6.向日葵(1)
騒々しい。夏の日の城内は本当に騒々しい。5年に一度、夏に神に祈る『夏聖祭』が行われるので、使用人やその他芸術家は城内を駆けずり回って準備していた。
もちろん、ディアン・ストローサーも例外ではなかった。今年はいつもよりも盛大に城壁に描いて欲しいと言われたので、紙に幾つかのプランを練っていた。頭を抱えて考えていると、ドアがノックされて開いた。
「失礼致します。ディアン様、皇太子陛下がお呼びです」
「今忙しいんですけど……」
「待ち侘びておられます」
「じゃあ、この三種類のプランで喜んでもらえそうなやつはどれか聞いてきてくれます?」
「そんなことしたら皇太子陛下に怒られませんか?何でつれてこないんだって」
「あの人は何でも許してくれるよ」
アーネは3枚の紙を持って廊下を歩いていた。デビンといつの間にあれほど親しくなっていたのかと驚きだ。
足を揃えて4回ノック、右手でドアを開く。
「失礼致します、ディアン様は非常に忙しくしておられまして」
「何だ、来れないのか」
やっぱり怒られるじゃないかと思ったが、アーネは続けた。
「その代わり、夏聖祭の城壁画のプランを預かっております。それを陛下に見ていただきたいと」
デビンは立ち上がってプランを手に取った。睡蓮、ハイビスカス、向日葵の3つだ。そして指を差した。
「この『向日葵』だと父上も喜ぶと思う。そう伝えてくれ」
「了解致しました」
「あと、あんまり忙しそうだったら来なくてもいい。どうせくだらない話だから」
アーネはディアンに『向日葵』が好印象だったと伝えた。
「やっぱりそうですよね。これを国王陛下にお見せしようと思います」
「それがよろしいかと」
ディアンは急いで執務室に向かった。早くプランを決めて、制作を始めないと夏聖祭までに完成しない。
すると、ディアンの目の前を1人の男が走って通った。突然の出来事にディアンは後退りしてしまった。
「確か、あれは陛下の執事……」
執務室は騒然として、しばらくは立ち入ることを許されなかった。
その頃、ボルナト国王は座ってコーヒーを飲みながら夏聖祭に向けて提出された資料に目を通していた。すると扉が開いた。
「陛下、またです!」
執事のケレルだった。また手に封筒を持っている。外側には旧字体で『ペルカ』と書いてある。
「ペルカ……グランドゥラスからか?」
「おそらく」
すぐに封を開けて中を読んだ。
――親愛なる隣国の王へ
約束は果たせているだろうか?中々こちらへは動きが伝わってこない。あの使用人はまだ使用人か?それなら彼女を夏聖祭での聖火をつける係にしろ。参謀のものが確認に行く。それが見られないなら魚の輸入を制限する――
読み終わってボルナトは顔を上げた。
「仕方ない。今年の聖火はアーネに点火させる」
「でも、どうしてあの国の言いなりになろうとおっしゃるのです!」
ケレルは無礼を承知で言い返した。
「うちの国では魚はとれない。国民への幸福を届けるためだけだ。それ以外に何の不利益がある?」
「聖火は王族の次世代を担う者、皇太子や皇太子妃、また皇太子の息子や兄弟がつけてきました。その伝統はどうなさるのです?」
「5年前はデビンがつけた。その前も、ふたつ前も。しかし彼は一人っ子でまだ結婚すらしてない。いつまでデビンにやらせる?」
ケレルはもう反撃できなかった。




