第16話「迅速な対応」
社守さくら(V:雪藤美子)とシルヴィア・ブラックフェザー(V:長船羽月)ののコラボ配信から数日後、フルライブ事務所の会議室にスタッフとフルライバーが集合していた。会議の内容は企画の微調整、それからさくらとシルヴィアの謹慎処分に関することである。
「――以上です。雪藤さんと長船さんのお二人には、機密情報の漏洩に注意することに関してはもちろん“社守さくら”と“シルヴィア・ブラックフェザー”のブランド力を、著しく損なうような言動は慎むようお願いいたします」
司会進行を勤める女性スタッフの発言に、雪藤美子(V:社守さくら)と長船羽月(V:シルヴィア・ブラックフェザー)は申し訳なさそうにして、会議室にいる皆へ頭を下げた。
それを皆が無言で見据える中、八合社長が難しい顔で手を上げ発言する。
「――そういうわけで、もうしばらく二人は謹慎処分という形で配信は休んでくれ。まあ出来るならでいいけど、その間に厄介な問題リスナーについては対処を考えるようにね。じゃあ、解散。あ、凛さんはちょっと残ってくれ、軽い相談がしたい」
一同が会議室を出ていく。美子と羽月は特に重い足取りで退出していった。そうしてあらかた全員が出たところで橋渡凛(V:魔女屋オルエン)が八合のところへ向かおうとする。
ところが黒染千鶴(V:彗星ルカ)は皆が退出しても最後まで残っていた。戸惑いの表情を浮かべ、社長のところへ行き何か言おうかと迷っているらしい。
凛が気付いて社長に目配せすると、八合がお任せというジェスチャーを返す。その意を受けて凛は千鶴に声をかける。
「黒染。社長に何か言いたいことでもあるか? それとも相談か? まあその前に、そんなに慌てているようじゃまともに言葉を出せないだろう。私に相談してもいいぞ?」
不意を突かれたのか千鶴が、あ、あ、あ、と言葉に詰まってしまうが、一度息を整えてから凛に返答する。
「その、アイドルが恋愛禁止っていう風潮はわかるんだ。私は元々アイドルの卵だったし、観客としてみるアイドルも好きで、その、アイドルが他の男とイチャイチャしてるのにモヤモヤしているっていうのはわかる、ただ――」
千鶴は一度、言葉を切る。深呼吸して。
「もうそういうのは、時代遅れになりつつあるのも肌で感じてる。私だってアイドルが恋愛しちゃいけないなんておかしい考えだってのもわかってる。じゃあさくらはどうして謹慎処分になったの? インサイダー取引みたいなものに引っかかるような情報を漏らしたわけじゃないんだっ、だから――」
「そうだな。きみの考えは正しい。私もそう思うし、八合もそう思ってるぞ?」
凛の返答に千鶴が驚いた表情を浮かべた。千鶴がそのまま八合に視線を移す。八合は予想してなかったのか、咄嗟の反応で目を逸らしていた。
そんな彼に千鶴は思わず疑問の目を向けてしまう。
「オルさん、あの人なんか目を逸らしたんだけど?」
「まあ今はまだ不安が大きいんじゃないか? もうほとんど腹を決めてると思うがね。私への相談というのは単に後押し、というか私の理屈を聞いて確認作業をしたいんじゃないかな? タレントを八名、スタッフは三十名だったか? まだまだ規模を拡大する予定で海外の進出まで考えてるんだ。
ステップアップすべき今、フルライブのブランド力を落としたくない。経営者としてそりゃあ慎重にもなるさ、ハッハッハ!」
何の重圧も感じてなさそうに凛は声を大きくして笑った。思わず千鶴は呆けた表情を浮かべてしまった。同時に少し、彼女の不安も吹き飛んだようにも見えた。
それを感じた凛が千鶴に頼みごとをする。
「黒染、きみにお願いがあるんだ」
「なんだいなんだいオルさん。かっこいいルーちゃんは可能な限りのことをしてやりますよ~?」
「たぶん、きみのチャンネルでもさくらの話題が出てるだろう?」
「まあね。意図的にコメントを拾わないようにはしてるよ」
「もしいけそうだなっと思ったらでいい、社守さくらのことを話題にしてくれ。それで彼女の魅力を改めて伝えてほしい」
千鶴は腕を組んで考えを巡らす。
「一緒の仕事が多いきみは美子のいいところをたくさん知っているだろう? なら彼女の長所を思う存分に語れるし、秘密にしていた秘蔵トークなんかもあったりするはずだ。そういったもので彼女の良さをアピールしてくれ」
