表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/41

5.桜(4)

 2人の創作活動は2日目を迎えた。この日には目に見える全ての蕾が開いた。まさに『満開』だ。


「描くには今のうちだよ。早くしないと散っちゃうからね」


 ラッセルは絵の具を溶いて、下書きに塗っていく。水を多めに使って、自然に近いような色合いにしていく。誰も真似ができないような完璧な技術だ。桜の花をそのまま写しとったような、鮮やかな絵。


 ディアンも見惚れていたが、気を取り直して作品を描き始めた。ディアンは初めて桜の色を作るので、ラッセルほどうまくはいかない。


「ラッセル、その桜の色どうやって作ったの?」

「白と水を多めに。水彩画は水が命だから、積極的に浸していけば上手くいくよ」


 ディアンはラッセルのアドバイスを元に、桃色の絵の具を白と水で溶いていった。ディアンは油絵を専門に描いている。基本的に絵の具は油で溶いている。


「完璧じゃない?この色」


 ディアンは完成した色に感想を求めた。


「完璧だよ。その色で塗って」


 薄い色から塗るのは、絵画の基本中の基本だ。濃い色が薄い色に溶け出さないように、先に薄い色を塗る。出来るだけ滑らかに色をつけて、綺麗に桜の花が仕上がった。


 ディアンは工程がひと段落ついてくると、聞きたかったことを聞いた。


「なぁラッセル」

「どうした?」

「君はどうして、画家になるのを辞めたの?」


 ラッセルは筆を止めた。琴線に触れたかのように動きを止めてしまった。


「答えたくなかったら、別に良いよ」

「いや、言わなきゃ。君は親友だから、答える義務があるだろう?」


 空を見上げて、絞り出すように言った。


「ディアンは、絵を描くのは好きかい?」


          ♢♢♢♢


 ラッセルは芸術学校を次席で卒業した。本当に優秀で、将来は有望な画家になるだろうと、誰もが期待していた。


 しかし、画家の道はそんなに楽なものではなかった。卒業してすぐ、近くの街の美術展に絵を描いて送る日々が続いた。絵で食べていけるようになるには、そこでいろいろな作品を人に見せていく必要があった。


「僕の作品は買い手が見つかりましたか?」


 作品を送り込むたびに、美術館の男に聞いていた。しかし、いつも答えは同じだった。


「いや、まだだ」


 作品はさまざまな路線のものを描いた。単純な人物画、風景画や自然の絵を描いたり、ネタは豊富であったのに、買ってもらえなかった。


 一つ原因があるとすればこれが挙げられる。この美術展には、有名な画家も出品していることだ。ラッセルを教えたフィルラウスも出品していたのだから、彼の作品が目に留まらないのだ。


 それでも、絶えず描き続けた。一心不乱に筆を取り続けた。


 数ヶ月ぶりにディアンに会う日があった。


「ラッセル、久しぶりにあったらずいぶん疲れた顔をしているね」

「そうかな」

「頑張っているのは尊敬するけど、しっかり休むんだよ」

「分かってるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