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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
ラベンダー編
9/12

2.ラベンダー(3)

 翌日、ディアンは下書きの中で1番良いと思うものの下書きを描き直した。


 「結局、ここにしたんですね」

「ここは、パウロの雄大な自然とかをよく表現できると思ったので」


 目の前に広がるラベンダー畑と、右側にはパウロとペルカを分ける山脈。左側には草原。この3つが共存しているこのアングルなら、期待に応えるものが出せるとディアンは考えた。



 ディアンは下書きを終えるとすぐに、絵の具で下塗りを始めた。紫色の絵の具は紫陽花の時に使ってしまったので、山脈から塗り始めた。


          ♢♢♢♢


「今日からは風景画を作成してもらう」


 フィルラウスは作品の場所となる小麦畑まで案内した。

 

「ここで、自分たちの好きなように描いてくれ。評価はいつものようにつける」


 小麦にはもう穂がついていて、そろそろ収穫だろうという頃である。そよ風で穂が優しく(なび)いていて、見ているだけでも心地がいい。

 

「ディアン、どんなの描くんだ?」

「もちろん、小麦が靡いているのを描くよ」

「だろうな、俺もそれが1番美しいと思ってるからな」


 ディアンは少し高い丘の上から、小麦畑を見下ろすような壮大な風景画を描こうとした。ラッセルはその下の目の前に広がる穂を描こうとした。


 それぞれ、描く場所は違えど、それぞれの感性が浮かんでいる。


 小麦畑には、製作期間中は全生徒が毎日通って絵を描いた。そこでディアンとラッセルは、毎日進捗を確認し合った。

 

「ディアン、今日はどんな感じだい?」

「めっちゃいいね。この穂の色、どう思う?」

「最高だね、すごくマッチしてるよ」


 ディアンにとって、ラッセルに褒めてもらえるのはとても嬉しいことで、製作のエネルギーになっていた。


          ♢♢♢♢


 ラッセルの店の中に、ディアンの声が響いた。


「おーい、ラッセル!」


 ディアンは下塗りの作業を早めに切り上げ、ラベンダー色の絵の具を買いに行った。

 

「ディアン、ラベンダー畑描いてるんだって?」

「そうなんだ。ちょっと絵の具が無くなっちゃって」

「了解了解」

「あっ、待って。とびきり綺麗な額縁も作って欲しいんだ」

「なるほどね。いつまでに?」

「まだペルカの王が来る日は決まってないけど、1ヶ月くらいで」

「分かった。最高のやつを用意するよ」


 ラッセルは額縁を自分で作る。これは学生時代から始めた趣味でもある。実際、彼は自分で作った額縁に飾って、コンクールに出していることもある。


 ディアンはそんなラッセルを信頼して、額縁の製作まで依頼した。


「この色だな、欲しいのは」

「うん、ありがとう。じゃあまたね」

「あっ、ちょっと待てディアン」

「どうした?」

「気にしてるだろ?」

「何を?」

「人の期待とか、評価とか」

「……まあ」

「もう気にすんなよ。自分の作品として描くのが一番大切だからね」


 ラッセルはそう言って、店の奥に消えていった。

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