4.冬のスケッチ(5)
「王座によく分からない相手国のやつを持って行くことは、私は許せないな」
王座を清らかに保つ。これはある意味、どの国でも王に求められている義務の一つである。
「まあ、ディアンが言う通りまだ証拠らしい証拠はない。そうだ、何かこれまでアイツと過ごしてきて、何か証拠になりそうなことは聞いたことはないか?」
「えっ……」
ディアンが鉛筆を取り直してデッサンを始める。すかさずデビンが口を挟む。
「目が動いたな。何かあるんだろ」
「無い……ですけど……」
「彼女を追放する前にお前のところに送り返すから話せ」
ディアンは王子を信用することにした。アーネが追放される可能性があるのは気がかりだが、追放される前に何とかすると心に決めた。
「彼女が以前、幼い頃にグランドゥラス三世に会ったことがあると言っていました」
――「すごく背の高い方なんです。威圧感があるというか」
「すごく昔にですね、一回だけですけど」――
ディアンがラベンダーを描いていた頃に、アーネは確かに彼にそう言った。会うことができるのは、相当な身分でないと出来ない。
「そうか、ありがとう、ディアン」
「いえ」
ディアンは窓からの景色のデッサンを完成させた。
(アーネさんは、これからどうなるんだろうか……)
数日後、ディアンは正面玄関の前でひっそりと待っていた。帰ってきて、これからどうなるのか告げられるとなると、心配しかなかった。
昼前の頃、重い扉が開いた。アーネだった。少しだけ不安げな表情をしていたが、すぐにディアンを見つけて表情が変わった。
「ディアン様」
「おかえりなさい」
パァッと明るい顔になって、ディアンを見上げたかと思えば、すぐに目に涙を浮かべた。
「ディアン様……私……あなたの絵をずっと、見ていたいです……」
泣きながら絞り出すようにアーネは言葉を綴った。
「どうしたんですか?アーネさん、いきなり帰ってきて泣き出すなんて」
「えっと、家でいろいろあって……でも大丈夫です」
「心配なんですけど」
「本当に大丈夫ですから!」
怒って、アーネは使用人が住んでいる部屋へつかつか歩いて行った。ディアンは絶対に彼女に何かあったのだろうと思っていたが、詮索はしないでおこうと決めた。
数日後、アーネはデビンのところをクビになり、ディアンのところに戻ってきた。でも彼女は笑顔だった。
「ディアン様、また戻ってきてしまいました」
「おかえりなさい。またよろしくお願いしますね」
またいつもの日常に戻れるというのは嬉しかった。しかし、アーネの本当の姿を知ってしまったディアンは、顔に出さなかったが少しだけ不安だった。
これで「冬のスケッチ編」完結です




