第15話「火種」
それから一週間後。
今日は社守さくら(演:雪藤美子)とシルヴィア・ブラックフェザー(演:長船羽月)のコラボ配信が行なわれた。
「――はい、オープニングが終わりましたぁ! こんさくー! フルライブ0期生の社守さくらでーすぅ! よろしくお願いしまーす!」
「はーいどうもみなさーん! こんはねー! フルライブ1期生のシルヴィア・ブラックフェザーです! 今日もあなたを見惚れさせちゃうぞ☆ よろしくお願いしまーす!」
二人がお互いに拍手しながら始まる。
コメント欄も歓迎の言葉と拍手の絵文字がずらっと並んでいった。同時接続の人数は普段よりも多い五〇〇〇人ほどの人数が表示されていた。
「シーちゃん、今日の挨拶はどすこいバージョンじゃないんだね」
「そうねえ、使い方が難しくてねー。対戦するときに気合を入れるときはどすこい挨拶でいいかなって思ったんだけどさー……“どすこいのほうが似合うぜ!”じゃないんだよ? あんた達アイドルの扱い方がどんどんオモチャで遊ぶ方向に向かってない?」
「ハハハ……いやーもうね、シーちゃん。令和のアイドルはリアルの方もバーチャルの方も芸人要素とか必要だからさ、受け入れていこうっ」
「シルヴィアは~? バーチャルでみんなに萌えを与えてみんなをキュンキュンさせたいんだけどなぁ~? それだけじゃー……ダメ?」
シルヴィアが首を傾げて皆に問いかける。その瞬間、コメント欄がかわいいのコメントで埋まった。表情とキー入力の調整によるその仕草に、さくらもつい素直にかわいいと感じ入ってしまった。
「さすがシーちゃんだ……ん? ――“どすこいが足りない”“どすこいでカタルシスを揺さぶれ”“かわいいだけじゃ令和は乗り切れないぞ”――どすこい中毒がいますねぇ」
「なんでどすこい要素が必要やねん! 刺身につける醤油みたいな扱いにするな! ――“それを言うならわさび”“コショウでもいいぞ”“おいおいマヨネ~ズだろぉ~?”――じゃないんよ?」
「これは修正を諦めるしかないみたいですね、シーちゃん」
「……エロゲーの経験ですか?」
「フッ、認めたくないものだな、性癖という正直さゆえの過ちをな……ッ」
「ドヤ顔で言わないでくださりますー?」
「しょーがないなぁ~。次の機会は変顔を調整してから言うことにするね」
「うん、誰も表情に変な調整をしろとは言ってないんですよ?」
「アッハッハッハ~!」
さくらがドヤ顔で笑うとコメント欄が笑いを表現する草の文字が生い茂った。シルヴィアの方は笑ったら止まらなくなりそうなので我慢をした。
「よぉし、そういう流れでやっていきましょう! 遊びぃ~大全!」
「いえーい! というわけで、まずは何をやりますか、さくらさん?」
「そうだねぇ~まずはぁ~……」
さくらが間延びした声を発しつつ迷いながら、ゲームを選択し、二人で続々とプレイしていく。
そうやっていくつかプレイしたところで、現在フルライブで流行しているゲームへカーソルが定められる。
「形勢は不利……なら次は、得意な五目並べだぁー!」
「おお!(←パチパチと拍手しながら) ……質問していいですかさくらさん?」
「なにかね、シルヴィアくん?」
「シルヴィアの情報だとさくら先輩は敗北しっぱなしということなんですが――」
「それは少し古いよシーちゃん。たしかにルーちゃんにはずっと負けてるけど、何度かやって五目並べでさくらが得意なことを見つけたんだっ」
「ほう! それはなんですか?」
「フッ、それはね――この社守さくら……初心者狩りは! 大の! 大得意なのです!」
シルヴィアはずっこける。社守さくらは胸を張っている。
コメント欄は全力で草を生え散らかした。ちなみにさくらは他のフルライバーや個人勢のVチューバーとのコラボで何度か五目並べを行なっており、その勝利した相手が触ったことすらない初心者中の初心者相手しかいなかったりする。
「というわけで、本日の五目並べは華麗にね、シーちゃんを狩らせていただきますよっ」
「こんな宣言ができるなんて、なんて先輩だ。とんでもねえ先輩だよ」
「見直した?」
「考え直そうとは思いましたね」
「でしょー? ……あれ? ――“評価が下がった”“登録解除した”!?“最低です”――ってなんでよー!? かっこよく決めたじゃないさくらはぁー!?」
「アハハハ! やーいやーい!」
