十九、国で最も尊い姫
「玲莉ー、玲莉ー」
劉翔宇が何度も名前を呼んでいたが、玲莉は劉翔宇を無視していた。
見かねた劉長寧が劉翔宇に駆け寄った。
「兄上、今の玲莉には何を言っても無駄ですよ。しばらく時間をおかないと。それで、なぜ玲莉を呼んでいるのですか?」
一瞬玲莉が振り返った時に、また声をかけたが、玲莉は鼻を鳴らしながら、そっぽ向いた。
「何度も口づけ交わしているはずのに、なぜ今回は怒っているのだ?」
女心のわかっていない劉翔宇に劉長寧は呆れた顔をしながら、ため息をついていた。
「私が玲莉に用件を伝えますから」
「あぁ、そうだった。父上から玲莉を連れてくるようにと言われたのだった。長寧、悪いが紫宮に玲莉を連れてきてくれないか。服は長寧の服を貸してあげてくれ」
「兄上、玲莉のことは任せてください。それより、ちゃんと玲莉に謝ってくださいよ。あれは明らかに兄上が悪いのですから」
劉翔宇は腕を組みながら、難しい顔をしていた。
「何であんなに玲莉を怒らせたのかが、わからない」
「・・・兄上・・・女心をもっと勉強してください」
「長寧、兄を助けようと思わないのか?」
「私は玲莉の味方ですので。せいぜい悩んでください」
「おいっ」
劉長寧は何でも完璧にこなす劉翔宇の弱点を見つけて、からかいながら玲莉のもとへ向かって行った。
玲莉は劉長寧の寝殿に連れてこられ、劉長寧はなぜかにやにやしながら、玲莉に詰め寄っていた。
「玲莉、服を脱いで」
「えっ?」
玲莉は訳が分からないまま、劉長寧から服を脱がされていた。
「負けた・・・」
劉長寧は玲莉の身体を見て、自分との身体の違いに悲観していた。
「玲莉、本当に綺麗ね。私の服だけど、着れてよかったわ・・・胸は少し苦しそうだけど・・・」
(たしかに・・・少し胸はきついわね)
今回の皇帝との謁見は正装でなければいけないが、玲莉は多少の着替えしか持っていなかったため、急遽劉長寧の服を借りた。
着飾った玲莉の美しさは劉長寧や侍女たちが感嘆の声を上げ、見惚れてしまうほどだった。
玲莉は劉長寧と共に紫宮に着くと、外に宦官が立っていた。
「王玲莉様ですね」
「はい」
「では、ご案内します」
劉長寧は玲莉と一緒に入ろうとしたが、宦官に止められた。
「胡宦官、私も一緒に入ってはいけないのですか?」
「長寧公主、申し訳ございません。陛下から王玲莉様以外は入れぬよう命じられましたので」
劉長寧は不服そうな態度を取っていたが、皇帝の命令には逆らえなかった。
「玲莉、部屋で待っているから、終わったら来て」
「申し訳ございません、義姉上。わかりました」
劉長寧は笑顔で手を振りながら、その場を去った。
(何で呼ばれたのだろう。わざわざ、豪華な衣服に着替えさせられて)
「陛下、王玲莉様が来られました」
玲莉は胡宦官に促され、一歩足を踏み入れた。
中には皇帝、皇后、劉翔宇、劉昇豪、劉若㬢、そして高官たちが五、六人ほど両側に並んでいた。高官たちの中に宋梦瑶の父で丞相の宋玄もいた。
玲莉は緊張しながらも、堂々と真ん中をゆっくりと歩いていった。
高官たちは玲莉の美しさに息を飲んでいた。
劉翔宇は瞬きもせずに、一瞬たりとも玲莉から目を離さなかった。しかし、玲莉と目が合うことはなかった。
玲莉は跪き、丁寧にかつ優雅に皇帝、皇后に挨拶をした。
「玲莉、立ってこちらに来なさい」
(えっ?)
玲莉は笑顔で手招きしている皇帝の言うとおりに、階段を上り、皇帝の目の前に立った。
高官たちは皇帝が玲莉を玉座のところまで招いたことに驚いていた。
そこに立てるのは皇帝、皇后、皇帝に仕える胡宦官以外いなかった。皇太子の劉翔宇でさえ、立つことは許されなかった。
皇帝と皇后は立ち上がり、玲莉の隣に立ち、皆の方を見た。
「この娘は王玲莉、皇太子劉翔宇が魏から連れてきた許嫁で、未来の皇太子妃だ」
高官たちはざわついていた。
皇太子の許嫁が隣国の娘であることは前代未聞だったからだ。
「そして・・・」
皇帝と皇后は目を合わせて頷き、玲莉を玉座に立たせたまま、階段を下りて行った。
玲莉は何が起きているのか分からず、困った顔で二人を見ていた。
階段の下まで降りた皇帝と皇后は玲莉の方を振り返り、玲莉に向かって跪き、拱手し、頭を下げた。
「お帰りなさいませ、聖女様!」
高官たちは玲莉が何者であるのか悟り、皇帝と同じように跪き、口をそろえて言った。
「お帰りなさいませ、聖女様!」
劉昇豪、劉翔宇、劉若㬢も皆と同じようにしていた。
(えっ・・・と・・・どういうこと?)
玲莉は自分の置かれている状況が全く理解できなかった。




