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『日本改造計画』

『日本改造計画』外伝:その壱<『美食遊会』と鰻>

作者: 桃太郎

 挙国一致の精神を以て、ヨーロッパ人の侵略の魔の手から日本とうなぎを守りましょう。

 本日は、ご清聴ありがとうございました。

 スマホで、この演説を目にし、感動した男がいる。名は山岳海雄さんがくかいゆう

「素晴らしい! 『日本の食文化を守る』! 目の黒い内は諦めない! そんな!

 そんな気骨ある政治家など見たことがない! ナカガワ! よいものを見せてくれた!」

「およろこび頂け、恐縮の至りにございます。先生。」

「そうだ。ナカガワ! この人物……総統閣下に、鰻をご馳走せねば!

 この方が、負ける事あってはならない。食を通じ傍若無人な欧州人どもの魔の手から守る!

 早速、総統閣下に連絡、鰻の手配をしろ! いいな、ナカガワ!」

「先生が、そう仰ると思い『美食遊会』会員名簿から政治家先生にお願いしております。」

「そうか、流石ナカガワ。ご連絡を待つ間、鰻の物色も進めよ。」

「はい。先生。」


 * * * 


 今日のリモート会議は、少々異色の取り合わせだ。私の『秘書』である。

 実は、永田町と霞が関には、私の代理人とも言うべき人材を配置してある。

 役職名こそ『秘書』だが、現職の自衛官で、特に私への忠誠心高い者を採用した。

 今、会話しているのは、永田町の『秘書』だ。

「お時間ご頂戴し、誠に恐縮です。総統閣下。」

「そう言えば、最近やたらと元国会議員から接触を求められ、迷惑なので防御しました。

 で、迷惑な連中はいなくなった筈ですがね。」

 ちなみに、防御手段は、『私と面会する者は、今後五十年間帝国議会立候補権放棄』

 と言う内容の誓約書に署名する事である。

「それが、一人います。本日先程お見えになられ、今待っております。」

「それは、誰ですか。」

「すんずろう氏です。」

「要件は、何ですか。」

「総統閣下にお願いが一つあるそうです。」

「分かりました。電話であれば、十年で済ませると伝えなさい。」

「はい。少々お待ちください。」

 文字通りしばらくしてから、戻って来た『秘書』だった。

「どちらでもよい。但し、総統閣下と直接会話できるならだそうです。」

「分かりました。条件は、十年で済ませる事、電話会談とします。本人を出してください。」

 こうして、電話で直接会話する運びになった。

 勿論、使うスマホは、予備のものの一つだ。

「日本帝国初代総統本人です。コイズミ・ジュンイチロウ氏のご子息すんずろう氏ですね。」

「はい。その通りです。本日はお時間を頂戴して頂き恐縮です。総統閣下。」

「で、本日の要件は『お願いが一つ』だそうですね。できる事なら何なりとどうぞ。」

「私の父と直接会談をして頂きたいのです。総統閣下。」

「それだけですか。」

「一つです。これだけです。総統閣下。」

「分かりました。連絡先を教えてください。」

「今、『秘書』の方に渡しました。父は、何時でも構わないそうです。」

「分かりました。折を見て連絡します。」

 こうして、電話を切ると、立ち去るすんずろうだった。


 * * * 


「はい。K・ジュンイチロウです。」

 今度は、元総理との電話だ。忙しい。

「日本帝国初代総統本人です。K・ジュンイチロウ氏のお時間を頂戴お願いします。」

「御待ちしておりました。是非とも今すぐお話させてください。お願いします。総統閣下。」

「では、貴方からの要件をお願いします。ご子息からは何も聞き出せなかったので。」

「それは、そうでしょう。豚児とんじには、何も教えませんでしたから。

 私からご説明申し上げます。総統閣下。

 時に、『美食遊会』をご存じでしょうか。総統閣下。」

「私ですら知っています。有名な高級日本食料理店ですね。貴方も会員でしたか。」

「はい。で、『美食遊会』から総統閣下をお食事に招待したいと打診がありました。」

 成程、……数えてこそいないが何十人の元議員や元大臣を動かしたのか……

