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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
向日葵編
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6.向日葵(3)

「アーネさんが?国のトップ?」


 ディアンの頭の中は混乱でまともな処理が出来なくなった。


「そうだ。ペルカの王はウィリアムス家と手を組んでアーネを城に送り込み、そこからウィリアムス家の再起を図ろうとしているんだ」

「……」


 ディアンは黙り込んだ。アーネはそんな風に動かされているようにディアンの目には映っていなかった。


「アーネさんは、これからどうなるのですか?」

「知らない。今回の件はとりあえず父上とお話しして、何とか止めてもらう。聖火は私が点ける。お前はいつも通り制作を続けなさい」


 デビンはそう言い残して部屋を出た。ディアンも自室に戻っていた。


(今は自分は集中して、壁画を完成させる。それまでアーネさんはどうなるか分からないけど……)


 シンプルに描くしかできることが無かった。


 翌日、突然珍しい来客があった。ディアンは正面玄関でそのゲストと会った。


「ディアン。久しぶりだな」

「お父さん……」


 ディアンの父親のカイル・ストローサーが城にやってきた。


「お父さん、どうして来たの?」

「お前が城壁画を描くって噂が流れてきてな、1人で作るには大きすぎるから、手伝いに来たんだ」

「噂……」

「そうだ。噂は風より速いからな」


 カイルはそう言って笑った。ディアンは早速アトリエに案内して、プロジェクトの説明をした。


「あの『民衆の丘』の城壁に300メートルくらいの規模で描くんだ」

「相当な大きさだな」

「歴代でも最大級らしいよ」


 ディアンは奥から揃えた画材を持ってきて、机の上に置いた。


「チョークで下書きして、雨で流れないうちに油絵の具を上から塗る、それを繰り返して完成させようと思ってるんだけど、どうかな」

「いいとは思うが最初に一気に描かなくてサイズのミスとかが大きくなると厄介だぞ」

「でも壁に傷はつけられないからなぁ」

「それを言うならチョークの方が傷がつく。鉛筆でやりなさい」


 カイルはいつものように的確なアドバイスを出した。こうやってディアンを教えてきたのだ。カイルはお茶を飲んで言った。


「そうだ。国王陛下にも挨拶させて欲しい。30年も前の話だが、きっと覚えていてくださっているはずだ」

「分かった。明日行く用があるから一緒に来て」


 カイルにとっては30年ぶりの城だ。翌朝、親子で王の執務室を訪れて、カイルは国王との再会を果たした。


「あなたはディアンの父だったのか。息子は本当によく頑張っているよ」

「息子を目にかけてくださって本当にありがとうございます」

「夏聖祭の手伝いをしに来たんだね。そうならば一つ部屋を空けてあるから、そこを使いなさい。立派な作品を作ってくれ」

「了解致しました」


 挨拶の後、2人は水を汲んで早速作業を始めた。


「お父さんは今でも絵を描いてるの?」

「そこまでたくさんは描いてないけどね」

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