7.彼岸花(8)
「そうか」
ディアンの言葉を一通り飲み込んだ後に、フラウはこう言った。
「お前がちゃんと考えてやってるのはすごいと思う」
フラウは少しずつ話を続けた。
「まあちょっと折りが悪いようなタイミングだってあるさ。ちょっと上手くいかないような時間帯だってあるだろうよ」
「はい……」
「だから向き合い続けた方がずっと良い。ちょっとずつ、ちょっとずつだ。その方がお前の思うようになる確率が上がる」
その言葉でディアンの顔がふっと緩んだ。いつものような心持ちに戻ったのだ。
「分かりました。これまでよりずっと上手くいきそうです」
ディアンはそうお礼を言うと、振り返ってアトリエに戻ろうとした。その瞬間に、後ろでフラウが囁いた。
「あいつはこの城で1番性格が良いな」
わざと大きい声で言ったのか、そうではないのか分からないが、確実にディアンの耳には届いていた。
彼岸花の絵はほとんど完成していた。あと少しだけ、装飾をするだけで終われた。少し前に描いていたときよりもずっと心穏やかに線を描けた。
1時間ほど経ったころ、ディアンは国王の元へと作品を届けに行っていた。
「陛下、彼岸花の作品が完成致しました」
「よくやった」
ボルナト国王はディアンの描いた作品を目を凝らしたり、遠くから見たりしながら、じっくり楽しんだ。
「すごく良いじゃないか。哀愁漂っていて、こういった君の作品も大好きだ」
「ありがとうございます」
褒められてから、ディアンは何を話すか、迷ってしまった。少しの間、静寂が流れた。
「どうした、ディアン。もう下がって構わないぞ」
「あっ、あの……」
ディアンは心に決めないといけなかった。
「私の使用人はどうなりますか?」
「ああ、そうだった。今、アーネは重要な役職に回したから、君の元で働くことはほとんど出来ない。今、アーネの代役を検討しているところだから、待っていてくれるか?」
「使用人の代役は必要ございません。なのでアーネさんの時間をこちらに回していただきたいのですが?」
ディアンは珍しく畳み掛けた。
「まあ、難しいお願いだなぁ。いろいろ検討しておくよ。最近は随分と人手不足でねぇ」
国王がそう述べたあと、ディアンはアトリエへと戻っていった。
アトリエでスケッチしていると、ドアがノックされた。アーネだった。
「ディアン様、少しだけ宜しいですか?」
「良いですよ」
アーネは少しだけ下を向いて言った。
「明日、朝に少しだけ時間が出来たので、絵を教えてもらっても良いですか?」
「もちろんですよ」
全部ひと息にとはいかない。地道に伝え続ければ、きっと状況を変えられると、ディアンは確信した。
彼岸花編終了です




