4.冬のスケッチ(1)
クリスマスも過ぎ、そろそろ年を越す頃。使用人や、その他仕えている人は、里帰りをしたりする。アーネもその一人であった。
正面玄関で靴紐を整え直して、大きなカバンを持っている彼女をディアンは見かけた。アーネは彼に気づいてカバンを置いた。
「アーネさん。里帰りですか?」
「ええ、10日ほど」
「寒いから、気をつけてくださいね」
「寒いのには強いですから」
そう言うと、カバンを持って手を振った。ディアンも振り返した。距離感が縮まっているように彼は感じていた。
アーネは街の外れで馬車に乗った。この国では馬車にはタクシー感覚で乗れる。行き先を伝えると後ろの車に荷物を置き、すぐにうとうとし始めた。
デビン皇太子に担当が移ってから、5倍以上忙しくなっているのを自覚している。ディアンの頃は彼を起こして、昼食を作って、画材を片付けるだけだった。しかし今は書類の管理をしたり、毎日のように来る客にコーヒーを出したり、部屋を掃除したり、スケジュール管理をしたりと半ば執事のような仕事である。
そんな時期に10日の休みを取れたのは、アーネにとってはかなり予想外のことだったと言える。
アーネは御者に起こされた。結局眠っていたそうだ。
「こんなに寒いのに、よく寝ていられますね、お客さん」
「着きましたか?」
「着いたから起こしたのですよ」
ずいぶんとうるさい御者だと思いながらお金を払って馬車を降りた。風車の前で降ろしてもらったので、ここから歩いて5分ほどだ。
(やっぱり私、疲れてるんだろうな)
雪は降っているが、あまり積もることがない。ところどころ水たまりが凍っている。それをアーネは踏みながら実家へと向かった。
レンガ造の小さな家だ。可愛いお家ですねと言われるような、そんな感じの家だ。
アーネは右手でドアノブを掴んだ。少しだけ間を置いて、それを引いた。
「ただいま戻りました。お母様」
「おかえりなさい、久しぶりだね」
「うん」
一年ぶりに自室に戻って荷物を置いた。綺麗に整理されていて、母がこの部屋を見ていてくれていたことを感じた。すると突然扉が開いた。
「お姉ちゃん、帰って来てたなら言ってよ!」
「ハモン、久しぶりだね。ただいま」
弟のハモンだ。まだ大学生で、政治を学んでいる。彼はひどく興奮しているようだ。
「今日の夜は母様が盛大に作ってくれてるんだって!」
「それは楽しみだね」
「お父様も一緒だって」
「そっか……」
アーネは『お父様』に引っかかった。そしてこう言った。
「ごめん、私ちょっと疲れてるから」
「そっか、忙しいもんね。じゃあゆっくりしてて」
ハモンは部屋を出て行った。アーネはベットに寝転がって、この家で育った日々のことを思い返した。
♢♢♢♢
父親のダグラスは非常に教育熱心だった。名門の大学に進ませようと、政治を学ばせた。
「アーネが幸せになるためだ。私が教えるから、勉強しなさい」
「お父様、もう6時間も……」
「さっさと座れ!」




