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第6話「広がる友情とコラボ配信」



 フルライブの方針会議から数ヶ月後。新人であり1期生はそれぞれの配信にて好調な滑り出しで活動しているころ。

 今日もまた、サクラスターの二人でコラボ配信が始まった。


「はーいみなさん、こんさくー」

「こんにちはー」

「「今日もサクラスターのコラボ配信です。よろしくお願いしまーす」」


 社守さくら(演者:雪藤美子)と彗星ルカ(演者:黒染千鶴)の二人が配信画面に現れると、二人のコメント欄に『来たー!』などの喜びの言葉が殺到していく。


 コメント欄が表すように、二人の登録者はそれぞれ十万を突破しても順調に増え続けほどの人気者になっていた。他の動機も似たような数字を持っているが、その中でも二人はそれぞれ、フルライブ内の最上位に位置する人気がある。


「じゃあ、いつもの挨拶もしますか。

 どうも! 彗星のように輝くアイドルVチューバー! 彗星ルカです! ルーちゃんは~?」

「今日もかっこいいー!!」

「ありがとうございます! リスナーのみんな、いつもありがとう。よしさくら、行ってこいやっ」

「乱暴で雑なパスで草」


 かっこいいキメ顔でバトンをパスするルカも、さくらは呆れつつも笑っている。


「えーでは……みなさーんこんさくー! フルライブ0期生、神社の巫女を務めてみんなを応援するアイドルVチューバー! 社守さくらです! 今日もみんな、笑顔になってくださいねぇ!」

「さあスマイル0円! 0円だよー! 貰えるだけ貰え貰えーっ!!」

「なんでそんな売れ残ったイワシ捌くような言い方なの!? もっとストレートにかわいいとか言えよっ! ハリーハリー!」

「まあまあまあ。さくらがかわいいのはみんな知ってるから直接は言う必要ないやん? だからさー、私はこうやって呼び込みをしてるの、わかる?」

「かわいいって彗星、そんな褒められたらさくらは……」

「ほんとクソチョロいわー、さっすがさくらだぜ」

「おい上げるなら上げっぱなしにしてよ、落とすな!」

「「あっはっはっは!」」


 二人して笑う。そこに。


『しょっぱな夫婦漫才で草』

『てぇてぇだよね』

『てぇてぇな親友感がいいよね』


 企画を進行させつつ二人はそれぞれのコメント欄をチェックしていく。念のために言うとさくらとルカはそれぞれの自宅で配信している形だ。


「はい、ということでですね。今日の企画なんですが、サムネにある通り、GTF6というアクションゲームをやっていきたいと思います」

「いえーい!」


 GTF6というゲームは簡単に言うとギャングが自由に行動するゲームである。舞台は外国の治安の悪い大都市が舞台で、そこで銀行強盗したり車やヘリを盗んだりギャングと撃ち合ったりして、特定の目的を達成するために行動するゲームだ。


