十二、国をも揺るがす力
次の日の朝、玲莉は目を覚ました。
手に温かさを感じ見ると、建明が手を握ったまま、玲莉に方に顔を向け、うつぶせて眠っていた。
(私、そういえば昨日・・・あのまま意識を失っていたのね。建明殿下が運んでくれたのかしら。それにしても、ここの世界の人は綺麗な顔の人が多いわね。建明殿下の寝顔も綺麗)
玲莉は左手でそっと、建明の頭をなでた。
「起きたのか、玲莉」
「申し訳ありません。起こしましたか?」
建明はうれしそうに玲莉の左手をつかみ、優しく引き寄せて、抱きしめた。
「玲莉が無事でよかった。王家に着いた時は驚いたよ。玲莉が捕らえていて、刺客だらけだったから。本当に無事でよかった」
「助けて下さりありがとうございます。建明殿下、勇毅兄上は無事ですか?」
「安心しろ。玲莉のおかげで無事だ。傷一つない。今は嬌さんがついている。きっと目を覚ますだろう。それに玲莉を助けたのは私だけではない。皇太子殿下もだ」
「では、皇太子殿下にもお礼を言わないといけませんね」
玲莉はそう言って笑みを浮かべたが、建明は肯定はしながらもどこか不満げだった。
「それよりも・・・」
建明は玲莉を抱きしめていた手をほどいて、玲莉に昨日の異変と不思議な力について尋ねた。
「私もまだ完全には理解してはいないのですが、あの時は勇毅兄上を救いたい一心で気づいたら、勇毅兄上の傷を癒していました。上手く言えないのですが、頭の中でどうすれば救えるのかわかるのです。私もこんな力があるとは知りませんでした。もしかしたら、幼い頃よりそういう力があったのかもしれませんが、覚えていませんし、父上も母上も何も言っていませんでしたので」
(玲莉は一体何者なの?まさかこんな力があったとは。一番驚いているのは私なんだけど。転生したことと何か関係あるのかしら。あの時は不思議な感覚だった。まるで頭の中に別のだれかがいるような・・・)
「そうか。玲莉の力については隠しておいたほうがよい。もし、公になればこの国だけではなく、他国の者たちも玲莉を欲しがるだろう。玲莉を巡って争いが起きかねない。それに、玲莉の身が危険にさらされる。それは避けたい。不安だろうが、安心してくれ。私がついている」
玲莉は笑顔で建明にお礼を言った。
玲莉の笑顔に思わず、もう一度抱きしめた。
建明は春静が机の上に伏せ、眠っているのを確認してから、玲莉に優しく口づけをしようとした。
勢いよく、戸が開いた。
「殿下、北誠王が戻るよ・・・」
黒風は二人の雰囲気で間が悪かったことを察した。
建明は黒風を鋭い目で見ながらも、ため息をつき、帰ることにした。
「玲莉、また来る」
建明はそう言って、玲莉の頭をなで、優しい笑顔を向け、名残惜しそうに去っていった。
「玲莉お嬢様、惜しかったですね」
寝ていると思っていた春静がにやにやしながら、玲莉を見ていた。
「春静!」
玲莉は春静をおいかけ、春静は玲莉をからかいながら逃げていた。
玲莉も春静も楽しそうに笑いながら、走っていた。
「殿下ー!」
勇毅はそう叫びながら目が覚めた。
(あれ?生きてる。たしか刺されたはず。えっ?どういうことだ?)
勇毅は刺された左わき腹を確認したが傷一つなかった。
「あなた、よかった!目が覚めたのね。もう心配させないでよね」
嬌は泣きながら、勇毅に抱きついた。
勇毅は嬌の頭をなで、慰めながら何が自分の身に起こったのか聞いた。
「その事なんだけど、あなたの意識が戻ったら話すと義父上が言っていたわ。実は・・・この傷を治したのは玲莉よ」
「玲莉が?まさか・・・」
勇毅は自分の生きていることが奇跡であることはわかってはいても、玲莉が治したとは到底信じられなかった。
「陛下、隣国の楚から文が届いております」
皇帝は宦官から文を受け取り、目を通した。
隣国の楚とは長年、争っていたが、今は停戦状態が続いている。魏の皇帝李叡としてはこのまま和平を結び、戦争を避けたいと考えている。
皇帝は文の内容に驚愕していた。
(我が国の公主と楚の国の皇太子の婚姻を条件に和平を提示してくるとは。しかし、朕も弟の誠明も皇子しかいない。楚の国も知っているはずだ。それに、我が国に交渉をしに訪れるのは皇太子か。一体何を企んでいる)
皇帝は目の前にあった蝋燭で文を燃やしながら、どう対応すべきか考えていた。




