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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
彼岸花編
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7.彼岸花(2)

 アーネは家令としてますます忙しい日々を送っていた。毎日朝日が昇る前に起きて、朝日が昇ったら他の使用人たちに指示を出す。そのまま満月が高く昇る頃まで働き詰めだ。


 そんな彼女にディアンが「絵を描きに行きませんか?」なんて気軽に言えるはずもなかった。そう言う暇もなく時間だけが過ぎていった。


「なるほどねー。そりゃあ大変だ」

「そうなんですよ」


 ディアンが庭をぶらぶら歩いて、絵になるものを探していたら、庭師のフラウがいた。そこでこれまでの経緯を話したりした。


「家令なんてとびきり忙しいもんだからね。なかなか会えなくなるのも仕方ないよ」

「そうですよね……」

「僕だって前の家令さんを見たのがいつだったか思い出せない」


 ディアンはこれ以上なく落ち込んでいた。そこでフラウはディアンに言った。


「次は何を描くんだ?」

「えっ?」

「陛下に頼まれてるんだろう?そろそろ描かないと仕事なくなるぞ。お前3年目だろ」


 ディアンはもう3年目だ。奇跡的に国王に気に入られて長く雇ってもらっている。だが、新人の契約は基本的に3年までだ。延長してもらえるとは限らない。


「そうですね。クヨクヨしてないで筆を動かさないと」


 ディアンはひとまず、自分の足元を見つめることができた。


 使用人の部屋の前をわざと通って、自分のアトリエに戻る。人の声はするが、こちらに向けてくれそうな余裕は無い。


(何を描こうか。この時期に見れるのは何だ?)


 遠出は出来ない。アーネがいないからラベンダー畑が秋に何の花を植えているのか見に行けない。近場で済ませたいと、ディアンは地図をぼうっと眺めていた。


          ♢♢♢♢


「川沿いの道とか歩いてたらいい感じのお花があったりするんだよね」


 これはある夏の日にあった、フラウとの会話だ。ディアンはどうやって庭の花を集めているのかを尋ねたら、この答えが返ってきたのだ。


「自然ってさ、ただぼーっと植物があるわけじゃなくてさ、ちゃんと分かってる。どこにどうあったら綺麗かとか、ちゃんと知ってるんだよ」

「そうですかね?」

「きっとそうだよ。もう少し人間寄りにするなら、僕という人間が自然のことを美しいと思っている証拠さ」


 フラウは目の前にあるキンモクセイの木を愛でながら言った。まだ夏だから、花は開いていないけれど。


「庭師も絵師も、植物の気持ちになれるかが勝負なんですね」

「たぶんね。どれだけ自然を愛せているかだ」


          ♢♢♢♢


 ディアンは城を出て、近くの川沿いの道を歩いてみることにした。


 秋の風が周りの草をさっとなびかせ、緑の匂いがするのだ。その中に、パッと明るく咲く、数輪の花を見つけた。

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