「それ、頼んでまでやってほしいことなの?」
「フルライバーに推しがいると言ってもリスナーの全員が全員、さくらのことをよく知っているわけじゃないからな。そういうリスナーにも知ってもらい、少しだけでもいいから、アンチが活動しにくい雰囲気を作ってほしいのさ。
配信者がたしなめるのは空気が悪くなるが、リスナー同士で注意し合うのはまともな雰囲気になりやすい。そういう土台を作って、さくらが帰ってきても問題ない雰囲気で迎えたいんだ」
「オルさんもなかなか悪いことを考えるねー? 自立兵器にお願いするってやつだし」
「リスナーからの信頼がなければできないことだけどね。彗星ルカなら問題ないと思うからさ、どうか頼むよ」
「わかった、頑張る。というか考えたらそれしかできないもんな、私にはさ。あ、シルヴィアの方は――」
「そっちは主にクロル達がやってくれるさ」
「なーるほど。さすが魔女だ、よく考えてるなー」
千鶴は悩みが取れたように思いっきり上に手を伸ばして背伸びした。
「じゃあ頑張るわ、またなオルさん、八合社長!」
千鶴が勢いよく会議室から飛び出していく。残った二人は手を振ってそれを見送った。そうして凛は八合の元へと行き、近くの椅子に楽な姿勢で座り込む。
「それで、相談って?」
「決まってるでしょう。今後の方針ってやつですよ」
「それはもうあんたの中で決まってるだろ? 私は反対しない」
「いやいやいやっ。万が一方針と噛み合わないなら凛さんウチを辞めちゃうんでしょ?」
「そりゃそうさ。ジークンドーのインストラクターに転職しようかな?」
「いつもあっさり言うのやめてよ~(;´Д`)」
「ハッハッハ」
わざとらしいながらも情けない顔で引き留める八合。
いつものようなやりとりに凛は軽く笑ってしまった。
「まあたしかに凛さんの言う通り、やるべきことはほとんど決まってるんだ」
八合はふうと息を吐いてから、慎重に言葉を続ける。
「冷静になればなるほど恋愛禁止なんてバカらしい。これからのアイドルは顔出しにしろVチューバーであろうと、そんなものはどうでもよくなるくらいに大衆向けになっていく。マイナーメジャーな路線であっても平成以前のアイドル達の売り方に比べれば驚くほどに大衆的な売り方になる。
いや、現状すでにそうであると言っても過言じゃない。フルライブ、ダブルトリプル、ブルーミストの三社は少なくともそれが出来ていると考えています」
「おや? ブルーミストも?」
「エロと言ってもボイスまでだからね。リスナーと本当に性的なことをする人はいないし……いや、いちおうは狙っている人がいますか。まああの人は例外としましょう。あれはそういう破天荒エロタレントさんですよ。
ブルーミストさんの方針の、中の人をチラチラさせるのも個人的には差別化に繋がる優れた戦略であると考えています。
個人的なリスナー視点で言うなら、Vチューバーの中の人を知りたいと思う行動で本当に中の人を知りたいという人の割合は少ない。割合で言うなら三割もいれば多いほうではないでしょうかね。あれの本質は、疑似的な追いかけっこで遊びたいと思っているお客さんが多いというだけだ。ブルーミストはそういうごっこ遊びへの需要にしっかり応えている。マイナーメジャーとも言うべき客層に対してね」
「なるほどね、その解釈は私も賛成だ」
凛は感心しつつ頷く。
そして彼女はそれを補足するように続きを語る。
「昭和はタレントやアイドルというものを憧れという形にした。平成はそれらを遊興という形で広げていった。これを伝統として取り入れるのは商業戦略として正しい。しかし昭和や平成の悪習と汚物を捨て去らなければならない。
例えば中の人への追いかけっこを勘違いして、パンツ販売や握手券の販売などの無自覚なマイノリティ路線の商売をすることだな。
それに気をつけなければ凋落したテレビ業界の二の舞さ」
「厳しい現実ですねえ……開拓しなければならないというのは適切な手本がないということだ。しかし指摘は事実だ。いまさらそんなことをすればブランドが崩壊する。いや、SNSが広がった現代ではもっと大きなデメリットが存在する」
