2.ラベンダー(1)
「君には、この城に仕えてもらって初めての大仕事を与えようと思っているんだ」
「どのようなものでも、お応えします」
「3ヶ月ほど先だが、ペルカの王がパウロに会談に来ることになった」
王の言葉はディアンにとって衝撃的だった。そしてまだ聞かされていないパウロの国民にとってもそうなるのだろう。
パウロ王国と隣国のペルカ王国には深い溝がある。1世紀ほど前、ペルカの先帝がパウロの地区に圧政を敷いていた。人々は重い税金に苦しめられ、まともな生活を送ることができなかった。そこで、パウロの民衆と、そのリーダーたちが立ち上がり、ペルカ王国との独立戦争を決行した。
パウロ王国が見事に勝利し、独立を勝ち取った。その時にパウロのリーダーを務めたのが今のストラウス王家である。
画家は独立を記念して、様々な喜びの絵を描いた。特にストラウス家の人物画は売れに売れた。おそらくそこに今のパウロの芸術の国としての原型があるのだろう。
しかし、一つのペルカ王国を侮辱するような絵が、ペルカ国内に入ってしまった。それにペルカ王国は激怒した。
今のペルカの国王は、パウロに貿易の規制をかけて、経済を苦しめようとしている。一向に関係が良くなる気配はない。
「しかし、王が来られるのですか?そんな危険なことを冒してまでパウロの国に入る必要は無いのでは?」
「ペルカの王が来ると聞いてある。かなりの警護をつけてくるだろうな」
「ほう。それで、私の仕事とは何でしょうか」
「君には、ペルカの王に土産として渡す絵を描いてもらう」
「……私がですか?」
「あぁ。君しかいない」
「そんな大役を務められるでしょうか」
「きっと出来るさ。信じている。画題は何でもいいから好きなものを描いてくれ」
ディアンは信じることが出来なかった。ただでさえ関係が難しい国に土産として自分の絵が贈られる。そんな状況はディアンにとってプレッシャーでしかない。
ディアンは親友に相談することにした。いつものように。
「おう!ディアン。いらっしゃい」
「久しぶりだね、ラッセル。ちょっと相談があるんだけど」
ディアンはラッセルの店の奥にあげてもらった。ラッセルに王からの話のことを伝えると彼は笑った。
「そういうことか、まあディアンは確かに緊張するだろうな。昔から緊張しいなんだから。」
「画題が与えられてないから、完全に自分の自由なんだよね」
「ちょっと待ってろよ」
ラッセルは紙に何かを書き始めた。それは地図だった。国の端の田舎の地域のところまで地図は描かれている。
「ここに、いい感じの花畑があるんだ。ここに行ったら何か描けると思うぜ」
「ありがとう、行ってみるよ」
ディアンはラッセルに教えてもらった花畑に向かった。おおよそ1時間は歩くほど遠いところだった。
ディアンは到着すると、目の前に広がっている紫色の花に目を奪われた。
「ラベンダーだ」
一面にラベンダーの花が咲き誇っていた。
「これなら、絶対にいい絵が描ける」
ディアンの頭の中には、すでに完成した作品が思い浮かんでいた。