 今回は二人のマルチプレイであり、その目的は一定の資金を稼ぐことである。


「さくら達がサクラスターというユニットを結成してね、三ヶ月。色々な企画、案件をやらしてもらって目まぐるしい毎日を送ってきました」

「いやほんと、メチャクチャ忙しいんだよねー。合間合間に休みはあるから休めてはいるけどさー、それ以外ではなかなか動けないというね」

「他のフルライバーと絶妙に予定が合わなくてねぇ。もう笑うしかないレベルなんだよなぁ……」


 さくらが呆れるような感じで言葉を漏らし、ルカがそれに激しく頷いて同意している。さらにルカから言葉を出す。


「そうなんだよー。まあでもね、数ヶ月後に大きなイベントがあるからね、それが終わればひと段落付きますからね、そこまでは気合を入れまっしょい」

「そうだねぇ。あ、そのイベントについては動画の終わりにきちんと告知するんで、よろしければ最後までよろしくお願いしまぁーす」

「お願いしまーす」


 そうしてゲーム開始される。社守さくらの画面では、合流地点に向かいながらルカと会話をしている。その途中で、ちょっとした武器とアイテムを調達しながらだ。


「えー“どうしてGTF6なの? 意外や”というコメントがあるけど、たまには叫んでストレス発散したいですやん? だからや――」

「さくら。そこは建前で“サクラスターの新しい一面を見つけるためです、テへペロ♪”にしなきゃダメじゃない」

「あ、ごめん……いや待って? なんかそれキモイんじゃね?」

「本性を隠すときはどうでもいいところを目立たせるのが基本だ(キリッ)」

「おまえ今、最高に無駄なカッコよさがある詐欺師の雰囲気してるの自覚してる???」


『草』

『ためになるなぁ』

『むしろどっかの狙撃のプロっぽさがあるな』


 そうしてようやく二人の操作キャラクターが合流した。


「ルーちゃんおかえりー……ってなにそれ!? なにその銃!? 黄金じゃん!」

「このゲーム、銃のカスタマイズにカラーリングあるんだよね。性能面とかを重視しがちだけど何より大事なのはカラーだよカラー。シンボルは大切だよー」


 両手で構えながらさくらに見せつける。黄金色の拳銃は大型の半自動拳銃と言えば伝わるだろう。半自動拳銃は映画などでよく見かけるスタンダードな拳銃だ。引き金を引いて弾が出ると同時に上のスライド部分が動き、薬莢が排出され次の弾薬が装填され、また引き金を引くと次の弾丸を発射する、という機構を持っている。


「ルーちゃん、黄金が好きなの?」

「黄金色はいいぞ~。不滅や豊かさ、富や権力の印だからな。誇りにするには持って来いの色さー」

「そうだ……? あれ、なんか不穏な言葉があるような?」

「気のせい気のせい」


 黄金銃を構えたルカのキャラクターを、なぜかさくらの操作キャラクターは下からスカートを覗くように鑑賞していたりする。しばらくそんなカオス空間でキャアキャアと続けてから、冷静になってさくらから本題に入った。


「んん! で、資金集めの方法はどうしようか? 薬物売買とか武器の密輸で――」

「コンビニ強盗で」

「……お、オッケイ!」

「いいかさくらぁ、ワイらは賢く生きれんからこんなクソの履き溜めな生き方をするんや、わかるか?」

「(いきなりロールプレイしてくるなぁ)……お、おう! わかるでルーの姉御!」

「どうせクソまみれになるんや、なら質のいいクソを浴びねば無作法というもの。というわけで強盗だ行くぞぉッ!!」

「お、おっけぇええええい!!」


『草』

『外国だからマフィアだろうになんか日本ヤクザになってて草』

『令和のアイドルが口にする言葉=クソまみれの無作法』

『フ、フルライブだけだから……(自信はない)』


 ルカの勢いに任せて用意していた車で移動していく。車は一般的な普通車だ。運転はさくらが担当する。

 しばらく車で移動してコンビニを見つけると、二人は車から降りて突入した。


「おんどりゃー! 強盗だ! サクラスターだ!! 金を出せぇ!!」

「か、金を出せえ!」


 ルカが主導で行ない、さくらは困惑しながらも真似をして、いかにも一般人な店員に銃を突きつけホールドアップをさせた。


 NPCのコンビニ店員がレジの金をまとめている。その間にさくらが視界を見渡すと、なんとエロ(ナイスバディ)を発見し、彼女はつい本能に任せてコントを始めてしまった。ナイスバディのたまらなさはこの一年でよくわかっているからである。


「おいお前! 金をもっといれろぉ! 早くしろぉ!」

「そうだそうだ!(ノリノリ)」

「ついでにそこのエッチな本もさくらによこせ!」

「そうだそう……だ!?」

「右から三番目の黒髪白人か日本人かのナイスバディなねーちゃんのやつだ! さくらはおっぱいソコソコでお尻が大きめなのがドストライクなんだよ入れろ入れろぉ! 鍛えられたケツを揉むのは最高のひと時なんだぞこの野郎ぅ!」

「いいぞいいぞドスケベいいぞ入れろ入れろ! あはははは!」


 そこでゲームからちゃりーんという効果音が鳴る。任務達成の合図である。ゲームのログにもしっかりお金を入手したと報告された。


 それを見たルカがニヤッとする。


「終わったよ、ルーちゃん」

「おっけーおっけー。じゃあ最後の仕上げだ」

「しあ――」ズバン!「ふぁっ!?」


 銃声がさくらの言葉に挟まれるように鳴り響いた。予想は付くだろう、その音と同時にコンビニ店員が倒れ込んだ。


 横たわって半死半生の店員の傍へニヤニヤ顔のルカが立つ。

 脚の位置をうまく店員を踏みつける感じにすると、黄金銃をわざわざ片手で構えた。


「グッバイ・フォーエバー♪ アハハハハ!!」


 ズバンズバンズバンズバン!!


