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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
向日葵編
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6.向日葵(8)

 日に日に本番の日が近づいてくる。城壁の絵もほとんど大枠が出来上がって、最後の詰めの段階にまで来ていた。


「あとは綺麗に縁取りして終わりだね」

「そうだな、ディアン。ここまでよく頑張ったと思うよ」


 思えば一ヶ月近く毎日この場所に来ては、絵筆を取って絵を描いていた。大きなトラブルもなかったのは間違いなくカイルのおかげだったと言えそうだ。


 黒の絵の具で向日葵を縁取る。太くしすぎないように気をつけながら、自分の塩梅で色をつけていった。


「出店の準備も進んでるね」

「ディアンが小さい頃に連れてきたな。その時はとんでもない数をまわったのを覚えてるよ」


 カイルは笑った。


「じゃあ今度の夏聖祭もまわれるだけまわってみようよ」

「もうそんなこと出来る歳じゃないんだぞ」


 300メートルのうちに300個以上描いた向日葵全てに黒の縁取りをする。普通に考えたら地獄のような作業だが、思い出話をしながら進めればあっという間に終わってしまう。


「これで最後の一本だね」


 ディアンは黒の絵の具を付け直して、茎の部分からなぞっていく。なめらかに筆を滑らせれば遠くからでもよく見える向日葵の完成だ。


「出来た……」


 ディアンはしゃがみ込んで、ふっと顔を上げた。


「これは僕の人生の中でも一二を争う大作だよ」

「私の人生でもそうだ」


 感慨深そうに目に涙を浮かべて、カイルは言った。


「こんなに立派になった息子とこんなに大きな作品を作れて、私は幸せだよ」

「僕も嬉しい。本当に楽しかったよ」


 2人は抱き合って、そのあとずっと作品を眺めていた。


 夏聖祭は数日後に本番を迎えた。ストローサー親子もじっくりと休んで、祭りに参加した。


「父さん、射的今も下手なんだね」

「射的なんて練習することないだろ。だから上達なんてしないさ」


 子供の頃に返ったかのように2人は夕方の出店を遊んでまわった。


 その光景をアーネは城の中から暗い面持ちで眺めていた。


 そばに国王が来た。


「アーネ、心配することは無い。これはまだまだ物語の序章に過ぎないんだ。パウロとこの民衆たちの物語の本のプロローグみたいなものなんだよ」

「承知しています」

「じゃあ、何を恐れる?」

「いえ、特に何も」

「なら気合を入れて頑張りなさい」


 国王は立ち上がって、民衆の丘が見える窓まで近づいていった。


「ほらもう、たくさんの市民が聖火台の周りに集まってるぞ」


 その市民のうちに、ディアンとカイルはいた。聖火が灯されるのはこの祭りを象徴する瞬間であって、誰もが我先にと前を陣取る激しい争いが起こる。


「今年はいい位置を取れたんじゃないか?」


 カイルは聖火台を坂道の側から見下ろす位置に陣取った。ディアンが子供の時に来た際には、全く見ることが出来なかったので、親としていいところを見せたと満足気だ。


 すると、マルクの音楽隊が坂を下ってきた。マルクは指揮をしながらカイルを見つけると、一瞬だけウインクをしてみせた。父はそれにきちんと応えた。


 演奏は周りにいるすべての人を圧倒するような熱いものだった。そして演奏が終わると、マルクは聖火台の前で高らかに宣言した。


「ただいまより、聖火台点灯式を開催する!」

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