「今、何か。総統閣下。」

「何でもありません。つまり、これは元総理のお申し出ですね。」

「はい。仰る通りです。どうか、お願いします。総統閣下。」

「『だが断る』。」

「は?」

「勿論、理由もあります。説明しましょう。」

「宜しくお願い致します。総統閣下。」

「私が今の職務にいるのは、ひとえに陛下のお陰、一臣下に過ぎないのです。

 陛下を差し置いて、臣下が高級料理に舌鼓を打つ。あってはならない事です。

 自腹を切るなら兎も角、驕りでは臣下の分を超えております。が、妥協案もあります。」

「妥協案ですか。総統閣下。」

「陛下御同伴の上、同じ料理を口にするのであれば、問題ありません。」

「それは……『美食遊会』で、陛下と総統閣下をお迎えする訳ですか?」

「勿論、これは、『行幸』ですので関係各所への根回しは、私が担当。

 そして、『美食遊会』への根回しは、貴方にお願いします。」

「分かりました。総統閣下。」

「で、今回の一件、陛下よりの発案で、『美食遊会』への『行幸』と言う体裁を計画。

 その際の『同伴者』を私とする。これも、陛下の発案と言う形にしようと思います。

 その前提で、『美食遊会』には、根回しをお願いしますよ。」

「はい。全て承りました。総統閣下。」

「そうそう、聞き忘れるところでした。献立は何でしょう。」

「それは、鰻とだけです。それ以上は、何も聞いておりません。」

「…………ありがとうございます。本日は以上で。」

「はい。失礼いたします。総統閣下。」


 * * * 


「先生、ジュンイチロウ氏から連絡です。」

 スマホを確認したナカガワだった。そして、スマホを受け取る山岳。

 そして、元総理と電話で話を聞く山岳だった。

「分かりました。その話全て実現させましょう。」

 こうして、通話を切った山岳だった。

「ナカガワ……これは、失敗できんぞ。」

 そう言いおいてから、元総理の『お願い』を説明した山岳だった。

「なんと! 陛下が、総統閣下同伴の上、行幸ですか!」

「そうだ。これは、失敗できん。最高級の鰻を二十尾用意しろ。ナカガワ!」

「はいっ! 先生。」


 * * * 


 今日のリモート会議は、宮内庁長官である。

「本日は、御呼びだてに応じて頂き、ありがとうございます。長官。」

「こちらこそ、御呼びとあらば、万難を排し参上します。総統閣下。」

「では、早速要件の前に確認事項です。『美食遊会』をご存じでしょうか。長官。」

「はい。存じております。何分、永田町とも霞が関とも近いものですから。総統閣下。」

「その『美食遊会』から、陛下の行幸先に選んで頂きたいと申し出がありました。」

「何と、行幸! ……『美食遊会』ならば、格式も料理の質も問題ないと存じます。」

「では、陛下の行幸の件、ご了承頂けますか。」

「何を仰います。憲法規定と陛下の勅命で任じられた日本の支配者でしょう。

 何なりと、お申し付けくださいませ。総統閣下。」

「では、お言葉に甘えて、命令させて頂きます。陛下の行幸並びに、同伴者には総統一人。

 この条件で、関係各所へ根回しをしなさい。長官。」

「はい。謹んで承りました。総統閣下。」


 * * * 


 都内某所、和食料理屋『赤星』。

「最近、連中が鰻を買い占めている。何か、情報が入ってませんかね。赤星さん。」

 料理をつつきながら問うのは、某新聞社社員シローだった。

「ええ。耳にしています。噂でよければ、お話ししましょう。」

「頼みますよ。」

「何でも、陛下ご行幸が、近いそうです。」

「あら、行幸! つまり天皇陛下が『美食遊会』に赴いてお食事なさる訳ですね。

 それは、名誉な事。『美食遊会』の本気度が伝わるわ。素晴らしいわね。」

 思わず、驚きの言葉を発するのは、シローの同僚ユーコだった。

「けっ。どうせ連中の売名行為。そんなものに付き合わされる方が、迷惑だ。

 大体、鰻の旬は、秋。この時期は、やせ細ったやつしかいない。常識だろう。」

「あら、じゃあ何故、鰻を夏に食べるのかしら。」

「鰻の旬は、秋。そんなものは、常識。だから、夏場鰻屋の売り上げが落ち込む。

