3.柊(6)
「あの人はちょっと気難しいお方ですからね……」
アーネはそう言って、デビンとのこれまでの付き合い方について語り始めた。
「ご存じのとおり、王子はあまり初対面の人と話したがらない方です。政治の仕事は信用とか信頼が大事だったりしますからね。だから自分の仕事として、諦めずに話しかけたりすることで、心を開いてくれると思いますよ」
アーネはゆっくりと続けた。久々に話すディアンの目を見て。
「私たちが初めて会った日も、そこそこ変な空気が流れてたじゃないですか。覚えてます?」
♢♢♢♢
ディアンが入城して数日、国王の執事の者がディアンの部屋に入ってきた。執事の隣には女の人が立っている。
「こちらが今日からあなたの部屋でお仕事を手伝う使用人、アーネだ」
「よろしくお願いします。ディアン様」
「どうも……こんにちは」
ディアンはあまりよく分からない挨拶をした。
「彼女にして欲しいことは何でも言ったらいい。仕事の手伝いでも良いし、おやつの用意でも何でも。じゃあ、私は次の仕事があるから」
執事の男はすぐに部屋を出ていった。ディアンは見知らぬ使用人といきなり部屋で2人になってしまった。そこからはどうなるか大体お分かりだろう。数分間、コミュニケーションに困る時間が続いた。
すると突然、ディアンが口を開いた。
「何か描きましょうか?」
数分かけて捻り出したディアンの言葉に、アーネが答えないわけがなかった。
「では、『パンジー』でもお願いできますか?」
「それぐらい容易いですよ」
パンジーは何度も描いたことがあった。どこにでも咲いているから。そこらにあった一枚の紙を取って、ディアンは頭の中のパンジーをスラスラと描いていく。迷うことは無い。
ものの10分ほどで作品は完成してしまった。
「こんな感じでどうですか、少し雑ですけど」
「素晴らしいです。私はこんなに器用なことは出来ないので尊敬です」
そこからは2人とも打ち解けて、話が続くようになった……
♢♢♢♢
「そんなこともありましたね」
「人ってみんなコミュニケーション苦手です。だからそれを分かりあった上で見えることもあると思いますよ」
「ありがとうございます。なんか行けそうな気がします!」
ディアンは綺麗になった筆を持って、アトリエに消えていった。アーネはその反対方向に向かった。
アーネが入った部屋は、王の執務室だった。とてもではないが、使用人が入るような部屋ではない。
「陛下、本日はどのようなご用件で」
「デビンの部屋でよく働いてくれているようだね」
「はい」
「このまま君にはデビンの使用人として働いてもらおうと思ってるんだけれど、それでも構わないか?」
「……」
「ディアンのことは心配いらない。他の使用人をつけようと思っている」
「分かりました」
アーネは静かに部屋を出ていった。扉が閉まったあと、そばにいたケレルが言った。
「私は彼女だと思っています」
「それで間違いがないと言えるのなら、私は彼女を昇進させ続ける。この国のためにね」




