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転生聖女ー運命に抗う姫と三人の皇子ー  作者: 日昇
第一章 三人の皇子との出会い

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十五、呼ばれるはずのない名

甘い顔をした青年は玲莉(リンリー)を抱きかかえたまま、玲莉を見つめ、止まっていた。

「あの、恥ずかしいので下ろしてもらえると助かるのですが・・・」

青年は謝りながら、玲莉を下ろした。

「助けてくださりありがとうございます」

玲莉はお辞儀をして、微笑んだ。

(やはり、間違いない・・・)

青年は玲莉に話しかけようとしたが、春静(チュンジン)が飛びかかるように玲莉に抱きついてきた。

「玲莉お嬢様、無事でよかったです。お嬢様を危険な目にあわせるなんて、侍女失格です」

「春静、私は大丈夫だったんだから、そんなに自分を責めないで」

玲莉は鼻水を垂らしながら泣く、春静を優しい表情で慰めていた。

(玲莉・・・?)

青年は玲莉をじっと見つめていた。

「玲莉ー!」

玲莉の名を叫びながら近づいてきたのは建明(ジェンミン)だった。

「何かあったのか?春静。なぜ、泣いている」

春静は馬車が暴走し、巻き込まれそうになったところを青年に助けてもらったことを建明に説明した。

建明はそれを聞いて、玲莉をくるくる回しながら、頭からつま先まで怪我がないか確認していた。

玲莉は笑いながら大丈夫ですよと言っていた。

「すまなかった。私が玲莉から離れたばかりに」

建明は青年に近づいて、

「玲莉を助けて下さりありがとうございます。ぜひ、お礼をさせていただきたい」

「いえ、気にしないでください。たまたま通りかかっただけですから」

「では、名前だけでも。私は李建明(リージェンミン)と申します」

「私は・・・韓宇(ハンユー)と申します。私の従者の黄飛(ホアンフェイ)だ」

「私は王玲莉(ワンリンリー)です。私の侍女の春静です」

韓宇は玲莉から目が離せなかった。

(間違いない。でも、私の顔を見ても何も反応がない。どういうことだ?)

「一つ玲莉お嬢様に聞いていいですか」

玲莉は笑顔でいいですよと答えた。建明は少し警戒していた。

「どこかでお会いしたことはありませんか?」

玲莉は韓宇の顔をじっと見つめながら考えていたが、会った覚えはなかった。

「初めてお会いすると思います」

「そうですか・・・。変なことを聞いて申し訳ありません」

韓宇は悲しい顔で微笑んだ。

(この人を見ると胸が苦しくなるのはなぜだろう。でも、この人の顔は私の記憶の中にはないからな・・・)

建明は玲莉の手をとり、韓宇に一礼し、帰ろうかと言って馬車を待たせているほうへ歩き出した。

玲莉も頷き、韓宇にもう一度感謝を述べ、建明と仲良く話しながら帰っていた。

(なぜ君は私を忘れている・・・俺は君と過ごした全ての日々を鮮明に覚えているのに。なぜ、俺ではない男と手をつないで楽しそうに歩いているのだ。なぜ・・・)

韓宇は心の痛みに耐えられず、叫んだ。

秀英(シューイン)ー!」

玲莉は思わず振り返ってしまった。

(なぜ、あの人が私の本当の名前を知っているの?)

韓宇は満面の笑みで玲莉を見ていた。

(やはり、秀英だ)

玲莉の頭の中に少しだけ記憶がよみがえってきた。その記憶は、韓宇に似た人物が前の世界で自分の名前を呼ぶ声だった。

(なぜ、この人が?なぜ、私の名前を呼んでいるの?だめだ、わからない)

玲莉は激しい頭痛に襲われた。

建明や春静が玲莉に声をかけていたが、玲莉には聞こえていなかった。

よみがえった記憶の中で玲莉は韓宇に似た人物の名前を呼んでいた。

翔宇(シャンユー)・・・」

玲莉はそのまま意識を失った。




玲莉が目を覚ますと手を握って不安そうに見つめている建明の姿があった。

「玲莉、目が覚めたか。私が誰かわかるか?」

「建・・・兄・・・」

建明はその言葉に安心した。

「建兄、ここはどこ?」

「あぁ、韓宇さんの宿屋だよ。たまたま近くだったから、ここに運ばせてもらった。気分は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。韓宇さんにはまた迷惑かけてしまいましたね」

「玲莉お嬢様、心配させないでくださいよ」

春静はそう言いながら、涙を拭いていた。

「さて、このお礼に何をしてもらいましょうかね」

韓宇がいたずらっぽく笑いながら近づいてきた。

玲莉はお礼を言おうと起き上がろうとしたが、起き上がれなかった。

「玲莉、無理するな」

建明は玲莉を優しく寝かせ、布団をかけてあげた。

「玲莉お嬢様、しばらくここを使って構いませんから、ゆっくり休んでください。私たちは隣の部屋を用意してもらいましたので」

「韓宇さん、申し訳ありません。ご迷惑をおかけします」

「気にしないでください」

「韓宇さん、私からも礼を言う。ありがとうございます」

韓宇は玲莉に向かって、優しく笑いかけ、部屋を出ていった。




「殿下、なぜ偽名を使われたのですか?楚の国の皇太子と名乗ればよかったですのに」

「黄飛、王玲莉と李建明について調べろ」

「二人に何かあるのですか?そういえば殿下、あの娘ばかり見ていましたね。もしかして・・・」

「いいから早く行け」

韓宇が少し強い口調だったので、黄飛は驚きながら、部屋を出て行った。

(玲莉はたしかに言っていた。翔宇と。もしかして、本当は覚えているのか?でも、演技しているようには見えない。私のことを知らないふりする理由もない。何かあるはずだ。侍女がいるぐらいだから、おそらく、高貴な生まれの娘なのだろう。それならば・・・)

韓宇は心を落ち着かせながら、黄飛の報告を待った。


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