「どぉぼじでぇええええ!?」
「なんて汚ねえダミ声だ……アイドルVチューバーって過酷だぜ!」
とよくわからない茶番が繰り広げられ、笑い声が広がり切ったところで五目並べが流暢にスタートする。
そうしていくつか石を置いたところで。
「さあそろそろ見逃しがね、恐ろしい感じになってくるころですねっ。特に斜め! さくらはこの斜めでいつもやられますからね! そこがわかってれば五目並べは怖くありませんっ!」
「……あっ」
「あ?」
「ああ……」
「あー」
「…………」
「…………」
「勝ちですね?」
「きえぇあああああああああ!?」
やられたのは横並びの『飛び三が成立したところを防がずにそのまま四が成立してさくらの敗北が確定した』ことでシルヴィアが勝利した。わかりやすく言うならいつものように初心者レベルの失敗をしてやられたということである。
シルヴィアが思わずニタァと笑うとさくらはとても悔しそうな顔で台パンをした。
そしてすぐさま再戦するもさくらはさらに負け続けていった。そのため、遊び大全の合計勝利数も大きく開いたことで今日の企画の勝敗が決定した。
「どぉおおおじてなのぉおおおおおおお!!」
「ま、実力ですよ、じ・つ・りょ・く♪」
「ぐぅうううう……っ」
「ではちょっとした罰ゲームを受けてもらいましょうか」
「さ、罰ゲームさん。かかってきなさい」
「潔い女ですね~じゃあ、内容を発表しますね」
さくらは覚悟を決めたドヤ顔で迎え撃つ。それに対して、シルヴィアは普通に笑っているように見えた。
ただしシルヴィアの笑みはアバターを通してのもので、リアルの方は少し意地の悪い色を浮かべている。
「それではですね、罰ゲームの内容ですが……“さくらさんの一番大切な人に向けて感謝と愛の言葉を送り届ける”です! では! アーユーオーケー?」
「ふえ?」
さくらは思ってもいない不意すぎる問いかけに困惑した。
『大切な人?』
『ルーちゃんとか』
『いやいや例のあの人かもしれないじゃない』
などなど、コメント欄も少し荒れるような予兆が見えた。
「もうーとぼけないでくださいよ。配信でもよく口にしているじゃないですかー。何ならシルヴィア的にはですねー、同棲してイチャイチャしている疑惑があるんですからねー」
「……イチャイチャは表には出してないはずだよ?」
「いやでも食べ物なんかあれ同棲してないとやらないでしょ? しかも作り置きの煮物を持ってくるなんて面倒くさいのはシルヴィアもい・い・お・ん・な! だから知ってますよー? 中途半端なことをされると迷惑なやつですけど、そうじゃないのは間違いない、ですからねー?」
「あーあーあー……確かにまあそれはそう。パックの持ち運びと返却が――」
「でしょう? あ――“アールちゃんって男じゃね? さくらって彼氏がいた――”って違う違う! ちょっと思わず読んじゃったじゃないバカが!」
「そ、そうだよ違うよ!」
さくらは思わず慌てて否定した。男と付き合っているなんて事実はないし、リスナーにはもちろん、愛しの凛にそんなことを欠片でも思われることが嫌だからである。
その反応にシルヴィアはニヤニヤ笑いを浮かべた。さくらの慌てた反応が図星を疲れて慌てたように見えたからである。わざわざ大量のコメントの中から荒れそうなものを選抜し、さらに即興で付け加えたエアコメントを読んだかいがあったというものだ。
「り――アールちゃんは男じゃないよ女だよ! すっごい素敵な人でいっつもさくらを助けてくれる大切な人なんだから!」
「そ、そうだぞみんな荒すんじゃ――“りってことは倫太郎とか?”“りん、もまあ男でもいける名前だろ”“某エロゲーの主人公名が出て草”じゃねえ……やめろ、読んじまったじゃねえか!」
シルヴィアは慌てているようだが冷静だ。
なぜならさらにエアコメントを追加する余裕があるくらいなのだから。
「おち、落ち着こう! 落ち着こうシーちゃん!」
「す、すいません先輩! ちょっとこっちで――こうして――」
さくらとシルヴィアが慌ててコメント欄の炎上を鎮静させようとする。しかしコメント欄の炎上は容赦なく続いてしまう。
注意深く見るとコメントらの荒らしは単独犯のそれだ。しかし生配信中であることが災いしてファン全員が裏切っているように見えていた。
『裏切ったさくら』
『絶対に許さないぞさくら』
