3.柊(9)
「東洋の人はみんな元気そうに働いていたさ、芸術も料理も素晴らしかった」
「ほお、私もいつか行ってみたいです」
「私が国王になったら、お前を東洋外遊に連れて行ってやる」
「それは楽しみです」
2人の話が盛り上がってきたところで、アーネがコーヒーを持ってきた。さっとそれを置いて、静かに立ち去って行った。それを見て、王子は言った。
「彼女は本当に、気の利く人だね」
「そうですね」
コーヒーの味がいつもと同じだった。おそらくディアンとデビンの好みに合わせて、味を変えている。2杯のコーヒーは2つとも味が違うはずだ。
「先月までは彼女が君の使用人だったんだろう?」
「ええ」
「これは、私の推測なんだが……」
コーヒーをテーブルに置いて、ディアンの目を見て話し始めた。
「彼女は没落したウィリアムス家の女だ」
「ウィリアムス家……」
それはペルカ王国が統治していた頃、パウロで実権を握っていた名家の名だ。独立戦争の後に、城を離れた。
「今もまだ、ペルカのグランドゥラス家と繋がりがあるはずなんだ」
正直、ディアンは何の話をしているのかよく分からなかった。取り敢えずの感覚で、彼はこの質問をした。
「では、ここにそのような者がどうしてここにいるのですか」
王子はコーヒーをまた一口飲んでから、少しの沈黙を置いて、こう言った。
「再び実権を取ろうと、彼女を送り込んだのかもしれないね」
「アーネ・ウィリアムスを……」
「父、いや王は恐れてるんだ。グランドゥラスに国をめちゃくちゃにされることを、過去の時代に戻ってしまうことを恐れて、彼女を出世させ続けている。だから……」
何か王子が言おうとしたところで、扉が開いた。すぐに2人が黙った。入ってきたのはもちろんアーネだった。彼女は黙りこくっている2人を不思議に思ってこう言った。
「今は私がいないほうが、よろしいでしょうか?」
「いえ、そんなことないです。私、もう戻ります」
ディアンが慌ててフォローして、もらった錦絵を持って、部屋を出ようとした。最後に王子がこう言った。
「ディアン君、また描いてくれよ」
「ええ、もちろんです」
アーネもほとんど同じタイミングで部屋を出た。そしてディアンに話しかけた。
「良い作品でしたね」
「ありがとうございます。アーネさんもご立派に仕事されてますね」
「おかげさまで」
廊下を2人で並んで歩いていた。少しディアンは複雑な心境だった。
「いつもより明るい調子の作品でしたね」
「デビン皇太子が帰ってきてから、少し表情が暗かったので」
「私、あの作品が1番お気に入りです」
「それは、どうも」
2人とも可笑しくなって、笑ってしまった。1年以上一緒にいて、2人で笑った瞬間などあっただろうかと、ディアンは思った。
一階の廊下まで来た。隙間風がひどく、冬の寒さが感じられた。
「私はこっちに行くので、ディアン様とはここで」
「頑張ってくださいね」
「ディアン様こそ、もっといい作品を期待してます。あっ、まだ冬だから次の作品はしばらく描けませんね」
「そうでしたね」
さまざまな植物が、今は眠っている。ディアンはしばらく溜めてから話した。
「思い切り描ける春が待ち遠しいです」
「本当にそうですね」
本当に、彼女の正体は、この国の地獄を作ったあの家の娘なのだろうか。ディアンはまだ疑っていた……
これで「柊編」完結です。
10月3日の投稿はお休みさせていただきますので、第4章は10月10日からです。




