6.向日葵(4)
300メートルの中に描く向日葵の数は千を超える。2人は重ならない程度に距離を置いて、作業を始めた。
「お父さん、いつも人物画ばっかりだったのに、花の絵も上手なんだね」
「画家はなんでも描けるんだ」
手を動かす姿はよく重なっていた。描くときにはひどく集中して、気持ちを描く対象に注ぎ込む。
すると、アーネも作業中の2人の元にやってきた。
「ディアン様、こちらの方は……?」
「僕の父です」
「本当ですか!?お会いできて嬉しいです」
アーネは隣の男がディアンの父だと知ると、すぐに会釈をした。そして完成途中の向日葵をじっと眺めていた。時より目線を移動させながら、民衆の丘からの真っ直ぐ立って、そこを見ている。
その表情は何かをイメージしているようにディアンには映った。
「私がいるとお邪魔ですよね、失礼します」
そう言い残して、アーネは去った。ディアンの鼓動は少しだけ速くなっていた。
「あの人は、ディアンのお仕えさんかい?」
「そうだよ。いつも面倒見てくれてる」
「そうかい。ディアンにはしっかり面倒見の良さそうな人がついていてくれて良かった」
カイルは鉛筆を壁になぞらせながら、懐かしそうに話し始めた。
♢♢♢♢
ちょうどボルナト・ストラウスが国王として即位した頃のことだ。カイル・ストローサーはボルナトにスカウトされて城に入った。
宮廷画家はパウロの芸術文化の重要な一つだったので、責任を重く感じていた。しかし、面倒見の良くない女が使用人としてついたり、ネズミがよく出る狭い部屋を割り当てられたりと、待遇は良く無かった。
「ハイビスカスを描いてきなさい」
「分かりました、陛下」
お題は基本的にボルナトが決める。そのスタイルは昔からあった。彼は花のお題ばかりを出してくるので、カイルは花だけでは勝負できないと不安だった。だから、一つ作戦をうった。
「そこ、そこで立っていてください!」
宮廷に仕えている使用人を呼んで、モデルとして花と一緒に描いた。ルールとしては微妙なところだが、それで描き上げようとした。
♢♢♢♢
「お父さん、それはずるいよ」
「ああ、そうだなぁ」
ディアンは父が話すことを聞いて笑いが止まらなかった。また、国王が昔から花を好んでいたというのを初めて知った。
「それでも、その作戦は上手く行った。短い期間だったが、その作品のお陰で、今も陛下は私のことを覚えていてくれているんだ」
「なるほど……」
「つまり、私以外誰もやらなかった方法だ」
ディアンは父が絵を描く手を見る。その手は迷いは無かったが、花を描くことに慣れた手つきをしている。
(お父さんは、人物画を描くことだけをしてきた訳じゃないんだ)