『さくらは倫太郎に抱かれまくってるてこと? ふざけんなよ!』
『許さないゆる債許さない許さない許さんmm』
うまく文字が打てていないものまで紛れるようなコメントの連続投稿に、二人は困り果ててしまう。その想像以上の混乱にシルヴィアは内心でやりすぎたかなーと思いつつ、次の行動に迷っていた。
そこへさくらが意を決して深呼吸をする。
「――リスナーの皆さん、改めまして、いつも社守さくらをありがとうございます。私が男性とお付き合いをしている疑いをかけられていますが、断じて男性とはお付き合いしておりません。ご了承ください。
それからいわゆるガチ恋についてですけど、私はもちろんフルライブ・プロダクションにおいてそういった配信者とリスナーとの恋愛活動については強くお断りしております! そのマナーを守った上で我々の配信活動を楽しんでいただきたく思います! 以上! 本日も配信に来てくださりありがとうございました!」
「あ、ありがとうございましたー!」
その気合の入った無理矢理な終了の挨拶をすると、配信画面がエンディング映像へと切り替わった。そして三十秒もしないうちにさくらの配信は完全に終了した。
しかしシルヴィアの配信画面はエンディングロールが流れたままだ。つまり配信は終了していない。そして、そこに音声が乗った。エンディングの曲にかき消されない程度には音声が聞こえてくる。
内容は当然、配信のためのものではない。よく言えば裏での作業中の音声というもの。悪く言えば放送事故というやつが発生していた。
「す、すいませんさくら先輩! まさかこんなことになるなんて……」
「あーうん、こっちもごめんね? うまく切り返せなくってさー。やっぱ発言には気をつけないといけないねぇ……」
「そう、ですねー。でもさすが先輩ですね、すごく落ち着いてる」
「いやあこれでもパニック中だよぉ~。あとで見返してブロックするのを考えるのは気が滅入るぅ~」
お互いに落ち込んだ感じの音声だ。
一瞬間があってから、さくらが問いかける。
「ちなみにシーちゃん、最後の大切な人って誰のことを想像してたの?」
「それはもちろんアールちゃんか、サクラスターのてえてえ営業、営業(?)かはまあおいといて、ルカ先輩のどちらかに恥ずかしい愛の言葉を贈るだろうってことを想定して前振りしたんですけど……」
「あ、あー……なるほど、なるほどね?」
さくらはあーうんうん、と悩まし気でもあり案っ得したような声を漏らす。シルヴィアの声は恐る恐るといった感じだ。
「あの、もしかして本当に恋人さんと同棲してたりします?」
「うーん、ほぼ同棲になるかなあ。半同棲っていうのが正しいね。お互いに自分の空間が必要だからさ。ご飯の時間を一緒にする感じだよー」
「え、え、え? そうかやっぱり、先輩には恋人さんがいらっしゃるんですねー」
「ええ……その反応……いやあ、そっかぁ。それさえもちゃんとは言ってないもんねぇ」
「なんとなくそんな気はしてましたけどはっきりは聞いてないですよー」
「なるほどなぁ……ま、そーでーすぅ。私には自慢の恋人さんがいらっしゃるんですよぉ」
「……あぶねー! 本当にあぶねー前振りしたじゃん私! いやーあらかじめ罰ゲームの内容は伝えといたほうが良かったですかねー?」
「いやー内容的にドッキリ形式のほうがいいリアクションになったのは、間違いじゃないとは思うからねぇ」
コメント欄が荒れていく。これがシルヴィアの配信ではなく、さくらの配信でのコメント欄であったら、もっとひどい荒され方だったかもしれない。
『悲報:彼氏発覚』
『そんな、ワイのさくらたんが……』
『冗談で嘆いてるのか本気なのかわかんねーな』
『ここはシルヴィアのとこだから冗談がほとんどやろ(笑)』
『盛・り・上がって・まいり・ました!』
「まあでも恋人が誰かまだ言えないけどね」
さくらが盛大にため息を吐く。
「いやいやそもそもオルエン先輩のように公表するほうがおかしい業界ですって」
「昔の風潮だとそうだよねぇ、あははっ」
「こっそり私にどういう人か教えてくださいよ」
「それもダメなんだねぇー。本人がすんごい恥ずかしがっちゃってさー。でもそのうちフルライバーのみんなには紹介するから、楽しみにしててね」
「ええ、ええ。楽しみにしてます。ちなみに例のアールさんってその恋人さんのことを語ってたりするんですか?」