「今の時代に昭和と平成のやり方は通用しない。容姿が劣っている人物? Vチューバーになって外見のデメリットを消したりできるし、人格とのイメージと一致させたりあえてギャップを生み出すよりよい組み合わせにしてしまうこともできる。
枕営業? そんなものをすれば本物のタレントは離れていくだけだ。リスナーや視聴者に接するためにテレビ局という第三者を必ず通さなければいけない時代はとうに過ぎてしまった。タレントやアイドルは自分たちで動画サイトに投稿できてしまうからな。
こんなライバルがポンポン生まれる時代に古臭いやり方なんてやるだけ損だ。どんどん効率的にしなければ置いていかれる。そうだろう?」
「違いありません。となると、過剰に恋愛を求める悪質リスナーに断固とした対応を表明することを、改めて運営から進んでやるべきですか?」
「公式ホームページなどで多少の声明は出していただろう?」
「それはもちろん。まあ、目立ちませんがね」
「そのくらいでいいんじゃないか? 目立つようにやったらそれこそタレントや事業の広告の邪魔になりかねない」
「たかがワンクリックされどワンクリック。その労力でページを見る見ないが変わってしまう。全員が対等なネット環境を持つわけではありません。まあそもそも、お客様はそんな諸注意は見ないものですからねえ」
「まあ、揚げ足取りのアンチのような連中くらいしか見ないだろうな」
苦笑する八合に凛も共感して笑ってしまった。
「八合、明日あたりで哲学を語る配信をしようと思うんだ」
「哲学を……? それはとんでもない内容ですね。魔女屋オルエンは自分からそんな内容の配信なんてしたことないでしょう?」
「だけどけっこう目立つだろう?」
「ええ、リスナーには目立ちますね」
八合は驚きながらも得心している。
凛も実に悪い笑顔になっている。
「その配信でまあ、私のタレント、アイドル、Vチューバー、顔出しの配信者に対する見解と、まあ老子っぽい哲学を混ぜたら十分なエンターテイメントが成立するだろう。その中にさらっとフルライブ・プロダクションの運営方針やらを話しつつ、その内容を賛美してさくらが復帰しやすいようにリスナーを誘導する。そこに最後に萌えをつけ足せば完璧さ」
「いやーオルさんに萌えはいらないよー」
「きみもひどいやつだな。クロルにも言われたんだが」
「ああ、彼女が言うならやはり間違いないでしょう、ワッハッハ!」
八合が珍しく大声で笑うと、凛はふざける形で驚いた顔を浮かべた。
そして八合が表情を戻す。
「凛さん、その配信、下手を打てば炎上になると思うけどいいのかい?」
「そうだろうな。なに、大したことはない」
「場合によってはフルライブとの契約は切られるやも?」
「その時は私達には令和のアイドル、アイドルVチューバーという興行ビジネスは早すぎたというだけさ。しかしいまさら、平成のアイドル興行は必要とされないと思うがね」
「そうですね。そうなったらこれまで積み上げてきた我々の明確な運営方針が全てひっくり返されるに等しいですからね、アハハハハッ!」
八合がひとしきり笑って落ち着くと、凛を激励する。
「では、配信を楽しみにしています。お互いにやるべきことをやりましょう。まあ、我々はやはり、これまでの方針をそのまま続けるだけですがね。何かこちらで必要なことがあれば仰ってください」
「ああ、最善は尽くす。じゃあ、お疲れ様」
「はい、お疲れ様でした」
そうして凛が会議室を退出したところ、時野梓紗(V:青空みちる)が近づいてきた。どうやら話が終わるまで廊下で待機していたらしい。
「凛さん、密談はどうだった?」
「密談?」
「ほら、あれあれ。戦国武将とかしてそうな感じのやつだからさ」
「あーなるほど。いやでも大したことは話してないよ?」
「ほんと~?」
「本当さ。女王陛下に誓って」
「フッフッフ、女王様は騙されませんっ」
凛が胸に手を当てて拝礼するようなおふざけをすると、梓紗は余裕を持ってドヤ顔で胸を張った。凛はそれに成長を感じて思わずちょっと感動してしまった。
梓紗が何でもないように話を続ける。
「さっきね、ルーちゃんに会ってね、彼女がやることを聞いたの。それとクロルちゃん達一期生はシルヴィアさんのサポートをするでしょ?