 あんまりにも自然な発声と銃声であった。言葉の意味は適当だが感情はよく伝わったであろう。終わるや、画面の右上に同時に警察マークが表示された。


 このマークが表示されるとしばらく警察に追われてしまう。犯罪をしたんだからまあ当然の対応である。


「よーし! こっからカーチェイスだ! 運転しろさくらぁ!」

「あわわわわわ……」

「おい?(←眉間に銃口を突きつけつつ) 返事はどうしたんだよさくらぁ?(←低くてドスの利いた声)」

「はいぃいいい! 運転します運転しますぅ! 行きましょうルーの姉御!」

「撃つぜ撃つぜ撃ちまくるぜえ……っ」

「やばいよこの人怖いよぉ……」


『狂気すぎて草』

『サイコパスで大草原』

『強盗する(←わかる)。殺害する(←ギャングだしまだわかる)。死体撃ちをして狂った笑いを上げる(←コレガワカラナイ)』

『カーチェイスやりたいだけだろww』


 二人が車に戻って運転開始。その瞬間にはパトカーのサイレンが始まっておりさくら達の元へ警察が集まり始めている。それにさくらが慌てて運転したところ、出会い頭にさっそく一台目のパトカーの登場し、発砲してきた。

 

「ルーちゃんどこに逃げればいいの!?」

「自宅! 駄目なら山の中! しゃあ! 仕留めたわ!」

「やばいやばいアイテムが全ロスしてしまう! ちょっといいアイテムもあるんですよ!」

「次の配信の時は突撃銃かサブマシンガンを持ってきたらいけるな!」

「いけるってなに!? どういうことなの!?」

「そりゃおまえ映画みたいなカーチェイスだよ! 察しろ!」

「それでわかるなら人間に声や喉は必要ないでしょうが!」

「うるせえ! 察しろ! 殺すぞ!(さくらに黄金銃を構える)」

「ごめんなさい! 殺さないで!」


 困惑しながら本能のままに逃走していく。そのため途中で変なところに入り込んでしまい、目の前には用途がいまいちわからない謎の大きなジャンプ台が映り込んだ。車でジャンプしろというのだけはわかるが、どこに飛ぶべきか全く不明の、謎のジャンプ台であった。


「あ! やばいこれこのままだと着地が!? 」

「ご苦労だったなさくら! ひゃっはー!」

「飛び降りた!? え!? このゲームそんなことでき――ぬいあああ!? ルーちゃんのバカぁああああ!!」


 さくらの運転する車がジャンプ台に乗って思いっきり飛び上がった。しかし逃走中もあってか空中で中途半端に回転して側面から落下してしまい、そのまま車は爆発四散してしまった。当然、さくらは死亡判定。初期地点へ戻る。そしてアイテムは全部ロストしてゲームプレイの労力が水の泡になってしまった。


「へ! 黄金は錆びない悪徳の証明だぜ! 見てろよ見てろよ~! おらぁ!」


 ルカは飛び降りたあと、そのまま応戦しつつダッシュで逃げていく。しかししばらくして散弾銃や小銃を持ってきた警察に囲まれてしまい、高火力の銃撃によりあっさりとやられてしまった。


 そうして都合よく初期地点に戻ったので、そこでゲームの配信は終了となった。


「――はい、というわけでゲームは終わりです。お疲れ様ー」

「お疲れぇ~……は、いいとして。ルカさん、私は今日、大変なことに気づいてしまいました」

「それは?」

「あなたがサイコパスだということですっ」


『草』

『さくらの表情が睨みつけるやつで草』

『ルーちゃんは悲しそうで草。これはサイコパスですわ』


「さくらひどーい。今日はストレス発散してハチャメチャなプレイをしようって言ってたじゃん」

「言いましたけども……いやね? あなたプレイ中になにしたか覚えてます?」

「黄金カラーの銃をバンバンしてただけですぅ(笑)」

「死体撃ちとかさくらを脅したりとか狂人発言をスルーするな! このサイコパス歌姫が!」

「ゴロが微妙だからクレイジー歌姫にしようぜ?」


『提案に草』

『自称するなクレイジー歌姫』

『狂い初めシンガー? 狂いすぎディーバ?』

『そこまでいくと日本人的に馴染(なじ)みがなくなるからクレイジー歌姫でええねん』


「でもさ、ルーちゃんこういうゲームってあんましてないんだけどさ、こういうゲームってやると想像以上に面白いよね」

「それはさくらも同感だよぉ」

「で、今日はっちゃけプレイやってて……物事の真理がわかっちゃったわけですよ」

「うんうん」

「そう……禁断の果実って舐めるとすごく甘いんだなって」

「おまえそれ原液舐めてトリップしてない? 中毒症状ダイジョーブ?」

「へっへっへ砂糖よりも甘く香り高くてたまりゃしねーぜっ」

「はい! 配信がBANされかねないので話題変えるぞぉー!」


 ワードセンスに危険な雰囲気を帯びてきたのでさくらが台パンしながら強引に話題変更する。ルカもノリノリでわざとらしくぶー垂れた顔で「ぶーぶー」と口にしていた。が、しばらくして表情を切り替えてルカから話を切り出す。


