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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
彼岸花編
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7.彼岸花(7)

 ディアンは静かにその表紙をめくった。確かにそこにはナラの木が生えている絵だった。おそらく正門の近くに生えているものだろうと、ディアンはすぐに勘づいた。


 その次は、ナラの木の枝一本をアップにして描いたスケッチだった。もう一枚めくると、庭に生えている花をたくさん描いていた。


 ディアンは少しだけ苦い顔をした。


(どうしてだろう?あんまりどの作品もアーネさんらしくないな)


 教えていた頃は、アーネには対象を写真のように切り取る才能があるように感じていた。ディアンよりもいい画家になるかもしれないと、少し恐れていた。


 しかし今見たアーネの絵は、どれも下手ではないが上手でもない。


 ディアンは庭を見つめるアーネの横顔を見た。そしてスケッチブックに視線を戻した。


(絵に、影が差してるような気がする……)


 ディアンはアーネの絵の暗さの理由について、すぐに分かったような気がした。だから、ディアンは言った。


「アーネさん、お仕事が一区切りついたら、また一緒に絵を描きに行きましょうね」

「ええ、もちろんです」


 ディアンはそのままアトリエに戻って行った。彼岸花の仕上げの作業はアトリエでしようと考えて、城に戻ってきたのだった。


 だが気が気でなかった。アーネがいつものような絵を描けなくなってしまうほどに働き詰めていることが心配でたまらなかった。


 一本一本のおしべとめしべを描く線が震えてしまった。完成が近くても、集中が効かない。


 ディアンは気づいたら外に出ていた。気晴らしにでもしようと考えたのだろう。


「ディアン。どうしたんだい?」


 静かに後ろから声をかけてきたのはフラウだった。


「いえ、何でも……ないです」

「その『何でもないです』は何かあるときの『何でもない』だろう?」

 

 フラウは手に持っていた道具を置いて、ベンチに座った。さっき、アーネが座っていたところだ。


「いいだろう。俺でよければ聞いてあげるよ」


 フラウはディアンの方には目線を向けずに、ただ花壇を見て口を開くのを待っていた。だからディアンは淡々と話した。


「アーネさんが、お仕事が大変みたいで、絵も描けなくなってしまって……」

「あの人は最近よくこの辺でスケッチしてるよ。彼女自身も上手くいってなくて、苦しそうな表情をしてるね」

「僕はアーネさんのことを助けたかったんです。アーネさんが自分らしく生きられるように、幸せに過ごせるように支えたかったんです」


 ディアンは一気に胸が詰まるような気持ちになった。それでも、ただひたすらに言葉を紡いだ。


「でもまだ、僕……何にも出来てないじゃないかって思って、やりきれなくて……」

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