十三、玲莉の決意
「父上、急に呼び出すなんて、何かあったのですか?」
逸翰は王浩から家に戻るようにとの文が届き、急いで帰って来た。
王浩は逸翰を座らせ、他の者たちを呼んでくるよう、侍女に命じた。
王家の者が皆そろい、王浩は険しい顔で皆を見ていた。
妻思敏、息子や娘たちの他は部屋に入れなかったが、玲莉の侍女春静だけは部屋に入れていた。
王浩は王家襲撃のことや玲莉の身に起きた出来事について話しはじめた。
それらの出来事を全く知らなかった、逸翰と蘭玲だけは驚いて、玲莉を見ていた。
王家襲撃時、蘭玲は何が起きたのかもわからないまま、屋敷から連れ出され、馬車にのり、王浩の妹王芸の家でお世話になっていた。王芸に何があったのか聞いても何も知らない様子だった。
逸翰が帰ってくる少し前に帰って来たばかりだった。
「父上、噓でしょ?そのような話は聞いたこともありません」
逸翰は信じることができなかった。信じようとしなかった。
「逸翰、本当のことだ。私の左わき腹にはたしかに剣が刺さっていた。皇太子殿下も建明殿下もはっきりと見ている。逸翰は玲莉のことを心配しているのだろう?力を持った妹がどこかに連れて行かれるのではないかと」
逸翰は勇毅の言ったことが図星だったのか、横目で玲莉を見て、目が合うと恥ずかしそうに目を逸らした。
王浩はその様子を見て、うれしそうに笑っていた。
「まさか、逸翰がそこまで妹思いだったとは知らなかったな。しかし、逸翰、これは現実なんだ」
王浩の顔つきが真剣な表情になり、懐から短剣を出した。
鞘を抜くと、自分の左手を思い切り斬りつけた。
思わぬ行動に皆唖然としていた。王浩は苦悶の表情をしていた。
勇毅と蘭玲は父王浩が何をしようとしているかを察し、王浩に駆け寄ろうとしていた逸翰を止めた。
玲莉は王浩が血を流す姿に動揺しつつ、駆け寄った。
王浩の顔色は青ざめていった。
血の海になりつつある床を見て、玲莉の表情が変わった。
逸翰と蘭玲は目の前に起こった状況を実際に見て、王浩が話していたことが真実だったと確信した。
玲莉の髪は白く染まり、瞳は血のように赤く、血の涙を流していた。
玲莉が王浩の左手に手をかざすと嘘のように傷がなくなっていった。
玲莉の髪は淡い光を浴びながら揺れていた。
王浩は申し訳なさそうな顔をしながら、玲莉の頭をなでた。
すると、玲莉の髪は元に戻っていき、瞳もいつものやわらかい茶色の瞳に戻っていた。
「玲莉、すまなかった。皆に玲莉のことを知ってもらうためにやったことだ。もう二度としない」
「父上、もうこのようなことは絶対にしないでください」
玲莉は泣きながら、王浩に抱きついた。
王浩は優しい眼差しで子供をあやすかのように、玲莉の頭をやさしく叩いていた。
「玲莉、ごねんね。私は知っていたの。あなたの父がこのようにあなたを試すことを。あなたのことは家族には知ってもらう必要があったの。もちろん、あなたを守るために」
玲莉は少し怒りながらも、思敏にも抱きついていた。
王浩は思敏の膝で泣いている玲莉を見ながら、
「これでわかっただろう。玲莉は・・・その・・・聖女なのだ」
「聖女?」
皆、口をそろえて驚いていた。思敏でさえこのことは知らなかった。
「あなた、聖女って何のこと?」
王浩は皆に皇帝から聞いた聖女に関する伝承を話した。
「父上、玲莉のことは知られてはいけないのではなりませんか?」
王浩は勇毅を見ながら、大きく頷いた。
「その通りだ。いいか、お前たちに玲莉の力を実際に見てもらったのは、玲莉を守るためだ。玲莉はまだ力を制御することができない。いつ、力が発揮されるかわからないのだ。それで、玲莉のことを気にかけてほしい。何か起こりそうだったら、玲莉の力が周りに知られないように対応してくれ。特に春静。お前をここに呼んだのは、玲莉と一番近しいからだ。頼むぞ」
「旦那様、私春静は、命に代えてでも玲莉お嬢様を守ります」
王浩はその言葉に、微笑みながら頷いた。
「父上、私たちは玲莉の兄、姉ですよ。妹を守るのは当然です」
逸翰、蘭玲、嬌も勇毅の意見に同意した。
「勇毅兄上、逸翰兄上、蘭玲姉上、嬌義姉上、ありがとうございます。私はみなさんの妹で幸せです」
(実際にはみんな年下なのになんて心強いのだろう。私もこの力、コントロールできるようにしなきゃ)
玲莉は自分の力を自分のものにするための訓練を行うことを決意した。