「まあしょーがないな。お詫びにルーちゃんの過去を話してやろうではないか」

「偉そうで(わら)。で、何を話すって言うんですかルカさん?」

「そうだなー、うん。ルーちゃんが昔、アイドルの卵だったことをちょっと話すか」


 ルカのなんでもないような発言にさくらが驚く。同時にコメント欄でも初情報に戸惑いの声が溢れていく。


「それ、話してもいいの?」

「ヘーキヘーキ。所属してた事務所がさ、最近になって潰れたから大丈夫だよ。報告されたときは笑ったわー」

「ええ!? 悪いことはするもんじゃないなぁー」


 ルカがあっさりした表情で言葉を続けている。反してさくらの表情は豊かに変化しており、驚愕、恐怖がしっかり表現されている。


『ルーちゃん、アイドルだったんだ』

『だから歌がうまいのか』

『こりゃダンスも期待できますな』

『なんで辞めたのー?』


「昔からアイドルっていいなーって思ってたんだけど、中学の時にスカウトされてね。そこから事務所に所属しつつ歌やダンスの練習をしていたの。で、高校生の時に同期とデビューだーってとこまで来たわけよ。しかも一番目立つリーダーとかセンター候補だったわけ。ルーちゃん、中々のもんでしょ?」


 一言間を置いて、ルカはさらに続ける。


「でま、ある日、ルーちゃんに大事な話があるって上司に言われたわけ。きゃっ! センターになれるのかしら!? 記念に録音しーとこって浮かれポンチでそこに行ったわけよ。そしたらさー……“まずはワシのピーを舐めてもらおうか”とか言われたわけです、はい」


 コメント欄が一斉にドン引き状態になる。それを確認してからさくらが雰囲気を暗くしすぎないようにフォローをしていく。


「やっぱり、そういうアホな接待はもうちょっと言葉のセンスほしかったよね? 笑いにさえ使えないのはダメだよ、ダメ」

「いや、センス問題かなこれ?」

「だってエロゲーでもなかなか言われないような古典的な台詞だよ? 何度聞かれても、さくらは否定するよ。エロゲーで口説き文句を学んできなぁ! って叫びます」

「アッハッハ! いやーそういう切り返しでもよかったなあ。あ、ちなみに結果を言うとですね、近くにあった灰皿でそいつの頭をブン殴って大暴れしました。それで事務所を首になっちゃってしばらくはニート活動してましたねー。賠償金とかは録音してたおかげでなーんもなしで終わりましたー」