「そだよー。名前が出ない形で配信のネタにしていい許可貰っててねぇー。そういう面でも助けてもらってるよー」
「ちなみにいつからです?」
「えーと……だいたい二年前からだねぇ」
「最初っから!? うおーすげー! そんな最初っから!? いやーすごいなさくら先輩はー!」
「リアクションデカさ過ぎて草」
「そりゃあ大きくなりますよー。素晴らしいプロ根性ですね。ますます尊敬しますよ、さくら先輩」
「あはは、ありがとー」
『さくらの裏切り者お!! ああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
『くそがあああああああああああああああああああ!!』
『ひでえ荒しだww』
『あぁ~脳が破裂してる音がピクピクするんじゃあ~ww』
『荒しのアホはせめてさくらのとこかどっかのネット掲示板でやれよ、うぜえ』
言葉のやり取りは和やかだが、シルヴィアの表情は粘ついた嫌らしさが宿っている。コメント欄の荒れっぷりに笑みが深まるばかりだ。
「じゃあそろそろ通信切りますねー先輩。明日は予定があるからさっと切ってお風呂入ってぐっすりしますよー」
「はーいお疲れ様でしたー。シーちゃん、またよろしくねー」
「こちらこそまたコラボお願いしまーす」
さくらとの通信が切れる。
そしてシルヴィアはわざとガタガタと慣らすようにマイクを動かす。効果はわからないが、残っている視聴者にやらせではないというアピールのつもりだ。
「さーってと。パソコン切っておねんねするんじゃ―いっと」
間延びした声で今度こそシルヴィアは配信を終了させた。そうして彼女はやり切ったと言わんばかりに席を立って背伸びをして緊張をほぐす。しばらく考えて、状況の把握は明日で十分だろうと判断し、彼女はその後、いつものように一日を終えた。
二日後、さくらのツブヤイターがシルヴィアの想定以上に炎上することになった。わざと漏らした配信がより炎上を加速させたのである。
フルライブ運営はこの事態を重く見て社守さくらとシルヴィア・ブラックフェザーを数週間の謹慎処分にすることを発表した。表向きの名目としては、機密情報を漏らしたことに関するペナルティということだった。
■ ■
社守さくらとシルヴィア・ブラックフェザーが謹慎処分になって数日後のこと。
とある事務所兼自宅となっている建物で、独島獣王運智満と酒鬼原信之助が酒を飲みながらの報告や打ち合わせのようなものを行なっていた。
「やあライ、ご苦労さん。一杯やるか?」
「今日は俺がアニキを車で送るんでやめときますよ」
「そりゃ残念だ。いい報告だから祝杯も兼ねるつもりだったんだがな」
「ああ、見たんですね。何で見たっすか?」
「YOURSTUBEのまとめチャンネルの動画とネットのまとめニュースサイトだな。おまえがシノギにしている事務所は俺の予想よりも大きかったらしい。地下アイドルどころかテレビのアイドルにも負けないくらいの話題になってるように見える」
「そうでしょうそうでしょう」
二人は上機嫌に笑い合っている。
「アイドルは時代遅れの産物と思っていたんだがな。恐ろしい時代になったもんだ。もしかしたら結果的にはこれも、嘘つきテレビが偏向報道しまくった結果かもしれん。本物のアイドルはテレビには存在しない、そういう判断を、オタクというお客さんは感づいているのかもしれないな」
「ほんとフルライブ様々っすよ。グッズ転売はますます楽になってますからね。しかしアニキ、政治の方も精通してます?」
「緊縮財政がどうのこうのを調べた結果、政府とテレビは全部クソだなって思い知った程度の知識だな。そっち方面の仕事はない、というよりできそうなシノギは大御所があらかたやってる。俺みたいな若造は関わらないほうがいいだろう。おまえも下っ端で誘われそうならそういう仕事はまず断っとけ。張り手隊のような仕事をさせられるからな」
「わかりました。下にも言っておきますよ」
上機嫌に飲んでいるビールをテーブルに置くと、酒鬼原は電子タバコを吸い、心地よく落ちくように脱力する。ちなみに吸っているものは市販品のタバコだ。取引で扱う以上、彼は違法薬物の危険性をよく知っているので自分に使うことはない。
「たしかシルヴィアってのがお前が入れ込んでたVチューバーだったよな? コマしたうえであの配信をやらせたのか?」
