十七、腹黒皇子
「陛下、王家を襲撃した者の首謀者が判明しました」
皇帝は手を止めて、皇帝直属の暗密部隊隊長羅洋の話に耳を傾けた。
「王家襲撃を計画したのは北誠王李誠明です」
「そんな馬鹿な!」
皇帝は思わず声を荒げて立ち上がった。
「陛下、間違いありません」
皇帝は信じられない表情で、ゆっくりと座った。
「目的は何だ?」
「調査に基づいた予想ではありますが、一つは皇太子の李義を消して、自分の息子を次期皇帝の座に就かせること、そして、王玲莉を利用して、李義を皇太子の座から引きずり降ろそうとしていたかと。皇太子殿下は王玲莉を慕っておりますから、誘拐でもすれば、今の皇太子殿下なら王玲莉のために皇太子の座は譲るでしょう。失敗に終わりましたが。しかし、その襲撃で王玲莉が聖女である秘密を知ったかと思われます。息子の建明が許嫁であることから、建明と王玲莉が婚姻した後に、陛下と皇太子殿下を暗殺するつもりかと」
皇帝は怒りのあまり思い切り机を叩いた。
羅洋は皇帝が怒りをあらわにしている様子に、顔には出さなかったが、緊張していた。
皇帝と弟の李誠明は比較的仲の良い兄弟だった。誠明は一度も皇帝に歯向かったこともなく、むしろ、従順だった。皇帝はそんな弟に良い待遇を与えていた。
全ての言動が偽りだったのかと考えると今すぐにでも誠明を呼び出して、斬りかかりたいという思いだった。
「しかし、誠明はなぜ聖女の存在を知っていたのだ。まるで、聖女が存在していることを確信しているようだな・・・。羅洋、晨明と建明は父親の計画を知っていたのか?」
「いえ、お二人は全く知らなかったようです。もう一つ言い忘れていました。王家襲撃には誠明の配下ともう一つ謎の組織が関わっていました。こちらに関しては、どうやら全員殺されており、誰の指示なのかは不明です。ただ、こちらの者たちは殺意はなかったようで、何がしたかったのか目的がよくわかりませんでした」
(たしかに、目的がわからないな。全員殺されているなら、今は考えなくてもよいか。問題は誠明をどうするか・・・)
「玲莉が建明の妻になるのだから、今は安心して何も手を出してはこないだろう。しばらくは様子を見よう。しかし、誠明の動きは見張っておけ。晨明と建明もだ。何かあればすぐに報告しろ」
「御意」
(玲莉は義と婚姻させるべきだったか・・・)
皇帝はある決断をしようとしていた。
「陛下、楚の皇太子が来られました」
(ようやく姿を現したか。予定よりかなり遅かったな)
「劉翔宇、皇帝陛下に拝謁いたします」
「面をあげよ」
劉翔宇の顔立ちは甘い顔をしており、間違いなく高貴な令嬢たちも飛びつくような美男だ。
「劉翔宇殿下、貴国の皇帝からの文の件だが、あいにく朕も弟にも娘はいない。それで、我が国の高官たちの娘たちを集めた。礼儀、教養、美貌、全てを兼ね備えた者たちを選んでいる。希望にそえるかわからないが、劉翔宇殿下自ら選んでいただきたい。妃選びの席を設けよう」
「陛下、お心遣いに感謝します。私からも希望を伝えてもよろしいですか」
皇帝は快く承諾した。
「王丞相の娘、王玲莉をその場に呼んでいただけないでしょうか?」
皇帝は知るはずのない王玲莉の名前が出て、動揺してしまった。
「申し訳ない。王玲莉はすでに許嫁がいるゆえ、呼ぶことはできない」
「存じています。それでも呼んでいただきたいのです。いや、陛下は呼ばざるを得ません。私たちの国に借りがあるはずです」
「何のことだ」
劉翔宇は不敵な笑みを浮かべながら、皇帝に耳打ちした。
それを聞いた途端、皇帝の表情が青ざめていった。
「なぜお前がそれを・・・」
「では陛下、王玲莉をよろしくお願いします」
劉翔宇はにこっと笑って、皇帝の前から立ち去った。
皇帝は劉翔宇を睨みつけながらつぶやいた。
「噂通りの腹黒皇子だな・・・。しかし、なぜ王玲莉のことを知っている・・・」
「殿下、上手くいきましたか?」
「あぁ、予定通りだ」
(必ず秀英に私を思い出させて、楚に連れて行く)
劉翔宇の頭の中には玲莉のことしか考えられなかった。そのためには何でも行う覚悟であった。




