5.桜(1)
時代と合わない画材の描写が出てきますが、ご容赦ください
「皇太子陛下、東洋からのお荷物が届きました」
ディアンとデビンがコーヒーを飲んでいると、ひとりの使用人がドアを開けてこう告げた。すると王子は興奮して立ち上がった。
「ついに来たか!」
「何が来たんですか?」
「サクラだ。東洋のお花」
2人は走って城の中庭に向かった。すでに何人かの作業員が桜の幼木を植えようとしている。
「桜は東洋のある国で見たのだが、本当に綺麗で忘れられなかったんだ」
「それで陸路で送ってもらったということですか」
「そうだ」
国王も中庭に降りて来た。
「桜かね、私は見たことが無いね」
「本当に綺麗だそうですよ」
ディアンが会釈をする。一本の桜の幼木が庭の真ん中に植えられた。
「この幼木が立派になる頃には、私は死んでいて、デビンが王座に座っているかもしれないね」
「お父様、そんな悲しいこと言わないでくださいよ」
「そうだ、ディアン」
「はっ……はい、どうしましたか」
急に王が話しかけて来たので、ディアンも驚いた。
「君に、桜の絵を描くように頼みたいのだが」
「桜、桜ですか!私もまだ見たことがないので描けるかどうか……」
「君ならきっと描けるさ」
「了解致しました……」
ディアンはしぶしぶ国王陛下の要望を受け入れた。流石に断ることは出来なかった。だが彼は本当に桜の花を見たことがないので全くイメージがつかなかった。
数週間後のことだった。もうすぐ桜の蕾が開く頃だとデビンが急かした。
「もう咲くぞ、桜の花は期間が短いからな」
「分かりました」
ディアンは中庭に降りて、桜の木を見上げた。数輪の桜の花が開いていた。確かに可愛らしい花であった。しかしながら、ディアンはこう思った。
(描く対象としては、あまりにも華がないな……)
もちろん、まだ幼木だ。立派に咲くようになるにはまた何年かかかる。しかし今描きなさいと言われているのでどうにかしなければならない。
そこで、ディアンは貰った錦絵に桜の花が描かれていないか調べることにした。ピンク色の花が咲き乱れている様子を探した。
「貰ったときに王子は、これが春の城の絵だと言っていたはず。だから桜が書かれているに違いない」
錦絵を見るとすぐに見つけた。しかし、描く手本にするには小さすぎる。背景にある大きな山をメインに描いているから仕方ないことだろう。
「こうなったら、あいつに聞こうか」
ディアンは城を出て、街に出た。春になってまた賑わいを取り戻している。彼が向かった先はラッセルの画材店だ。
「なぁラッセル、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「どうした」
「この国で立派な桜が咲いてるところはあるか?」
ラッセルは黙った。考え込む表情から、桜という植物自体は知っていると見えた。
「あっ、知ってる」




