4.冬のスケッチ(4)
すると、扉が開いた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
ハモンだった。どういうわけかパンを片手に握っている。
「ごめんね、お姉ちゃん。僕まだお父様の前では良い子ぶってるから」
「分かってるよ。いつもお姉様なんて呼ばないでしょ」
ハモンはアーネの隣に座った。手元と窓の外を交互に見ている。
「ここの絵描いてるんだね」
「そうだよ」
「お姉ちゃんって、一時期絵にハマってたよね」
「そうだよ。結局めちゃくちゃ怒られたの、さっき思い出した」
2人で笑っている。父親の前では見せない姿だ。
「このパンあげるよ。ほとんど食べてないでしょ」
「ありがとう」
鉛筆で風車の輪郭をなぞっていく。そこでディアンの話に変わっていく。
「ディアン様は、デッサンする時は少ない線で描くようにしてるんだよ」
「よく見てるんだね」
「かもね」
「だから、お父様にあんなこと言えたんだね」
アーネは戸惑ったような表情を見せた。
「自覚してないんだ。お姉ちゃん、少なくともその人の絵にかなり惚れ込んでるよ」
自分がそこまで自分に興味がないのかと、アーネはため息をついた。思えば確かにそうだった。王の執務室に飾る作品、ペルカの王への作品をディアンが作っているときも、アーネはその工程をずっと見ていた。デッサンの描き方の特徴なんて、相当見ていないと分からない。
「確かに、そうかもしれないね」
アーネは笑った。そこでハモンが言った。
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんがなりたい人間になってね」
「急にどうしたの?」
「お姉ちゃんは好きなことしてて。絵を描いたり、他なんでもいい。僕はここでお姉ちゃんがなりたい人間になるまでいい子ぶってる」
「そんな勝手に出来ないよ」
「お父様は鈍感だから。目先の名誉ばっかりに囚われてる。大丈夫だよ」
アーネは泣き出した。たくましく育った弟に感動した。合わせて自分が自由に選択肢を得られる瞬間を感じたようで、ただ嬉しかった。
「分かった。頑張るから、ハモンも良い子ぶってないで、未来を探してね」
「了解。ねえお姉ちゃん、山降りてご飯食べに行かない?」
「ハモンまだ食べるの?」
「お姉ちゃんお腹空いてるでしょ」
「うん……じゃあ行こうか」
アーネは自分が幸せである未来を探しにいくことにした。
一方、ディアンとデビンは王宮内で一緒に時間を過ごしていた。ディアンは窓から見える月が昇る景色を描いている。
「ディアン、ちょっとだけ、聞いてほしいことがあるんだが」
「何でしょう」
「アーネを城から追放したい」
「何てことを企んでるんですか。それは難しいのではないですか」
「どうしてそんなことを言う」
ディアンは鉛筆の動きを止めて、皇太子の方を見た。
「まだアーネさんがウィリアムス家だっていう証拠は見つかってないし、まだ単なるあなたの推測に過ぎないのでは?証拠不十分では解雇する理由もないはずです」
珍しく厳しく反論された皇太子はため息をついた。そしてこう言った。
「まあごもっともだな。あくまでもごもっともだが」
「どういうことですか?」
「まあ俺が王位を継いだとき、関係の悪い国のやつを引き連れて王になるのは嫌だということだ」
来週より連載スケジュールを変更します。詳しくは活動報告をご覧ください。




