃選び
玲莉は朝餉を食べている時、王浩に話しかけられた。
「玲莉、明日、楚の皇太子の妃選びがあるのだが、お前も参加しろと陛下からお呼びが来た」
玲莉は不思議に思っていた。李建明という許嫁がいながら、なぜ妃選びに呼ばれるのかと。
「なぜ、私が?そもそも楚の皇太子がなぜ魏の国で妃選びをされるのですか?」
「私も詳しくは知らないが、楚の皇帝が和平の条件として出してきたのが、楚の皇太子とこの国の令嬢が婚姻することだ」
「それなら、私が呼ばれる理由はなぜですか?建明殿下がいるのに」
「私もそれは知らない。お前を楚に渡すことはないだろう。しかし、注意しろ。楚の皇太子は腹黒皇子と呼ばれている。お前のそばにいたいが、私は参加することができない。しかし、李義皇太子殿下も建明殿下も参加するから、困ったら二人を頼れ」
玲莉はなぜ自分が呼ばれたのかわからなかったが、皇帝からの命であるため、仕方なく行くことにした。
(まさか、私が聖女であることが楚の皇太子にバレたとか。でも、会ったこともないしな。まぁ、建明殿下がいるなら私が選ばれることはないだろうし。妃候補を見学するつもりで行こう)
玲莉は軽い気持ちで行こうとしていたが、この妃選びが玲莉にとって波乱の人生の幕開けになるとは夢にも思っていなかった。
皇帝が催す楚の皇太子劉翔宇の妃選びには玲莉を含め五人の令嬢たちが集まっていた。
将軍の娘の袁暁、大尉の娘の馬翠、県令長の娘の秦玉蘭、国随一の富豪の娘の丁曼婷、いずれも十七、八くらいでまだ婚姻が決まっていない者たちだった。
その場には王玲莉もいたため、令嬢たちは不思議に思っていた。
玲莉は建明の隣に座っていたが、李義が来ると玲莉の隣に当たり前のように座った。
「皇太子殿下の席はあちらですよ」
「私はここがいいのです」
「皇太子殿下、あらぬ誤解を生みますので、席についてください」
「建明、私を玲莉から引き離せると思っているのですか」
皇帝が現れると、皆その場に立ち上がり、挨拶をした。
「義、お前の席はそこではないだろう」
李義は悔しかったが表情には出さず、自分の席に戻った。
建明はそれを見て、あえて玲莉の肩を抱き寄せ、近づけた。
李義は鋭い眼光で建明を睨みつけていた。
「楚の皇太子、劉翔宇殿下が入られます」
玲莉と建明はその姿を見て、驚愕した。
「韓宇さん?」
劉翔宇は玲莉を見て、微笑んだ。
そのまま、皇帝へ挨拶した。
令嬢たちは甘い顔をした皇太子に胸をときめかせていた。
劉翔宇も席に座り、妃選びがはじまった。
令嬢たちは積極的に劉翔宇に質問していた。
玲莉と建明は二人でこそこそと話していた。
「まさかあの人が楚の皇太子殿下だったとは意外ですね。なぜあの時教えてくれなかったのでしょうね」
「妃選びで来ているのだから、身分を隠すのも当然だろう。私も皇族であることは言ってなかったからな。しかし、あの様子では、私たちのことは調べたのであろう。私たちを見ても驚いていなかったし」
二人がこそこそ話す様子に李義は苛立っていた。
「私からも質問をいいですか?」
そう言って劉翔宇と目が合った玲莉は嫌な予感がした。
「玲莉お嬢様、先日は偽名を名乗って申し訳ないです。本当の名は劉・・・翔宇と言います。聞き覚えはないですか?」
玲莉は考えたが、聞き覚えのない名前だった。
「そうですか・・・」
(秀英・・・俺の名前は変わってないんだよ。翔宇のままなのだ。なのに名前すら憶えていないのか)
劉翔宇は微笑んでいたが、どこか悲し気な雰囲気だった。
令嬢たちは皆選ばれたい一心であれこれ劉翔宇に世話を焼いていたが、劉翔宇の心には響いてないようだった。
玲莉はずっと劉翔宇から見られている視線を感じ、劉翔宇を見ることができなかった。
(自意識過剰なのかな。いやでも、いつ見ても翔宇殿下と目が合う。絶対私を見てるよね)
玲莉はどこを見ればよいか分からず、李義を見た。しかし、李義も玲莉をずっと見ているようだった。
(私どこを見ればいいの?)
建明は玲莉の異変に気づき声をかけた。
「玲莉、どうした?気分でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です。気にしないでください」
「そうか。何かあったらすぐに言ってくれ」
そう言って建明は玲莉に笑顔を向けた。
(建明殿下の隣が一番落ち着く)
玲莉は建明が許嫁で本当に良かったと思っていた。
「翔宇殿下、気に入った令嬢はいたか?」
「えぇ、陛下。陛下も誰を選ぶかご存じのはずです」
皇帝は薄ら笑いをしながら、わからないふりをしていた。
「では、はっきり申し上げます。私は王玲莉を妻に迎えたいです」
皇帝は予想どおりの答えで、苦い顔をし、他の皆は一斉に玲莉を見ていた。