『ええ……』

『勇気を出してエライ!』

『地味にクソ展開で草』

『でもこうしてるってことは……』


「そう! 結果はアイドルVチューバーへ華麗に転身できましたっていうオチだね!」

「やったぜ! よ! ルーちゃんはかっこいいー!」

「「ウエイウエイ! ウエーイ!」」


 そして二人の意図通りにコメント欄も暗くなることはなく、一種のジョークとして受け取られて笑いに包まれていた。


「はい! そういうわけで今回の告知! ルーちゃんはとんでもない気合が入っております!」

「はい! じゃあ告知の内容だドンドコドン!」


 画面に告知が記載された画像が出現する。

 その内容はサクラスターが行なう小さなライブの案内である。


「ええとですね、画面にもあるんですけど〇〇月××日に――ライブです」


 さくらの落ち着いた案内でコメント欄にも期待のコメントが書き込まれていく。

 ルカが興奮した様子で続けていく。


「はい! とうとうフルライブの初ユニット、サクラスターがライブを行います! フルライブとしても初めてのステージでのライブです。気合を入れて準備をしています!」

「見ての通り数ヶ月後なんでね、訪れる方は予約のほうを待ってまーす」


 そしてしばらくその告知の補足をしたり質問に答えたりして、問題なく時間が流れていった。


「じゃあそろそろ終わりますか、ルーちゃん」

「オッケー。いやーライブ楽しみだ! みんなも楽しみにしててね! 今日もありがとう!」

「「お疲れ様でしたー」」


 こうして今日も好評を得て配信が終了した。そしてネット掲示板やツブヤイターのほうでも盛んにライブのことが盛り上がっていた。


 なおツブヤイターのトレンドに「クレイジー歌姫:彗星ルカ」「朗報:0期生全員が異名を取得」が出現し、彗星ルカへ異名が加わったことは余談である。




  ■   ■




 サクラスターの初ライブの日時が配信で告知された、その同じくらいの時期、0期生と1期生の交流ということでコラボ活動が解禁されていた。その際に真っ先に行われたコラボが『魔女屋オルエン×クロル=エ・アップルスミス』のコラボである。


 配信画面には二人の美女キャラクターが映っている。一人はまさに魔女と言わんばかりの格好をしている女性だ。もう一人は銀髪に、ロングコート、耳にリンゴ型のピアス、巨乳が特徴の美女が映っている。


 『始まったね』というコメントから配信が開始される。


「どうもこんにちは、フルライブ所属0期生、魔女屋オルエンです。今日も配信に来てくれてありがとう、よろしくな」

「はーい萌え萌え萌え~。フルライブ所属1期生、クロル・エ=アップルスミスで~す。今日も来てくれてありがとうみんなー。今日は大事なことが一つだけありま~す。

 いいかきみたち? 今日はクロルのことはどうでもいい。しっかりとオル様のかっこよさと美しさと賢さを心と脳味噌に刻み付けていけ、わかったな? よーし始まりだー!」


 魔女屋オルエン(演者:橋渡凛)の方からガタンとずっこけるような音が聞こえた。少し間が空いてから我慢するような笑い声が漏れ出している。

 その間、クロル・エ=アップルスミス(演者:坂田真衣)はドヤ顔で堂々としていた。


『さすが古参の魔女信者だ、面構えも心構えも段違いだぜ』

『初コラボが飲酒配信でそれをオーケーするのが強すぎる』

『ガチ恋断絶勢のオル様がまさかのガチ恋勢との絡みとか笑えるww』


「へっへっへ、羨ましかろー。クロルもフルライバーだからフルライバーの特権を使いまくるもんね。というわけで今日の配信ですが、飲酒しながらの雑談です。みなさん用意しましたかー?」

「用意したぞー」


『用意したぞー』

『酒だ酒だー』

『酒カスらしい飲み物って何だろう?』

『そら4リットル1000円くらいで買える安酒よ』


「ああ、いつも通りの素晴らしいハスキーボイス。さすが、オル様。こっそり録音したくなるなこれ。あ、それはそうとこの配信は残念ながらオンラインでのコラボです。オル様の容姿とか酔っぱらった色気のある姿とかそういうのは実況できないのはご了承ください、残念だなー」

「ハッハッハ。そうか、オフコラボのほうが多くなりそうな配信だからな。オンラインのほうが珍しいか」

「イメージだけならそうですよねー。ところでオル様、今日はなにを飲んでます?」


 カチャカチャと音を立てて操作すると配信画面にウイスキーを表示した。地味におつまみにしている羊羹(ようかん)も隅っこに映っている。


「マッカーン・ブラックラベルという十年物のウイスキーだね。スーパーでたまに八〇〇〇円くらいで売られているやつ」

「ああ~いい酒を選んでますね~。お気に入りのやつってのはクロル知ってますよ~。さっすがオル様です。画面の向こうにいる酒カスどもにぜひこの飲み方を見習ってもらいたいですな~!」

「ハッハッハ!」


 オルエンは彼女のわざとらしい煽りのせいでつい笑みが漏れた。クロルのほうはいわゆるメスガキ風という感じでリスナーに投げかけていた。小馬鹿にしているのではなく、からかっているだけとわかる声の調子が実にいい塩梅であった。


 ちなみにクロルの初配信は『酒カス・ヤニカス・パチカスのクソニートを脱却した美少女Vチューバー』という内容である。そのためか、彼女はメスガキやら生意気な女の子風のトークでリスナーに話しかけることが多く、それが好評を得ている。


『あ? 何言ってんだおめぇ……?』

『酒はアルコールを浴びれるならそれでいいんですよ!?』

『元酒カスが現酒カスを煽ってて大草原』

『元が酒カスだから線引きがうまいな』

『クロルはそこまで考えてないと思うよ』


「いやいや! 私はこれでも賢いんだよキミたちぃ~。オル様の配信で覚醒して本当に美女になれた私の言葉を信じたまえ! ああいや、クロルの真の姿は見れないか、残念。あ、知ってると思うけどオル様はマジの美人だって報告しとくわ。というかアバターと外見がほぼマンマでびっくりするレベルでやべーよ? ついつい惚れ直したわ、キャ(ポッ)」


