2.ラベンダー(2)
さすがに王宮から徒歩1時間の場所は遠いので、馬車でラベンダー畑に通うことにした。翌日には馬車の手配をアーネが済ませていた。
「あれ、アーネさんも来るんですか?」
「ええ、専属の芸術家が王宮の街の外に出られる時は、使用人が同行する決まりになってますので」
「来ても黙って描いてるだけですので、面白くないですよ」
「それは分かってますよ。しかしルールですので」
アーネとディアンは馬車で昨日のラベンダー畑に移動した。キャンバスなど荷物は大量にあり、しかも坂がきついので、歩いてくるのは難しい。
アーネは向かい合って座ったディアンに話しかけた。
「外で創作されるのは、王宮に来てから初めてですよね」
「そうですね。あんまり荷物を移動させるのが大変なので。あとは城の庭師さんが色々とネタを用意してくれるので、事足りるというか……」
「学生の頃はよく外で描いたのですか?」
「隣のおばあちゃんがいろんな花を庭に植えていて、それを描いてましたね」
色々と昔のことを話している間に馬車はラベンダー畑に着いた。
「それではここから僕は黙って作業するので、よろしくお願いします」
「頑張ってください」
するとディアンはすぐに切り替えて、理想のアングルを探し始めた。今回は風景画にするつもりでいた。
(ここだったらちょうどいいかな)
ディアンは畑の斜面に腰掛けて、下書きの準備をした。
ラベンダーは7月ごろに見頃になる花だ。その花は刈り取られてラベンダーオイルに加工されたりもする。それは消毒やリラックスなどさまざまな用途があり、王宮内でも重宝されている代物だ。
ディアンは下書きを描いては移動して、また違うところから下書きを描いて、という作業を繰り返した。
「ディアン様、そろそろお戻りになりませんか?もうすぐ日が暮れてしまいます」
「そうですね、では帰りましょうか」
ディアンは初日の作業を終えて、馬車に戻った。
「今日は何をされていたのですか?」
「初めてラベンダー畑に来たので、いろいろなアングルからラベンダーを見て、風景画として良さそうな場所を探していたんですよ」
「ここは初めてでしたか」
「僕は南の方に住んでいたので、あまり来ることがなくて。アーネさんは今日は何をしていたんです?」
「木陰で本を読んでいました」
「まあ、暇ですからね」
正直なところ、ディアンはまだペルカの王に受け入れられるような作品を作れるかどうかの自信は無かった。
(10枚くらい描いたけど、どれも理想的じゃないな。もっと、印象的なものがいいんだけど)
すると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
「ディアン君、どうだ、進捗は」
入ってきたのは王、ボナルトだった。
「まだあまり決まっていませんが、ラベンダー畑の風景画にしようと思っております」
「いいじゃないか。出来るだけ良いものを完成させて欲しい。期待しているぞ」
「もちろん、こちらも全力で挑ませていただきます」
王に放った言葉に対して、ディアンの心は不安に満ちていた。