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5.桜(8)

 翌日、ひどく風が強かった。紙を画板に挟んでも、動いて描きづらい。


 それでも、彼らを魅了する光景はそこにあった。


「桜が……散ってる」

「そうだよ。結局、東洋の人は満開の桜より、花の散り際の方が好きなんだよ」

「どうして、こんなに美しいんだろう」


 桜の花びらが風に舞って、山の麓の方へと流れていく。こんなに美しいと思う景色をディアンは今まで見たことはなかった。


「桜の見頃は本当に短い。だから、散り際まで美しく見えるんだよ」

「なんか泣けてくるね……」


 ディアンは筆を取って、トントンと紙に色を置いていった。ラッセルは頷いていた。


「これが君がはぐらかしていた完成のラストピースなんだね」

「そうだよ」


 2人は必死に完成へと向かった。紙の上に桜の花びらが舞っている様子を描く。それだけで、完成度はかなり増した。1時間ほど凝って、2人は作品を描き切った。


 ディアンは提案した。


「君の完成品も、陛下のところへ持っていっていい?」

「なんで俺のやつもなんだよ」

「きっと喜ぶと思う。もし受け取ってくれなくても、僕が欲しいんだよ」

「そうか、じゃああげるよ」


 1日乾燥させて、ディアンは王の執務室にいた。2枚の桜の絵を持って。


「完成いたしました」


 絵を机の上に広げて見せる。もちろん、王が聞いた。


「どうして2枚もある?」

「私の友人が描いたものも一緒に持ってきました」

「それは素晴らしい。以前額縁を作ってくれた子だろう?」

「そうですが、どうしてご存知で?」

「君の描いたコスモスの近くに、もう一枚彼の作品があったことを覚えてるよ」

 

 ディアンは笑った。やっぱり見ていたんだと、見ていてくれて良かったとも思った。


「作品は2枚とも受け取っておくよ。本当に美しいね、桜の花ってものは」


 国王はご満悦の表情で、ディアンからも笑みが溢れた。


 アトリエに戻ると、アーネが控えていた。少し緊張気味の表情で立っていた。


「どうかなかさいましたか、アーネさん?」

「あの、私も桜、スケッチしたのですが、見ていただけますか?」


 ディアンは目を丸くした。ほんの少し興味も湧いた。


「では、拝見させていただきましょう」


 アーネは恐る恐る机の上に絵を差し出した。指先は震えていた。そこにある彼女の絵を見て、ディアンは微笑んだ。


「そんなに怖がらなくても構いませんよ。いいですね、才能あると思いますよ。特にここの幹のラインとか」


 アーネの表情が緩んだ。


「良かったです。ありがとうございます」

「アーネさんって絵描けたんですね」

「小さい頃にちょっとだけ」


 ディアンはアーネのことをまた一つ知れたことを喜んでいた。アーネは初めて自分の絵を人に褒めてもらった。


「じゃあまた今度一緒にスケッチしに行きませんか?」

「いいんですか?」

「もちろんです」

これで「桜編」終了です

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