オルさん、私にやってほしいことって何かない?」
「んー、特にないかな?」
「……意地悪な顔をするタイミングじゃないと思うな」
「ごめんごめん」
笑いながら言う凛。わざとふくれっ面になるみちる。
「まあ、実際にすぐにやってほしいことはない。強いて口にするなら遊撃隊みたいな役割がよさそうとは思ってる」
「遊撃隊?」
「そう。予想外のトラブルだったり、ちょっとサポートが必要な場所をカバーしてほしいという感じさ。私は君の長所は小さなこと、小さな変化に気づくことだと思っている。適任だと思うがどうだろう?」
「わかりました。頑張ります」
「お? 素直だね? もう少し粘るかと思ったんだけど」
梓紗は自慢げに理解してますよというポーズを取る。
「凛さんが進んで私達の盾になろうとしていることくらいわかるもの。それも頭の回転が早いから、時には一人でやるほうが効率がいいんだなっていうのもわかる。それなら私は出来ることをやるだけ、私にやってほしいことをやるだけです」
「おー! さすがみちるだ、よろしく頼む」
「まっかせなさーいっ!」
パチパチと拍手する凛。
しかしふと、梓紗は少し心配そうな顔を浮かべる。
「あのね凛さん。あなたってストレスとか大丈夫?」
「ストレス?」
「批判だとか悪質コメントって誰にでもあるけど、凛さんのやつは独特でやばそうなのがあるし、荒れるのがわかっていて辛辣な返答をする時があるじゃない? 前からそういうのがちょっと心配でね」
「やっぱりきみはフルライブのクイーンだね。きみと同期になれたことが嬉しいよ」
凛はとても嬉しそうに頷いていた。
というのも前世の記憶において、黎明期の青空みちるは積極性に欠けた引っ込み思案だという記憶があり、それが全く似合わなかったという印象がある。それに比べると今の彼女は生き生きとしている。それが凛には嬉しいのだ。
「私は大丈夫さ。ストレスがたまったら恋人に甘えさせてもらっている。そうだな、例えば膝枕とかよくしてもらってるよ」
「っ!? そ、そうなんだ、イメージが湧かない……」
「まあ太ももやら胸やらに顔を埋めたりとか……やめよう、言ってて恥ずかしい」
自然と出た言葉に凛は顔を赤らめてそっぽを向いた。
梓紗はそれを見て安心する。それが彼女のストレス解消方法というのがよく理解できたからだ。
「よかったよかった。じゃあね、凛さん。もし特急で問題が起きたら連絡してください。遊撃隊なのでシュバババっと動きますよー?」
「ああ、その時は頼むよ。じゃあ、またな」
そうして梓紗と別れ、凛はまっすぐに帰宅した。
ちなみに帰宅は自宅ではなく、今日は美子の家だ。
彼女はそこでのんびりしながら、次の配信のことを考えることにしていた。
■ ■
夕方を過ぎて夜を迎える直前。雪藤美子の自宅にて、美子は夕食後の食器洗いをしている。
リビングのソファーには橋渡凛が座って考え事をしている。横書きでメモを取るためにクリップボードにコピー用紙を挟んでいるものを手にしている。スマホは検索のために使う程度で、基本的にテーブルの上に放って置かれていた。
美子が食器洗いを終えてリビングに戻って来る。しかしいつもと違ってまだ気まずそうにソワソワしていた。しかし意を決して話しかける。
「凛ちゃん、あの――」
凛が薄く笑う。ジェスチャーで隣においでとほのめかす。視線はメモを見つめたままだ。
美子は素直にそれに従った。
「凛ちゃんあの、ごめんなさい……」
「? 何の話だ?」
「いや、明日の配信はやばいことを話すんじゃないかと思って」
「ああ、気にするな。興行的戦略で言うなら仲間思いをアピールできるし、哲学とかいうちょっとした独自要素も出せるしで、損どころか得をする配信さ。大したことはない」
「……ありがとう」
「うんうん、しっかり理解できたようで何よりだ」
凛が美子の頭を撫でていく。
美子は浮かない顔でされるがままだ。
「こんなに面倒なことになっているのは、そもそも平成のアイドル文化にある悪習のせいさ。冷静に考えれば本来なら炎上案件になんかならない。まあ、フルライブの公表している方針もあってひどい火災ではないようだけどね」
