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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
彼岸花編
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7.彼岸花(1)

 祭りの季節が過ぎると、気温が下がって一気に秋の空気になる。


「アーネさん、行きますよ」

「はい、ちょっと待ってください」


 ディアンとアーネは祭りの後から外で絵を描くことが多くなった。キャンバスを2つ持って山の中で、2人で絵を描くのだ。


「そこはこうやって描くのが良いですよ」

「本当だ。綺麗に白樺の木が描ける!」


 ディアンはアーネに絵を教えながら、自分も作品を作る。アーネに生きる意味を与える、それが彼女と交わした約束だから。


 アーネは毎日夢中で筆を動かす。それでディアンも触発されて、良い関係だ。


 しかし、アーネは城に戻ると現実に引き戻される。


「アーネ、王宮の家令に任命する」

「えっ……」

「よろしく頼んだ」


 家令は城に仕える使用人の統制や、その他芸術家などの仕事を管理する仕事だ。つまりは大きく王族に貢献する仕事であり、忙しくなることは極まりないだろう。


 そうなることは必然のことだと、アーネ自身分かっていたつもりだ。しかし、それをまた目の前に受けるのは違った感情が生まれるものなのだろう。


(午前中しか、ディアン様と絵を描きに行けない)


 アーネはそればかり気にしていた。


 ある日、ディアンは執務室に呼び出された。


「失礼致します。桜の絵を別の絵と取り替えでしょうか?」

「ああ。気づいたら秋になっていたからね」

「そろそろでしょうと思っておりました。何の花に致しましょう?」


 ボルナト国王は目を閉じて数瞬間考えた。

 

「好きにしてもらって構わないが、遠出しない距離で描いてくれ」

「了解致しました」

「頼んだよ」


 ディアンはゆっくりと執務室のドアを閉めた。国王が放った、『遠出しない距離』という言葉に引っかかったが、思うままに描こうと考えた。


 ディアンはアトリエに戻ろうとした。あと一つ角を曲がれば自分の部屋だという時だ。突然首後ろの襟を掴まれた。


 パッと振り返るとデビンがいた。


「来い」


 そう言って無理やりディアンを部屋に呼んだ。もう何回目だろうかと皇太子の部屋に入る。皇太子は赤い椅子に座って本題に入った。


「まず、アーネが家令に昇進した」

「存じ上げております」

「どうだ。彼女に変わったことはあるか?」


 ディアンは考えた。明らかに夏聖祭の前と後でディアンとの関わり方が変わっている。より深く接する関係になったのは明らかだ。


「アーネさんは、『助けて欲しい』と言っていました。だから僕は出来るだけ彼女を城から連れ出して、仕事のことから離れられるようにしたんです」

「自分でお前に助けを求めたんだな?」

「ええ。たぶん彼女は彼女自身が持つ運命が気に食わないと思っているのでしょうね」


 そう言うとデビンは顎の下を掻いてディアンの目を見つめた。


「ならばアーネのことはお前に任せる。お前と一緒に動くことでこの国も、彼女も救われるだろう?」

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