十四、再会
「なかなか上手くいかないものだなー」
玲莉は朝から力の発動方法を模索していた。
(体の中に何かの力を感じるようにはなったけど、それを上手くコントロールするどころか、どうすれば力を発揮できるのかすら全然わかんない)
玲莉は休憩と言って、寝台に倒れ込んだ。
「玲莉お嬢様、そう焦っては上手くいきませんよ。何かきっかけがあるはずですよ。何か思い当たらないのですか?」
「きっかけね・・・」
(といっても勇毅兄上の時も父上の時も必死だったからな。それに、自分で力を引き出すというよりかは、誰かに勝手に操られていた感覚に近いからな。本物の玲莉はある程度はコントールできていたはず。やっぱり私じゃ無理なのかな)
玲莉は寝台でゴロゴロしながら、考えていた。
「玲莉ー」
外から声がしたので、春静が戸を開けると、そこには建明がいた。
玲莉は慌てて飛び起きた。
「建明殿下、今日はどうしたのですか?」
「玲莉も回復したし、久しぶりに町に行かないか?玲莉は忘れているだろうけど、よく二人で行ってたんだよ。もしかしたら、何か思い出すかもしれないし、どうかな?甘いものもたくさんあるぞ」
「甘いもの・・・」
玲莉は満面の笑みで承諾した。
「殿下、逃げても無駄なのですから。時間を潰してないで行きましょう」
「・・・。しかし、魏は公主はいないのであろう。父上は何を思って、魏の皇帝に私と公主との婚姻を提案したのだ」
「陛下は魏の出方をうかがっているのですよ。公主がいないなら、どんな娘を楚の国の皇太子と婚姻させるのか」
「私には心に決めた人がいると言ったのに」
「でも殿下、その娘はどこにいるのかわからないのでしょう」
殿下と呼ばれる男は、ムッとして従者に殴るふりをしていた。
「どいてくれー!どいてくれー!」
遠くから暴走した馬車が駆け抜けていた。
人々が避ける中、避けた男が一人の娘にぶつかり、その娘は思い切り転んだ。
その娘が立ち上がろうとしていたが、暴走する馬車がすぐそこまで来ていた。
「お嬢様ー!」
その娘は避けられないと思い、目をつむった。男は咄嗟にその娘に駆け寄った。
娘がゆっくり目を開けると、甘い顔をした青年から抱きかかえられていた。
その青年は娘が目を開けた瞬間、驚愕した。
「やっと・・・やっと」
◇◇◇この出来事より少し前◇◇◇
「わぁー、すごい!」
玲莉は馬車の中から、感嘆の声をあげていた。
(よく見る時代劇のセットみたい。本当にこんな世界だったんだ。新鮮で楽しい)
玲莉、建明、春静、黒風は近くの町を訪れていた。
「前に玲莉と来たことがあったが、玲莉は覚えていないだろう。今日は好きなだけ欲しいものを言ってくれ。全部買ってあげるよ」
玲莉は建明にお礼を言いながら、目を輝かせていた。
「建明殿下、あまりお嬢様を甘やかさないでくださいね」
「もっと甘えてほしいくらいだよ」
建明はそう言いながら、玲莉の頭を優しくなでていた。
「玲莉、今日は建兄と呼んでくれ。皇族が来ていると知られると町民もかしこまるから。玲莉には楽しんでもらいたい」
「わかりました。えっと・・・建・・・兄?」
「久しぶりにそう呼んでもらえるとうれしいな」
玲莉と建明は仲睦まじく笑い合っていた。
春静はため息をつきながらも、うれしそうに玲莉を見ていた。
「玲莉、走らないで。危ないから」
玲莉は興奮して、あちこち店を見て回っていた。
建明は玲莉に手をつかみ、
「玲莉、ゆっくり見て回ろう」
(私、中身二十五なのに何子供みたいにはしゃいでいるんだろ。恥ずかしい)
玲莉は反省し、建明と手をつないで歩いた。
玲莉は装飾品を売っている店で立ち止まった。
「綺麗・・・」
玲莉は花の飾りがついた簪に目が留まった。
「この花は何の花ですか?」
「これは茉莉花だよ」
「茉莉花」
(たしか、ジャスミンだったかな。玲莉の名前にも莉が入ってるし、これ買おう)
「玲莉、これ気に入ったのかい?」
「はい、でもこれは自分で買いますよ」
建明は玲莉に笑いかけ、店主に銀子を渡した。
建明はその簪を玲莉の頭にゆっくりと挿した。
「似合っている。玲莉、綺麗だよ」
「ありがとうございます。建兄」
玲莉の笑顔は建明にはまぶしく輝いて見えた。
(これだから絶対に手放せないのだよ)
建明は照れている自分の顔を見られたくないと思い、違うところを見てくると言って玲莉から離れていった。黒風も困った顔をしながら、玲莉に一礼をし、建明の後を追った。
(建明殿下照れていたわね。可愛い)
玲莉と春静が歩いていると、後ろから叫び声が聞こえてきた。
「どいてくれー!どいてくれー!」
「玲莉お嬢様、馬車が暴走しているみたいです。危険ですから離れましょう」
「そうね」
二人が逃げようとした時だった。一人の男が玲莉にぶつかってきた。男は振り向くこともなくそのまま去って行った。
玲莉には後ろに尻もちをつくように転んだ。
「痛たたたた・・・」
玲莉が立ち上がろうとした時には、目の前まで暴走する馬車が来ていた。
(だめだ。間に合わない。私はまた死んじゃうの)
「お嬢様ー!」
玲莉は死を覚悟して目をつむった。
(あれ?体が軽い。何でだろう?)
玲莉はゆっくり目を開けた。玲莉の瞳には甘い顔をした男が映った。
(何だろう。この人、懐かしい感じがする。それにしても、この世界の人は本当に美形が多いわね)
玲莉を抱きかかえている男の顔が驚いた表情に変わっていたので、玲莉は不思議に思っていた。




