3.柊(7)
何度も塗り重ねて、ディアンは柊を完成に近づけている。緑色の葉に映える赤い実。調整に調整を繰り返して、柊らしくなっていく。
(もうすぐ完成かな)
ディアンはすでに完成を見据えていた。単純な柊の絵であるけれど、暖かい街の雰囲気の中にあるような、明るい調子になっている。
その絵の調子とは裏腹に、ディアンの心はひどく沈んでいた。突然、信頼していたアーネが自分の前から消えてしまい、代わりの使用人もつかないという緊急事態だ。ディアンは落ち込んでいて、絵を描く気になれない日もあった。
♢♢♢♢
「使用人のアーネはこれからデビンの元に移そうと思う。君には今は新しい使用人がつけられない。人手が少ないからな」
数日前、王の執務室にてディアンはこのように告げられた。
「アーネさんがいいんですけど……」
「すまないがもう決まったことなんだ。それで受け入れてくれ」
ディアンは俯いたまま、執務室を出た。そういうことがあるかもしれないというのは、少し前から薄々感じていた。しかし、それを実際に目の前にすると、感じるものは想像よりもずっと大きい。
働き始めてからずっと支えてくれたアーネに何が出来るかを考えていた……
♢♢♢♢
だからディアンはずっと、ここから絵のトーンを落としたいと思っていた。しかしそんなことは出来ない。そもそもこれは彼自身の感情を表す作品ではない。またアーネにも心配をかけるかもしれない。だからこれまでのように明るい調子で絵を仕上げようとした。
(ダメだ……明るく作ろうとするほど、自分の気持ちが沈む……)
そういう時はいつも、ディアンは一度作品から離れる。感情がキャンバスに入りきらなくなったら、心を落ち着ける。そこで一度城に戻って、コーヒーを飲もうと考えた。
城の入り口付近で、久しぶりに庭師のフラウと出会った。フラウは「休憩ですか?」と聞いてきたので、2人でコーヒを飲もうと決めた。
「どうですか、デビン王子への作品の進捗は?」
「ちょっと煮詰まってしまって、なかなか筆が進まないんですよ」
城のベランダのベンチで2人で座る。
「そんなことは私にもよくありますよ」
「本当ですか」
「何だかどうしても納得のいかないことがあったりすると、庭木を整える手も進みませんからね」
ディアンは静かにフラウの話に耳を傾けていた。
「まあ少しだけ乗り越える方法はあります」
「何ですか?」
「たとえば納得いかない理由で、大切な人と離れないといけなくなった時は、その人に届けようとしたらするんです。簡単にいうと、悲しみを原動力に変えることです。それだけで強くなれます」
それがディアンにとっては、アーネに柊を届けることであって、彼はすごく胸が熱くなった。
「ありがとうございます、何だか創作意欲が湧いてきました」
「行っておいで」
ディアンはコーヒーを飲み干して、あの公園に戻った。




