十一、伝承
李義は再び玲莉の部屋に戻っていた。
相変わらず意識は戻っていないようだった。
後からついてきた建明も心配そうに玲莉を見つめていた。
「今日は意識は戻らなそうですね。玲莉のそばにいたいですが、私は後宮に戻らなければなりません。春静、玲莉の目覚めたら、私に知らせるように王丞相に伝えてください」
春静は承諾した。
「皇太子殿下、許嫁の私がそばにいますから、安心してください」
建明はうれしいそうな顔をしていた。
「春静、建明を見張っていてください。玲莉に何かしたら、すぐに知らせてください」
春静はどちらの味方をしていいのかわからず、曖昧な返事をしていた。
李義は春静に念押ししながら、立ち去って行った。
「春静、安心しろ。玲莉には何もしないから。ただ、そばにいて目が覚めるのを待ちたい」
建明は寝台の横に座り、玲莉の手を握っていた。
春静はその様子を見て、玲莉の相手はやはり建明の方がふさわしいと考えていた。
(私はずっと玲莉と婚姻することを望んでいたんだ。義に渡すものか。しかし、玲莉の不思議な力については、義に調べてもらったほうが早いだろう。いや、もしかしたら、私には明かしてくれないかもしれない。自分で調べたほうがよさそうだな)
建明は玲莉の目が覚めるまで、そばを離れなかった。
李義は王家で襲撃が起きたこと、玲莉に起きた異変と不思議な力について、皇帝に話した。
皇帝は李義の話を聞き、襲撃については怒りを露わにしていたが、玲莉に関しては、何か思い当たる節があるようだった。
「そんなはずは・・・。まさか、あの話が本当だということなのか」
皇帝は考えながら、聞こえるか聞こえないかの声で呟いていた。
「父上、何か知っているのですか?」
「あぁ、この国には伝承があってな。その話と玲莉に起きた異変が同じなのだよ」
皇帝が知っている伝承はこうである。
『百年に一度 聖女が現れる
その者はあらゆる傷を癒し
聖女が望むのであれば
死者をも生き返らせることができる
その者の瞳は血のように赤く 髪は雪のように白い
その者は計り知れない力を秘めており
全てを語りつくすことができない』
李義は皇帝から伝承を聞き、玲莉が聖女であることを確信した。
「父上、玲莉が聖女であることは間違いないようですね。このことは知られてはいけませんね。他の国が知ったら、どんなことをしてでも玲莉を奪いに来るでしょう」
「義、この件は絶対に漏らすな。王家の者には伝えていたほうが良いだろう。しかし、建明には玲莉が聖女であることは伝えるな。建明が玲莉を利用するとは思わないが、念のためだ。それと、王家を襲撃した者たちだが、検討はついているのか?」
「いいえ、まだ何もわかりません。しかし、王家の襲撃も妙でした。明らかに私への殺意がある者たちがいるかと思えば、殺意のない者たちもいました。玲莉の秘密を守るためについ全員殺してしましました。白庭の話では手がかりもないようでした」
「そうか。まぁ、取り逃がすよりかはよかっただろう。刺客については私の配下に調べさせよう。しかし、玲莉が聖女となれば婚姻も慎重にしなければならないな。この件は今はそのままにしておこう。今、動けば変に勘ぐるやつが出てくる。義、婚姻にあんな条件を出しながら、こんなことを言うのもなんだが、玲莉を守ってやれ」
「父上、当然です」
李義の顔は自信に満ち溢れていた。
「刺客は全員殺されました。しかし、聖女が見つかりました。王家の次女、王玲莉です。間違いありません」
「王玲莉?たしか、建明の許嫁だったな。はっはっはっ、天は我らに味方してくれたようだな」
男は不敵な笑みを浮かべていた。




