十六、記憶から消された人
玲莉が倒れたことを聞きつけ、勇毅が駆けつけていた。
「玲莉、調子はどうだ?起きれそうか?」
「はい、大丈夫です」
ようやく起き上がれるまで回復し、勇毅の手をとり、立ち上がった。
「建明殿下、ありがとうございます。黒風が玲莉のことを父上に知らせてくれたのですが、父上は来ることができませんでしたので、代わりに私が」
「こちらこそ申し訳ない。玲莉を喜ばせようと思ったのだが、馬車に巻き込まれそうになったり、意識を失ったりと。しばらく、外に出るのは控えないといけないな」
玲莉は残念そうな顔で勇毅と建明を見ていた。
「玲莉、そんな顔してもだめだぞ。心配させないでくれ」
勇毅はまだ十五と子供でありながら、聖女であることがわかった妹が、今後今までのように自由にはできないことを考えると、やるせない気持ちだった。
「玲莉お嬢様、お身体の具合はどうですか?」
韓宇が玲莉の様子を見に訪ねてきた。
「勇毅兄上、この方が私を助けて下さった方です」
勇毅は韓宇に一礼をして、挨拶をした。
「玲莉の兄の王勇毅と申します。この度は妹を助けていただき、感謝します。ぜひ、お礼をさせてください」
「韓宇です。気になさらないでください。私はたまたま助けることができただけですから。お嬢様が無事でなによりです」
勇毅は王家の者として、お礼をしたかったのだが頑なに断られたので、もう一度お礼だけ述べた。
「では、馬車を待たせていますので、失礼いたします」
勇毅は玲莉の手を取り、部屋を出て行った。
建明と春静も韓宇に一礼をし、勇毅たちの後をついていった。
「殿下ー!」
玲莉たちが帰ったすぐ、入れ違いで黄飛が戻ってきた。
「殿下、わかりました」
黄飛は王玲莉と李建明について調べてきた情報を韓宇に伝えた。
韓宇は玲莉が記憶喪失だと聞き、今までの言動から納得した。
(玲莉が私を見ても何の反応もしないわけだ。私のことは記憶から消えているのか・・・。必ず思い出させてやる)
しかしその後、建明が許嫁であること、皇太子李義も玲莉を狙っていることを聞いて、今にも怒り狂いそうになっていた。
(どうしたら私のことを思い出してくれるだろうか。秀英・・・いや、今は玲莉か。玲莉が私を思い出せば、きっと・・・)
「殿下、それとあと一つ。王家が襲撃されたそうですが、そこで深手を負った王勇毅がすぐに回復したそうです。どうやら、王玲莉が関係しているようですが、これ以上はわかりませんでした」
「その時は王家の者しかいなかったのか?」
「いえ、魏の皇太子李義が玲莉を訪ねていました。李建明も後から来たようです」
(ということは、二人は何があったのか知っているということか・・・。この手の調査に関しては黄飛は優秀だ。その黄飛が調べてもわからないということは、よほど知られてはならない秘密なのだろう・・・。まずは皇太子として接触するか)
「黄飛、魏の皇帝李叡に会うぞ。妃選びを行うとしよう」
今まで逃げてばかりだった韓宇がようやくやる気を出し、皇帝である韓宇の父から叱られずに済むと黄飛は安堵していた。
「玲莉、あの韓宇という男に会ったことあるのか?」
建明は韓宇が玲莉に向ける表情が初対面ではないような気がしていた。
「わからないです。もしかしたら、過去に会ったことがあるのかもしれませんが、覚えていませんし。春静も知らないそうです。でも、なんだか懐かし感じがしました」
(それにあの人はわたしの秀英という名前を知っていた。まさか、あの人も前の世界から来た人?私の知り合いなのかな?直接聞きたいけど、違っていたら、中身が玲莉でないことがバレちゃうし。もう、会うこともないのかな)
「玲莉、建明殿下は不安なんだよ。皇太子殿下に続いて、また違う男に玲莉を取られるのではないかと」
「勇毅、余計なことを言うな」
建明は顔を真っ赤にし、照れていた。
玲莉は建明の腕をつかみ、肩に寄りかかった。
「安心してください。私が好きなのは建明殿下ですから」
建明はうれしさのあまり、玲莉を抱きしめようとしたが、勇毅がいる手前、やめた。しかし、顔はわかりやすいくらいにやけていた。
(玲莉だったらきっと建明殿下にこう言うはず)
勇毅は建明と玲莉の二人を見ながら、複雑な思いだった。
(父上もこういう気持ちだろうか。妹を取られるみたいで複雑だな。目の前で見るのは心が苦しいな。私も玲莉のことが愛おしすぎるのだな)
勇毅はそんなことを思いながら、二人を優しい目で見ていた。




