3.柊(5)
ディアンは下書きを描き終えると、すぐに次の工程に移ろうと、絵筆を洗っていた。
「おっ、ディアンじゃん」
「あっ、ラッセル、店以外で会うなんて久しぶりだね」
「今回は柊かい?」
「そうなんだ。しかも帰国した皇太子にあげるやつ」
「また大役だね」
「大変だよ」
ディアンは絵の具を洗いながらラッセルと話していた。
「皇太子が僕とあんまり親しくしてくれないんだけど、どうしたらいいと思う?」
「まあ初めて会った奴にいきなり馴れ馴れしくできる人はあんまりいないよ。そうやって気にすることはないさ」
「そうだよね」
「そういえばここはね、今の国王陛下親子の思い出の場所なんだよ」
「へー、知らなかったよ」
「デビン皇太子が小さかった頃にはね、国王陛下と一緒に柊の木の前で遊んでたんだよ」
「だから皇太子はここを描いてくれって言ったんだね」
「今は位も高くて、すぐには外に出られないからね」
「意外と肩身は狭いんだね」
ディアンとラッセルは2人で笑った。
「今回はどんな絵にするんだい?」
「久しぶりに柊単体のスタイルで行こうと想ってるんだけどどうかな?」
「いいんじゃない。じゃあまた見にくるから」
「じゃあね」
ラッセルはそう言って柊の木の広場から去っていった。
(ここは2人の思い出の場所だったんだなぁ……それなら尚更きちんと描かないと行けないな)
ディアンは気を取り直して、絵筆に絵の具をつけた。柊に相応しいような、濃いめの緑。柊は『魔除けの花』と呼ばれているそうだ。冬になっても青々としていて、ギザギザとトゲのある葉をつけていて逞しいと、そう呼ばれている。
(何度も重ね塗りしたら、この緑色も、可愛らしい赤い実も、美しく描けるだろうな)
ディアンはそのまま何時間も作業に没頭した。絵の具がキャンバスに滲む音が綺麗で、久しぶりに大作を描くディアンの創造力をふくらませた。
(こんなに夢中になって描けるのは久しぶりだなぁ)
気づけばもう日が傾き始めていた。今日もアーネは来ていないので、ディアンはひとりで片付けまでしなければならない。
急いでキャンバスと絵筆を撤収して、城のアトリエに戻ってきた。洗い場で筆を洗っていると、アーネがやってきた。
「あっ、お疲れ様でございます、ディアン様」
「こんばんは、アーネさん」
「片付け、お手伝いいたしましょうか」
「お願いします」
2人はパレットや筆を洗いながら、最近のことについて話し始めた。
「ディアン様の作品は順調ですか?」
「あまり筆が進んでないですね……」
「いつものとおりにやっていけば、きっと素晴らしいものになると思いますよ」
「そうだと良いですね」
一瞬だけ、無言の時間があった。お互いにどう話して良いのか、忘れてしまった。そうしてまた、1番聞きたいことを思い出した。
「アーネさんは、デビン王子とどんな感じで接してるんですか?」
「うーん、あの人はちょっと気難しいお方ですからね……」