「うんまあ、あんなもろだしトークでこの程度で済んでるのがちょっと不思議だっていうの、実はちょっと感じてる。もっとビッチ! 売女! メス豚! 肉便器! おまえもチ〇ポにヘソ天女! とか言われるもんだと思ったし……」
「最後の懐かしいパワーワードだなあ、ハッハッハ」
凛がいながらクリップボードをテーブルの上に置いた。メモは思考をまとめるためのもので大したことは書いてない。字も早書きのせいかかなり汚く書かれていた。
凛が美子を軽く抱き寄せる。
「話す内容としては、まあ、大体まとめた。ちょっと警告やお説教の要素が強すぎる気がするが、そう受け取られたら仕方ない」
「大雑把な内容を聞いてもいい?」
そうだなまずは、と凛は一言言って間を置くと。
「アイドルに恋愛を求めるのはアホの極み、から始めるかな。それと枕営業は廃れていくし、何ならもう存在しないかも、誘われても泥船だから逃げろ、みたいな話あたりをするかなあ。とにかくそういう感じの流れにしたいね」
「あかん、アイドルに喧嘩を売ってる内容にしか聞こえなくてワロタ。あなたはしっかりバーチャルアイドルなんですよー?」
「失敬な。令和のアイドル興行を健常化するための提言さ。特にアイドルVチューバーのほうを健常化したまま確立するためのね。リアルのアイドルはついでが過ぎるかもしれないが、まああっちも損をすることはないだろうさ。ハッハッハ!」
お互いに明るい感じで笑うと、じゃれあうように優しく体を触れ合わせた。
「まあそれからアンチへの基本的な対処法とその理由を話す。危険性についても話すかな。最近になって金儲けにも出来る可能性が思い至ったからそれについても話して、フルライブに失望されないように誘導するかな?」
「か、金儲け? アンチが?」
「まだちょっと考え中だから正確にはどういう話になるかわからないけどね。まあそういう話をしながら最後に、社守さくらをこれからもよろしくお願いします、みたいに話を繋げるのさ」
「……おー」
想像がつかないので美子はポカーンとした顔になってしまった。
「まあさすがにこれだけだと哲学配信の名前が詐欺になりかねないので、どうにか老子の話を絡めれば面白くなるかなと思ってるところさ。こんな感じ、どう?」
「老子ってなんか聞いたことあるかもしれないけど、なんだっけ?」
「中学や高校の授業で聞いたことあるかもしれないね。中国の昔の思想家のことさ。その人達の残した思想書を謀略術、処世術として現代解釈した本が面白くてね、私の肌に合ったからそれを基本にちょっと哲学っぽく考えたことあるんだよ。それを配信で使おうと思う」
「はえーすっごい。私はわかんない世界だ」
「暇だったら配信を見てくれよ。頑張って中学生くらいからわかるような内容に心がけるからさ。アイドルについて興味を持ってくれない人は、こっちの話に興味を持って老子を調べてくれればそれだけでも嬉しいものさ」
「はーい、ぜひとも見させて貰いまーす……なんか老子って複数人いるような言い方だった気がするけど気のせい?」
「老子は一人じゃないからねえ。勝手に内容を足されたのか、意図的に不特定多数の無名の賢人の言葉を残したものか今じゃわからないらしい」
「うーん、この真偽は定かではない、ってのが古い匂いのするモノホンの歴史って感じがしますなぁー」
お互いに笑うとそのまま立ち上がった。難しい話は終わりとなったからだ。二人は台所に行き冷蔵庫から水を取り出して飲む。
「なあ、美子」
「なんでしょう、凛ちゃん」
「その、今日は甘えていいか?」
「むふふ、どうぞどうぞ。いやーきれいにしてて良かったなぁ。お酒はどうしよう?」
「明日の配信は飲酒しながらしたいから、今日はなしかな?」
「はーい、わかりましたー。じゃあ先にちょっと整えておくね……愛してるよ」
美子がほっぺにチューをすると、凛がお返しにほっぺにキスを返した。すると美子はいそいそとコップを置いて寝室へと向かった。
凛はもう一杯水を飲んでからコップを片付け、さらにリビングのスマホとメモを片付けてから寝室へと足を運んだ。




