6.向日葵(9)
マルクの宣言の後、周りから大きな拍手が起こる。5年に一度の祭典が幕を開けた、貴重な瞬間である。
すると、丘の上から聖火を持った団体が降りてきた。その中心には、ボルナト国王、デビン皇太子、そしてアーネだ。
ディアンは、アーネがその集団の中心にいることを目の当たりにして、デビンが言っていたことが事実だということを確信した。そうして数十秒の後に涙が浮かんだ。
「アーネさんが、そこにいる……」
アーネは手に持った紙を開いて、聖火台の前の演台に置いた。そして、一際大きな深呼吸をしてから、はっきりと読み上げ始めた。
――この国の、すべての聖なる国民に告ぐ。我が国は芸術という終わりのない世界を開拓してきた。決して鳴り止まない音楽、決して崩れない彫刻、そして決して止まることを知らない絵画。その全てがこの国の戦乱後の暮らしを彩ってきた。
それらは我が国が起こしてきた奇跡であり、また同時に財産でもある。この豊かな国に色が消えないよう、これからも、繋いでいこう――
最後の文字が読み上げられ、アーネは深く一礼した。そして周りの群衆から大きな拍手が湧き起こった。
一分程度の長い拍手喝采を終え、アーネは聖火を手に取った。
そして静かに聖火台に傾けた。大きな赤い火が起こって、民衆の丘は歓声に包まれた。
夏聖祭は炎と共に再び活気を帯び、盛り上がりを見せた。
しかしディアンはまた取り残されたような気分がしてままならなかった。そんな彼をカイルは横で見つめていた。カイルは息子に提案した。
「どうだ、ちょっと疲れたろ?コーヒーでも飲みに行こうじゃないか」
多少強引にディアンを喫茶店に入れた。席は祭りのおかげかがらんとしていて、外の空気とは正反対に静まり返っている。
手元に届いたコーヒーを一口飲んで、カイルは言った。
「分かっているよ、さっきの人はお前の使用人さんだったな」
「うん」
「もうここまで来たら、お前が思うように行動なさい」
「僕が思うように?」
ディアンは真っ直ぐに父親の目を見ていた。
「そうだ。立場なんて関係ない。今は心がどう思っているか、それだけで動きなさい。そうしないとお前はきっと後悔する」
ディアンは考えた。今、何が出来るか。花しか描けない宮廷画家が何を出来るか。
「分からない……けど分かってる気がする。だから……」
「行ってこい。私はもうそろそろ帰らんといかん」
「……そうなんだ」
ディアンは一歩だけ机から出した足を引っ込めた。それを見てカイルは言った。
「行きなさい。私はお前が一生懸命にやってる姿を見て大満足だ。お腹いっぱいだ」
その言葉で後押しされたディアンは走ってドアノブに手をかけた。
「じゃあ行ってきます」
「元気でやるんだよ」
カウベルが鳴って、店はまた静かになった。カイルはコーヒーをひとすすりして、ディアンの成長を思っていた。