 そこで、登場するのが、平賀源内だ。彼が、『土用の丑の日は鰻』と言い出した。

 瞬く間に、鰻屋の売り上げが伸びた。それが、今でも続いている。」

「へぇ、そういう事だったんですね。平賀源内さんって、キャッチコピー上手いですね。」

「その通り。だが、俺が気に食わあないのは、『あの男』が、名誉まで手にする。

 その陰で、犠牲になる人々がいる。まるで、その権利があるとでも言いたげな態度だ。」

「まぁまぁ、お目出たい話ですよ。さあ、一杯どうぞ。シローさん。」

 シローの御猪口に、徳利からお酒を注ぐユーコだった。


 * * * 


 そうこうする内に、行幸当日。陛下のお車とは別に自衛官の護衛。

 更に、白バイ警官の先導護衛が付く。これらは、伝統でもある車列だ。

 ようやく『美食遊会』に到着すると、店長山岳氏と板前風の男達が、出迎える。

「お待ち申し上げておりました、陛下、総統閣下。」

 代表して山岳氏が、挨拶し、他の板前風の男達も深々と例をする。

「本日は、陛下のご行幸を快諾してくださり、感謝の至り宜しくお願い致します。」

 挨拶すのは、侍従長だ。彼の出番は、今日はここまでとなる。

 そして、燕尾服の陛下、私、侍従長が、揃って礼を返した。

「ささ、お部屋までご案内いたします。こちらへどうぞ。」

 そして、山岳氏のエスコートで、お部屋まで案内される陛下、私だった。

 しかし、残念な事に日本家屋の様式に関する知識に疎い。陛下なら兎も角。

 事前に調べた範疇には、入っていない。鴨居に手の込んだ彫刻が、有ることくらいだ。

 そこで、陛下ともどもこう言わざるを得なかった。

「素晴らしいお部屋を有難うございます。」

「恐縮の至りにございます。ささ、お席はこちらになります。」

 ジュンイチロウから聞き出した情報によると、今から店長が話をするそうだ。

 料理が出されるまでの時間稼ぎらしいが、どんな事を話すのかは聞き出せなかった。

「実は、本日のお食事会には、私事が混ざっております。

 大変恐縮ながらお話をする事お許しください。総統閣下。」

「では、料理が届くまでの坐業代わりに、宜しいですか。陛下。」

 微笑と共に首肯した陛下だった。

「では、何なりとお伺いしましょう。」

「では、お言葉に甘えて、私は、感動いたしました。あの鰻の演説です。

 私も商売柄、霞が関、永田町由来の人物と会う機会もそれなりにあります。

 しかし、あれ程気骨ある発言、聞いたことがありません。

 総統閣下は、如何にしてその様な素晴らしい考え方を手に入れたのでしょう。」

「では、あなたの『勘違い』を訂正しましょう。二つあります。

 一つ、今日『政治家』は、絶えて久しい。唯一の例外が私です。

 貴方が、見聞してきた霞が関、永田町由来の人物は、強いて言うなら『政治屋』。

 二つ、『学問』とは、『自ら疑問に感じ調査しないと前に進まない』ものです。

 こんな所ですかね。」

「素晴らしい! 今、まさに私の目から鱗が落ちました! 全く仰る通りです。総統閣下。」

「それは、何より。それならば、貴方に相応しい号は、『料理家兼料理研究家』でしょう。」

「暫しお待ちください。そのお言葉は、本日の料理を召し上がられた後。

 意見の変化がなかった時、お願いします。総統閣下。」

「そうですね。これは、私の期待の表れと解釈して下さい。」

「はっ。全身全霊の力を以て御持て成しさせて頂きます。総統閣下。」

 そんなこんなで、出された料理に舌鼓を打つ二人だった。


 * * * 


 実は、話はこれで終わりではない。実は、新憲法規定で『多夫多妻』を導入した。

 そこで、事前に家族の人数を尋ねられ、四人の妻がいる事。子供はいないと答えた。

 当日、陛下、私の家族あてにお弁当を渡された。

 食した者達は、鰻を使ったバッテラとの事だった。

 こういう『心遣い』を『御持て成し』と言うのだ。

 やはり、山岳氏は、『料理家兼料理研究家』と呼ぶに相応しい人物だ。


 <END>


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