「コマしてないですし切り忘れも指示してないっす。まあ表の配信じゃ言えないことも密なトークではしてますけどね。ああ、他のヤクザ者やらの影も感じませんよ」
「ならやっぱり自主的にやらかしたってことか」
「アニキはそう思うんすか? 事故と思ったんですけどねえ」
「なかなかうまい演技だったと思うがあれは嘘をついている声だ。声の演技なら上物の風俗嬢でもできない上質だろう。詐欺師として使いたくなったよ」
「やめてくださいよー!? シーちゃんをこっちに引っ張らないでぇ―!」
独島は大げさに嘆くと酒鬼原はつられるように笑ってしまう。そして独島がそのまま悲し気に前のめりになったところで、酒鬼原が真剣な顔に戻る。
「念のため訊くが、シルヴィアがやらかした心当たりはあるか?」
「俺は偶然だと思ってますからねー。ただわざとだとしたら、シンプルに嫉妬じゃないっすか? あるいは日頃のストレスが爆発したとかかな?」
「日頃のストレス?」
「既婚者なんですよ、彼女。それも夫との関係が破綻してる。それなのに同居したまま一途に思う心もあるという、他人から見れば完全なバカ女っす。ヤンデレ女ともいうかな?」
「ほう、それはそれは。彼女も大当たり向きの人材じゃないか」
「天使計画第二弾で使うかどうかってしたいですけどー……事件が起きすぎちゃうとフルライブってブランドが粉々になるってのが難しいところっすよねー」
言いながら、独島がテーブルの隅にあったタブレットを手に取って操作し、記録しておいたネット掲示板を表示する。ただしそのままだと見えづらいので、独島が特筆したハンドルネームのやつのコメントだけを表示している。
その掲示板に投稿されたレスの内容はどれも似たようなものだ。簡単に言えば「裏切った社守さくらをぶっ殺してえ」のような内容がずらりと並んでいるのだ。
独島に促されてタブレットに表示されたそれを読み、酒鬼原は嘲笑を浮かべた。
「こういうのを見ると神様は何を考えているのかわからなくなるな」
「不遇な俺たちへのお詫びじゃないっすかね?」
「神様のお詫びで犯罪に巻き込まれるほうはたまったもんじゃないだろう」
酒鬼原は独島のジョークに笑みを深めた。
「というわけで、こいつに接触してみようと思います」
「……鉄砲玉ね。“目の前にいたら鍛えた技でとっちめてやりたい”ね。通報されそうな発言だがアングラすぎてアホしかいないのが幸いしてるな」
「まあちょっと大きいところじゃ注意されてたやつっすからね。アニキ、こいつは本物でしょ?」
「ああ、発言を見る限りは本物のアホだな。善悪の判断が本当にできない低知能で障害の認定される可能性もあるだろう。他人の文章を読めているかどうかも怪しいし、その上で自分が常人程度の賢さがあると思い上がってる。
たしかにこれが暴力を使えるというのなら申し分ない。証拠を残さない鉄砲玉にできると思う。ただ――」
「もちろん、不用意な逆上には注意します」
「じゃあ狙いはシルヴィアだな? 顔が割れてるのは――」
「あ、標的は違いますよ。忘れてました。ちょっと前にですね――」
独島がタブレットを操作する。表示されたのは別のスレだ。タイトルは『超大手Vチューバー事務所に勤めていたけど質問ある?』というものだ。続きを読んでいくとさらに独島があらかじめ絞り込んでいたコメントが表示されていく。
「すでにこいつと接触に成功しました。大当たりでしたよ。たぶんシーちゃんの言ってたアホはこいつだったんだろうなあと思うっす。
おかげでこの間の写真に写っていた女の正体が全員わかりました。その中にいましたよ、今話題になっている社守さくらがね。ああそれから、魔女屋オルエンの顔と名前もわかりました。モデル雑誌の表紙なんで古いですけど、本名で活動してたので使いどころはありそうっす。まあこっちは使うかわかりませんけど、ないよりはいいっしょ。トータルで五名が顔バレっすよ」
酒鬼原が口笛を吹き、大きく拍手をしてしまう。
独島はそれを嬉しく思いつつ、悪い笑みを浮かべる。
「この鉄砲玉が執着しているのは社守さくらのほうですからね。天使計画は実に、実に順調ですよ、アニキ」
「成功したらうまい酒が飲めるな、期待してるぞ。ハッハッハッハ!」
事務所に上機嫌な悪だくみの大笑いがこだましていった。