『美人の証言が増えて草』

『同期はコンプリート済み。他の1期生も言及してたっけか?』

『そういやクロルはなにを飲んでるのさ?』


「クロルはこれです! マッカーン・ブルーラベルです!」

「おお! それマッカーンの三万くらいするやつじゃないか!」


 クロルの配信画面に酒を映した写真が出される。端っこには地味におつまみにしているであろうポテチが映っている。

 操作を終えると、クロルは画面上でチラチラとオルエンに目を送った。一言で言うなら恥ずかしがりながらも好きな人に媚びている女の子だ。


「本当はこの初コラボはですね、オフコラボでオル様と一緒に飲もうと思って買ってたやつなんですよー」

「二人だけで?」

「もちろん、ふ・た・り♪」

「きっしょ。却下で」

「ひでぇ!? ちょっとは希望をくださいよ清楚の魔女様!」

「なんか新しいあだ名が増えたな……」


『無慈悲で草』

『どうして……どうして……』

『そらおまえ彼女が出来たって公言してるんだからそうなるわよ』

『彼女は束縛するタイプなんかな?』


 最後のコメントが目に入り、オルエンはフフと笑う。


「私の彼女は束縛なんかしないよ。仕事が仕事だから女同士のオフコラボはもちろん、二人きりでのお泊りもお互いに許可してるくらいさ」

「マジ!? ああいや女同士は友達みたいな感覚が抜けない人なんか?」

「まあ許可が出てるからと言ってそんな不誠実なことをする気にはならん。私の沽券に関わる」

「この魔女様超堅ーい……いやあ、そこがかっこよくていいんですけどね。ちなみに複数人ならオッケーですか?」

「複数人なら問題ないと思ってるよ。さすがに数人まとめてなんて無理だろ。男女混合でも難しいだろ普通はさ」


『うーん清楚』

『これはフルライブで一、二を争う清楚』

『まあでも女だらけで乱〇はさすがに起きないわな。どんな確率やねんって』

『男同士のウホウホ〇交動画もそんなないからな』


「あ!? 大事なことを忘れてますよみんな! お酒を入れてコップを持ってください! 忘れないうちにやりましょう!」


 クロルが慌てた様子でガサゴサと準備する。

 オルエンは慌てずにさっとコップを持った。


「よっしゃ、じゃ~改めて。今日の出会いに感謝を!

 かんぱーい!」

「乾杯……ってそうか、やってなかったな。ハッハッハ」


 コメント欄も乾杯の言葉でにぎわっていた。その中で配信画面からは目を閉じて飲む仕草と、ウイスキーの深い味わいにアーとかいうクロルの声が漏れる。


 さらにクロルが感嘆した様子で発言した。


「うまい。芳醇な香り。舌の上を優しく転がっていく感じがすごくいい。アルコールじゃなくて、スモーキーな香りで勝負してくる上質な酒の特権をフル活用している。いや、アルコールを添えているからこその味と香りの広がりなんだろうね。アルコールがないと軽すぎて薄っぺらくなるんだろうなきっと。その部分は神秘的すぎて解明することは難しい。神聖な香りだからこそ、ずっと解明されないでほしいというワガママを言いたくなるんだきっと。これが楽しめない人は、本当にもったいないと言いそうになります。

 オル様も美味しいお酒ってそういうふうに思いませんか?」


 純粋な問いに、オルエンは思わず呆然としてしまった。饒舌な言葉で酒を語る彼女の発言はオルエンの内心に深く共感できる部分もあったからだ。


 コメント欄も盛り上がっている。内容を見れば酒好きの中でも高級酒を嗜んでいる層であろう。共感したり、もっと具体的な言葉が出たり、あるいは別の銘柄と比較したりなどが始まっている


