八、右腕に圧し掛かる重責
楚の皇族との顔合わせまであと二日まで迫った頃、玲莉の莉花宮に珍しい人物が尋ねてきた。
「若㬢姐さん、お久しぶりです。今までどこに行っていたのですか?」
「久しぶりだね、玲莉。楚に帰ってきたから、お世話になっていた人たちに挨拶をしに回っていたのよ。玲莉の周りも随分賑やかになっているわね」
玲莉は春静、晩夏、秋菊を見ながら、嬉しそうに笑顔を見せていた。
劉若㬢が玲莉を手招きしていたので、玲莉は不思議な顔をしながら、劉若㬢に近づいていった。
「玲莉、この三人は玲莉が聖女であることを知っているのかしら?」
玲莉は笑みを浮かべながら、頷いた。
「この三人は大丈夫です。聞かれて困ることは何もありませんので、安心して何でも話してください」
玲莉の表情を見て、劉若㬢は安心した。
「それから、玲莉、この腕輪を返すのを忘れていたわ」
劉若㬢は玲莉の左手を取り、翡翠の腕輪をつけた。
「ありがとうございます、若㬢姐さん。若㬢姐さんが持っていたのですね。あの後、どこにいったのかなと思っていたのですよ。これは母上からの贈り物だったので」
「劉将軍が拾って、玲莉に渡してくれと。玲莉、どうして私が贈った翡翠の腕輪ではなくて、母からの贈り物を渡したの?母からもらった翡翠の腕輪の方が大切だったでしょう?」
久しぶりに揃った両腕に輝く翡翠の腕輪に、玲莉は感極まっていた。
「本当は母上の翡翠の腕輪を手放したくなかったですけど、若㬢姐さんからもらった翡翠の腕輪は・・・誰にも渡してはいけない気がして・・・きっと聖女の私が持っていないといけないものだと思ったので・・・」
劉若㬢は玲莉の手を握りながら頷いていた。
「その通りよ。この腕輪は普通の翡翠の腕輪と違うのよ。玲莉、腕輪を覗いて見て」
玲莉が翡翠の腕輪を覗くと腕輪の中に小さく光り輝く、何かが見えた。
「これは・・・!?水晶玉!?」
玲莉は劉若㬢を見ながら、不安そうな顔をしていた。
「若㬢姐さん、これは一体・・・水晶玉がなぜ腕輪の中に?」
劉若㬢は両手を上げ、お手上げのポーズをとっていた。
「わからないわ。水晶玉は魏で長年保管されていたはずよ。私にも詳しいことはわからないのだけれど、聖女と水晶玉は引き合わせてはならない・・・と私は聞いていたわ。この大陸全土が一瞬でなくなるほどの壮大な力を手に入れるからだと・・・」
玲莉は険しい表情をし、手が震えていた。
「でも、安心して。今の玲莉にはまだその水晶玉を引き出す力はないはずだから。二日後に劉一族が集まるから、その後、玲莉についてきてほしいところがあるの。玲莉は知る必要があるわ。隠された聖女の秘義を。ただ、そこは聖女しか入ることができないから、私も何が隠されているのかまでは知らないの。聖女の運命がそこで左右されるとだけは聞いているわ。どんな運命が託されるのかわからないけど・・・」
玲莉は右腕が急に重くなったように感じていた。
(私は聖女について知るために楚まで来た。どんな運命が定められているかわからないけど、もし悲惨な運命しか辿れないなら、力づくでも抗ってやる)
「若㬢姐さん、どんな運命でも受け入れます。私をそこに連れて行ってください」
玲莉は覚悟を決めた。
「玲莉ー、玲莉」
晩夏が戸を開けると両手いっぱいに玲莉への贈り物を持って、劉翔宇が玲莉に会いに来た。
「叔母上、ここにいたのですか?父上が呼んでいましたよ。帰ってきたのに顔も出さないと。叔母上がいない間に叔母上の宮も父上が用意してくれたみたいですよ」
「わざわざ宮を?私はどこで寝てもいいのに」
「叔母上、楚に出戻ったとはいえ、一応、皇妹なのですよ。早く父上に会いに行ってください」
劉若㬢はにやにやしながら劉翔宇の肩を力強く叩いた。
「皇太子殿下、私を追い出すための口実ではないでしょうね?」
劉若㬢は玲莉をちらっと見た。
「ち、違いますよ。心外だな。本当に父上が待っていますから」
劉若㬢は鼻で笑いながら、玲莉にまたねと声をかけ、部屋から出て行った。




