十、兆候
王浩が勇毅の部屋へ駆けつけると建明と黒風が勇毅に付き添っていた。
勇毅の様子を見たが、ぐっすり眠っているようだった。怪我をしている様子もなかった。
「建明殿下、この度は感謝します。家族の者が無事なのは殿下のおかげです」
「王丞相、私だけではありません。皇太子殿下も戦ってくださいました。王夫人たちは時期に戻って来るそうです。それで、王丞相、玲莉のことで尋ねたいことがあります。皇太子殿下が玲莉の部屋にいますので、共に行きましょう」
建明は黒風に勇毅のことを頼んで、王浩と共に玲莉の部屋に向かった。
玲莉の部屋では李義が玲莉の手を握り、ずっと玲莉を見つめていた。
李義の後ろでは春静が落ち着かない様子で、玲莉を見守っていた。
春静は部屋の外から声が聞こえ、戸を開けると、王浩と建明がいた。
(あの皇太子殿下があんな表情をするとはな・・・)
王浩は李義の様子を見て、玲莉との婚姻のことは本気であることがわかった。
王浩は建明の時と同じように李義にも声をかけた。
「皇太子殿下、この度は家族の者を守ってくださり、感謝したします。玲莉の様子はどうですか?」
「まだ、眠ったままです。怪我などはしていないので安心してください。それより、王丞相、お聞きしたいことがあります」
李義は春静に玲莉を任せ、王浩、建明、李義の三人は客間に移動した。
李義と建明は玲莉に起きた出来事について王浩に話した。
王浩は二人から聞いた話が自分の娘に起きたことだとは信じられなかった。
「そんな馬鹿な・・・。玲莉が勇毅を生き返らせたなんて・・・。皇太子殿下と建明殿下には悪いですが、正直まだ信じられません」
「王丞相、そうでしょう。しかし、私たちは勇毅が実際に刺されるところを見ましたが、傷一つ残っていません。それに実は、私は幼い頃、一度見たことがあります。髪は白く染まることはなかったですが、玲莉の真っ赤に染まった瞳を見ました。あの時も私の傷が治りました」
李義は初めて聞く、建明と玲莉の昔の話に、嫉妬していた。
王浩は頭を抱えながら、これからどうすべきか悩んでいた。
「それで、王丞相、玲莉に起きた出来事は王家の家族以外一切漏らさないようにしてください。私が調べてみます。もしかしたら、父上が何か知っているかもしれません。玲莉がどんな力を持っているのかわかるまでは公にしないほうがよいかと思います。おそらく、玲莉本人も自覚がないでしょう。力の制御が上手くできてないように見えます。安心してください。玲莉のことは私が守りますから」
「皇太子殿下、玲莉は私の許嫁です。私が守ります」
建明が李義を睨んでいたが、李義は建明の言葉を聞いていないようだった。
外から王浩を呼ぶ声がした。
王浩が戸を開けるとそこには妻の思敏がいた。
王浩は思敏の無事様子を見て、安心していた。
王浩は思敏を部屋に招き入れ、王家で起きた出来事、玲莉に起きた異変について話した。
「やはり、あの子・・・」
思敏は玲莉の異変について思い当たる節があるようだった。
「皇太子殿下、覚えておられますか?三年前、玲莉と初めて会った日のことを」
「はい。今でも鮮明に覚えています。怪我をして血だらけになっているのに笑っていたのです。あの笑顔は今でも忘れられません。あんな娘は初めて見ましたよ」
「その怪我ですが、実は次の日には綺麗に治っていたのです。玲莉に尋ねたら、『わからないけど治ってた』と。玲莉にもわからないようです。特におかしい様子もなかったので、薬がよく効いたのかなとぐらいにしか思っていなかったので。まさか、勇毅を生き返らせるほどの力があったとは思いもしなかったです。あなた、これから玲莉はどうなるのですか?」
「大丈夫だ。皇太子殿下が調べてくれるそうだ。後宮には様々な書物が置いてある。何かわかるかもしれない。私たちは読むことはできないが、皇太子殿下ならそれができるだろう。今は、皇太子殿下に任せるしかない」
「王夫人、任せてください。私は、これで失礼します。最後に玲莉に会って帰ってもよろしいでしょうか?」
建明がいる手前、いいですよとも答えにくかった。しかし、答える前に李義は玲莉のところに行こうとしていた。
建明は空気を呼んで、私も行きますと言って、李義の後をついていった。
「あなた、玲莉は建明の許嫁で変わりないのですよね。なぜ、皇太子殿下はまだ玲莉に・・・」
「あぁ、まぁ、そうなんだが。あの皇太子殿下が後に引くわけないだろ。なにせ、みんなの前で玲莉に口づけするぐらいだからな。皇太子殿下じゃなかったら、その場で斬っていたぞ。玲莉に手を出しよって。しかし、皇太子殿下が人に執着するのは初めてだ。今まで人を人とも思っていないような目をしていたが、最近、人間らしくなってきたように感じる。陛下もそれを感じたから・・・」
王浩はまずいと思い、これ以上は口を開かなかった。




