2.ラベンダー(3)
翌日、ディアンは下書きの中で1番良いと思うものの下書きを描き直した。
「結局、ここにしたんですね」
「ここは、パウロの雄大な自然とかをよく表現できると思ったので」
目の前に広がるラベンダー畑と、右側にはパウロとペルカを分ける山脈。左側には草原。この3つが共存しているこのアングルなら、期待に応えるものが出せるとディアンは考えた。
ディアンは下書きを終えるとすぐに、絵の具で下塗りを始めた。紫色の絵の具は紫陽花の時に使ってしまったので、山脈から塗り始めた。
♢♢♢♢
「今日からは風景画を作成してもらう」
フィルラウスは作品の場所となる小麦畑まで案内した。
「ここで、自分たちの好きなように描いてくれ。評価はいつものようにつける」
小麦にはもう穂がついていて、そろそろ収穫だろうという頃である。そよ風で穂が優しく靡いていて、見ているだけでも心地がいい。
「ディアン、どんなの描くんだ?」
「もちろん、小麦が靡いているのを描くよ」
「だろうな、俺もそれが1番美しいと思ってるからな」
ディアンは少し高い丘の上から、小麦畑を見下ろすような壮大な風景画を描こうとした。ラッセルはその下の目の前に広がる穂を描こうとした。
それぞれ、描く場所は違えど、それぞれの感性が浮かんでいる。
小麦畑には、製作期間中は全生徒が毎日通って絵を描いた。そこでディアンとラッセルは、毎日進捗を確認し合った。
「ディアン、今日はどんな感じだい?」
「めっちゃいいね。この穂の色、どう思う?」
「最高だね、すごくマッチしてるよ」
ディアンにとって、ラッセルに褒めてもらえるのはとても嬉しいことで、製作のエネルギーになっていた。
♢♢♢♢
ラッセルの店の中に、ディアンの声が響いた。
「おーい、ラッセル!」
ディアンは下塗りの作業を早めに切り上げ、ラベンダー色の絵の具を買いに行った。
「ディアン、ラベンダー畑描いてるんだって?」
「そうなんだ。ちょっと絵の具が無くなっちゃって」
「了解了解」
「あっ、待って。とびきり綺麗な額縁も作って欲しいんだ」
「なるほどね。いつまでに?」
「まだペルカの王が来る日は決まってないけど、1ヶ月くらいで」
「分かった。最高のやつを用意するよ」
ラッセルは額縁を自分で作る。これは学生時代から始めた趣味でもある。実際、彼は自分で作った額縁に飾って、コンクールに出していることもある。
ディアンはそんなラッセルを信頼して、額縁の製作まで依頼した。
「この色だな、欲しいのは」
「うん、ありがとう。じゃあまたね」
「あっ、ちょっと待てディアン」
「どうした?」
「気にしてるだろ?」
「何を?」
「人の期待とか、評価とか」
「……まあ」
「もう気にすんなよ。自分の作品として描くのが一番大切だからね」
ラッセルはそう言って、店の奥に消えていった。