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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
彼岸花編
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7.彼岸花(3)

「早く運んで!イスの数が足りて無いでしょう?」


 アーネは朝早くから食堂で声を張って、他の使用人に指示を出す。そのあと洗濯場の手伝いに入って、廊下の掃除をすればもうお昼だ。


 出来るだけ要領よく終わらせようと、駆け足で城の中を巡っていた。すると、部下に呼び止められるわけだ。


「アーネさん。昨日の雨で井戸の水が濁ってて、洗濯に使えないです……」

「えっ。もう、しょうがない。前に汲んでおいた水を使っていいから、取っておいで」

「分かりました」


 そうだ。井戸が使えないなら床掃除も綺麗な水がいるじゃないかと、アーネもその部下の後を追うように、移動した。


 するとディアンのアトリエの扉を見つけた。


 もうどれくらい、開けていないだろうか。少し前までは毎朝開けて、ディアンと働いていたのに、一瞬で変わってしまった。


         ♢♢♢♢


 ディアンと山の中で白樺の森を描きに行った時のことである。


「結局、絵を描くにも綺麗な水がいるんですよね」

「ほう」

「だから僕は、出来るだけ水を取れるところの近くで絵を描いてるんです」


 描いている風景から、すぐ後ろを振り返ると小川が流れていた。パウロからペルカに続く、大きな河川の始まりだ。そこにディアンは小瓶を傾けて、それを澄んだ水で満たした。


「パウロは水が綺麗です。アーネさんもそう思うでしょう?」

「そうですね」


          ♢♢♢♢


 アーネは茶色い扉を押し開いた。一抹の期待を胸に開いた。しかし、ディアンはそこにおらず、机の上に小瓶が載っているだけだった。


 アーネはその小瓶を手に取って、城の奥に走った。水汲み場では同僚に聞かれた。


「アーネさん?その小瓶は?」

「ああ、これ?何でも無いです」


 小瓶に水を注いだ。あの小川の透明さには敵わないかもしれないけど、満タンにしてディアンの部屋に戻しておいた。


「あれっ、アーネさん」


 部屋を出ようとした時に、ディアンは起きてきた。


「あっ、ごめんなさい。ディアン様も頑張ってくださいね」


 アーネはそう言って、ディアンの横を駆け抜けていった。机の上に載る、満タンの小瓶を見て、ディアンは全てを察した。優しさの全てを感じ取った。


 ディアンは前日に見つけた彼岸花の元へ行った。見つけた瞬間から心奪われた存在を写し取ろうと、いつもよりも小さなキャンバスの上に必死に下書きした。


 外側に弾けそうなほどに開いている、赤い花びら。葉のついていない、まっすぐな茎。あまりにも純粋に見えて、誰かと重ねてしまいそうだった。


 城から持ってきた小瓶で絵の具を溶く。ディアンの秋の創作が始まった。

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