4.冬のスケッチ(3)
部屋でベッドにうずくまっていた。泣いてはいなかった。
(どうして、あんなに感情が溢れたんだろう。いつもはほどほどにとどめてるのに)
風車の横から、月が昇ってくる。満月だ。森の中の景色と相まって、不思議な色合いを作っている。
(きれい……どこかで見たことがあるような……)
その瞬間、アーネは幼少期の頃の記憶をまた思い出した。
♢♢♢♢
アーネが初等学校に通っている頃、彼女の同級生にひどく絵の上手な男子がいた。もう名前も覚えていない。
「これは、パンジーっていうお花だよ」
その男子は流れるような、自然体の飾らない花を描くのが得意だった。少年にしてはやけに落ち着いた絵だった。
アーネはそんな男子のことを興味深く思っていた。今まで文字しか書いたことのない彼女にとって、絵という世界は新鮮だった。ある日、そんな彼が言った。
「アーネさん、君も描いてみますか?」
「いいの?」
彼はアーネに鉛筆を貸した。葉っぱを一枚取ってきて、それを真似して描いた。
「上手じゃないか、センスあるよ!アーネさん」
その男子は褒め上手でもあったので、アーネはますます描きたいという気持ちが湧き立った。
そしてアーネは来る日も来る日も絵を描いて過ごした。勉強なんて忘れてしまったかのように。
ある日、初等学校でキャンドルナイトが催された。学校で夜にみんなで集まって、普段とは違う時間を過ごせるとあって、みんな湧き立っていた。
その男子はもちろん、紙と鉛筆を持っていた。キャンドルに火が灯ると、彼は勢いのままにキャンドルナイトの風景を描いていた。その様子をアーネは隣から見守っていた。
「綺麗だね」
「これが完成したら、君にあげるよ」
その男子が突然そんなことを言うので、アーネは驚いた。
「そんなの悪いよ。君の作品なんだから」
「僕の作品が好きな人に自分の作品を渡すことがどれだけ幸せなことか。絶対あげる」
そして数日後押しつけられるように作品を渡されたが、アーネはすごく喜んだ。そしてあることを思いついた。
(そうだ、あの子にお返しの絵を描こう)
そして描こうと毎日自室の窓から見える景色を描いていた。しかし、そこで邪魔が入った。
「おいアーネ!このひどい成績は何だ。きちんと勉強しろ!」
勉強していなかったことで、成績が急降下していた。隠していた落第点の試験が見つかったのだ。
「おい、これは何だ」
「それは、お友達にもらった大事な絵だから……」
「芸術に見惚れている暇があったら座って勉強しろ!」
そう言うと父親が男子の絵と私がお返しに準備していた絵の下書きを破り捨てられ、そこから父がつきっきりで勉強させられることになった……
♢♢♢♢
(まだ……描けるかな)
あの白い満月を描き終わったら、あの絵は完成だったはずだと思い出した。
城から持ってきた裏紙と、鉛筆を持って、アーネは子供時代ぶりに絵を描き始めた。




