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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
彼岸花編
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7.彼岸花(6)

 辞書を開いて、ペンを片手に持って、長い時間をかけて外交文書の翻訳を進めていた。アーネはますます忙しくなり、城の玄関に行くことすもまれなことになってしまっていた。


 しかし、これだけ終わらせないといけないことがあるのに、仕事はほとんど進んでいなかった。文書の翻訳もまだ半分しか進んでいない。


(終わらないな……)


 時より外を眺めたり、水を飲んだりしても、気が起こらなかった。すると、ドアがノックされた。ケレルが進捗を確認しにきたのだろう。


「あっ、どうもアーネさん」


 想像通りだ。ケレルだった。進んでいるのだろうかと、彼は机の上にある紙を覗き込んだ。


「うーん、まあまあですね。まだ時間があるのでゆっくりやってもらって大丈夫ですよ」

「はっ……はい」


 ケレルはドアを閉めて、執務室に戻って行った。アーネは机に戻って再開しようとした。安堵のため息が思わず漏れてしまった。


 ちょっとだけケレルからはキンモクセイの香りがしたような気がした。アーネは無性に外に出たくて仕方がなかった。少しの香水でも、強い香りを感じるようになっていた。


(もう、外に出てスケッチしようか)


 仕事をしていた紙とペンをそのまま持って外に駆け出した。何週間ぶりに見る空は、いつになく輝いてアーネの目に映った。


 とにかく何でも良いから描きたいと、庭に生えている大きなナラの木を描き始めた。


 紙をペンが滑る音も全て懐かしく聞こえていた。アーネはディアンに教わったことを振り返りながら、少しずつナラの木を捉えていった。


 しかし、アーネの顔は少しずつ、確実に曇っていった。


 描けない。上手くいかないのだ。ナラの木はもう枯れてしまう寸前のようにも見え、生き生きしているとは到底言えなかった。


(えっ……どうして?)


 アーネの呼吸は座っているのに浅くなった。せっかく出来ていたことが自分から失われてしまったような気がして、来る日も来る日も仕事の合間を縫って練習していた。


 ある日のことだった。アーネがフラウの庭で絵を描いていた。


「アーネさん、こんにちは」


 見上げてみるとディアンだった。


「あっ、ディアン様。お久しぶりですね」

「スケッチですか?」

「そうです……」

「お仕事の方はどうなんですか?」

「毎日やってると、胸が詰まっちゃいそうで、最近はこうして絵を描くようになってるんです」


 ディアンはそれを聞くと思わず口角が上がっていた。


「ぜひ見せてくださいよ」

「えっ、ちょっと恥ずかしいんですけど」

「僕はあなたの作品を笑ったりしたことはありませんよね」

「なら……」


 アーネは恐る恐るディアンの手元にスケッチブックを差し出した。

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