 そんな様子にクロルは少しばかり困っていた。


「あ、あの、私なにか変なことを言いました?」

「あ、いや、ごめんごめん。きみは変なことは言ってないよ」


 オルエンが咳払いしつつ答える。

 クロルはコメント欄の確認に必死だ。


「クロルがさ、そんなガチのソムリエみたいなコメントを言うとは思わなくて意表を突かれたんだよ。かっこよかったぞ、なあみんな?」


『そうそれ』

『惚れ直しました』

『悔しいが酒カスを卒業したことを確信してしまった』

『酒カスには一生言えねえコメントよ~』


「あ、ありがとうみんな……いやでもクロルは素直な感想を言っただけだからね? あんまり過剰に持ち上げるのはダメだぞ……?」

「うーんこれはかわいい。一〇〇点」

「やだーもー! 照れさせないでくださーい!」


 クロルが素直に照れていた。もし隣にオルエンがいれば思わず軽く肩を叩いてかもしれない勢いだった。

 オルエンはそんな彼女にニヤニヤである。コメント欄もオルエンと同じ気落ちであろう。


「話を変えましょう! オル様、お酒っていろいろな飲み方があるじゃないですか。オル様的にダメな飲み方ってあります? クロルは最近、安酒を飲むのはダメなんじゃないかと思い始めてきているんですよね。でもそれだけだとあんまりしっくりこないから、なにかこう助言的な、オル様の考え方をお聞かせください」

「なるほど……」


 オルエンが考え込むのを見て、つられてクロルがニコッと笑顔になった。理由は当然、魔女の哲学が出そうだからである。コメント欄もクロルと同じように期待している様子だ。


「ちなみにクロル。酒カス時代はどんな飲み方だったんだい? 安酒ガバガバ?」

「まあガバガバ、ですかね~。安酒は間違いないです。酒カス、ヤニカス、パチカスでしたから常に金欠でしたよ。お小遣いの範囲外は越えなかったんでなおのことですね」

「なるほどなるほど。飲むのは楽しくなかった?」

「一人で飲むときは惰性ってやつですよ、惰性。妹ちゃん、あ、妹がいるんですけど、妹ちゃんと話しながらとか友達とワイワイしながらのお酒は好きですよ。そうなると安酒を飲むのも悪くないんかなあ……?」

「リスナーのみんなは? ふむ――“友達と飲むのは楽しい”“安いのも高いのも飲み方次第”“いっそ高級酒ガバガバが至高か?”――いや高級酒ガバガバは至高じゃないなあ、ダメなやつだなあ、ハッハッハ」


 オルエンがカランと氷を鳴らしながらウイスキーを飲む。芳醇な香りと高いアルコール度数に自然とふうと息を吐いてしまう。クロルもそれに合わせて一口飲んだ。ついでにコメント欄がふうで埋められる。


 オルエンはそんなリスナー達に少し苦笑いをしてから、真剣な表情で語った。


「私が明確にダメだと思う飲み方は、アル中になってしまう飲み方だな。そうなる前にお酒を休んで体調を整えたいね」

「ほうほう。休刊日というやつですね」

「定期的に休みを作ればまあ大丈夫だが、今の時代は若者に貧困を押し付けるクソったれなストレス社会だからな。お酒しかストレス解消できないというやつはわかっていても休刊日なんて作らないだろうし、やばくなるまで飲み続けるだろうさ。それはある意味どうしようもないよ」

「まあ、それもそうですね。いやーちょっと覚えがあるからなんも言えねえや……」


 クロルが苦い顔を浮かべる。

 オルエンは顎に指を添えて思案しながら続ける。


「助言で言うなら、自分の飲み方の変化に気をつけることか」

「変化ですか?」

「そう。最初はみんな酒に呑まれるなんてことはないさ。覚醒剤や麻薬じゃあるまいし、次の日からずっと体調がおかしくなるなんてことはない。少しずつ少しずつ変化していく。お酒に慣れてきたから一杯だけ増やそう、ストレスが多いから一杯だけ増やそう、体が慣れてきたから酒の量を増やそう。こんな感じで気軽に変化していくのさ。

 ここで正気の……いや、違うな。体調がいいとか、適切な労働環境にいるとかで、考える余裕があるやつは冷静な判断ができる。休刊日を作ろう、一日の酒の量を減らそう、しばらく禁酒しようとかな。いい方向へ変化させて自分を戻せるのさ」


 なるほどという感心の言葉がコメント欄に並んでいく。


「でもそれが出来ないやつは悪い方向にだけ変化していく。成れの果てがアル中だ」

「……防ぐ方法ってあります? クロルの考えだと、本人の気質や根性でしか防ぎようがない気がしてきましたよ?」

「基本的にはそうかもな。ただ、私的には危険なラインというものがある。それは、体がアルコールしか美味しいと感じなくなり始めるところだな。ここで戻るか戻らないかがアル中になるかならないかだろう」

「……えーと……あ、もしかして料理酒やみりんを飲んでしまう状態のことですか?」


 確認するクロルの問いに、オルエンは頷いた。


「系統としてはそう。その究極系が料理酒やみりんどころか、消毒用のアルコールを飲み始める状態かな? まあそこまでいくともう手遅れだがその前の段階で止めたいな。例えば、ビールから度数の高い缶チューハイやワインに変更したけど酒の飲む量が変わっていない、そういう段階でブレーキをかけられるようにしたい。その段階で休めるなら、たぶん間に合うだろう」

「あーなるほどなるほど――“危なかったなクロル”“料理酒はやらかしたんだっけ?”“ガチ9を三本開けてドン引きした妹ちゃん、正しかった”――やめろー! 黒歴史だからやめろー! 私の配信ならいいがオル様とのコラボで言うんじゃないッ!!」

「ハッハッハ!」


 コメント欄の恥ずかしい暴露にクロルは台パンと同時に応えていた。そのやりとりにリスナーとの良好な関係性が見えて、オルエンはつい笑ってしまった。


「まあ、自分がアル中になるには好きにすればいいし、人がなるのも構うことはないさ。お人好しは止めたくなるだろうが、他人の人生だからな。放置するのが賢明さ。

 身近な人間がアル中になったら病院に連れていくべき、というのが良識のある人間の対応だと周囲の人間やテレビなどでは言われがちだが、そんなことはないからな? 

 アル中になった人間なんて小学生よりもワガママで人の言うことなんてまず聞きやしない。聞ける理性があるならそんな問題なんてまず発生しない。アル中になる前の忠告や助言を聞き入れているはずだ。

 自分の人生が台無しになる前にアル中になった人間なんて捨ててしまえ。血縁だろうがなんだろうが気にするな。そいつはきみの人生を台無しにする権利があるのか? 結婚の邪魔をする権利、自業自得の病気になったときの世話をする義務があるのか? あるわけがない。

 アル中になってきみを不幸にする人間なんてすぐに捨ててしまえ。

 私が言える助言はこのくらいかな」


『決めました。夫と離婚します。魔女様ありがとう』

『オルさんの一言で目が覚めたわ。カスの両親と縁切りしてくる(; ・`д・´)』

『へっ。おまえらだけで行かせるかよ! 俺もババアをブン殴ってわからせてやるぜ!! みんな! 俺たちに勇気と知恵を分けてくれぇ!!!』

『ちょwwwやばい家庭のやつがいて笑うしかないんだけどwww』

『頑張れよーオルさんもワイらも応援してるでー』

『我が人生は幸福でないとならない(by魔女の哲学)』


 盛り上がっているコメント欄を見ているとクロルは自然と青ざめていた。ただ、冷静ではあるのでしっかりとキャラクターの方にも青ざめた表現を忘れないようにしている。それらを見ているオルエンは楽しそうにウイスキーを嗜んでいた。


 少し間が空いて、クロルが重苦しそうに息を吸って、彼女から口を開いた。


「……以上、魔女の哲学でしたー……やべえ、過去のやらかしで胸が痛いんだけど……」

「クロルなら問題ないだろう。アル中がマッカーンをあれほど素晴らしく品評なんてできやしない。せいぜい度数が高くていいねっていうのが精一杯さ、ハッハッハ!」


 オルエンは励ますがクロルの困り顔は解けない。


「……オル様、クロルはですね、今、過去のお酒でやらかしで迷惑をかけた妹ちゃんに謝罪をしなければならないと自覚しました。

 プレゼントでご機嫌を取ろうと思うんで相談させてください……っ」

「プレゼントか、何がいいんだろうな。私も疎いんだよそういうの。私の彼女なら適切にアドバイスが出来そうだけどなあ」


 そう言って二人はだらだらと雑談していった。時間は予定を過ぎて夜の三時まで。

 しかしその配信は間違いなく成功しており、リスナーの大きな娯楽になっていた。




■オマケ設定集3■

「Vtuber+0」の世界線において、0期生メンバーは以下の通り。

また運営が設定したのは1期生よりかなり時間が経過してから。

時期的には2期生が加入する付近。

異名は0期生結成当時のもの。


・0期生メンバー(Vtuber+0)・

青空みちる(異名:特になし)

彗星ルカ(異名:Vの歌姫)

シルヴィア・ブラックフェザー(異名:ガチ恋羽)

クロル・エ=アップルナイト(異名:酒カスおデブ、声かわファットマン)


「アップルナイト」の理由は本人がふくよかだから。




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