2.ラベンダー(6)
数日経ち、長い雨は止んだ。ディアンは翌日には作業を再開しようと、急いでラベンダー畑まで向かった。
(ここ数日分の遅れは早く取り返さないと)
他の人が準備を進めている中で、自分だけが遅れているような気分がしていて、それがディアンの制作の原動力となったのは間違いない。
3日ぶりの作業となったが、ディアンの筆には迷いがなかった。繰り返し、ラベンダーや山脈に色を重ね、目の前に見えている景色に近づけていく。
それから1週間ほどの間、ディアンは無口で作業を進めた。
珍しく、ディアンが座っているアーネに声をかけた。
「この作品、どう思いますか」
「良い作品だと思います」
アーネは驚いた様子だったが、キャンバスには素晴らしい作品が乗っていた。しかし、ディアンは続けた。
「本当に、そう思いますか?」
「ええ、もちろんです。圧巻の作品だと思います」
アーネはディアンを褒めたが、ディアンはあまり満足していない様子だった。
「今日は少し早いですが、終わりにします」
ディアンもそろそろ作品を乾燥させなければ、ペルカの王に作品を渡すことが出来なくなってしまう。しかしディアンはそのまま作品の制作を続けて、一週間ほどが経ってしまった。
「ディアン様、そろそろ乾燥させないと、ペルカの王に作品をお渡しすることが出来なくなってしまいます。早く完成を」
「分かっています、ですが、これではペルカの王が満足していただけない。だから少し、待ってください」
ディアンはそれから1時間ほどラベンダー畑を眺めていた。
♢♢♢♢
「なぁ、ラッセル。あの作品が佳作になった理由が分かった気がする」
「何だっていうんだ」
「あれはシンプルすぎたんだ」
「どういうことだい?もうあの作品は見るものを圧倒するものだと思うよ」
「違うんだ、あれだと普通すぎる。もっと自分しか感じられないような奇跡的な瞬間を描く必要があると思うんだ。ラッセルの作品は、小麦畑にトンボが飛んでいるやつだ。でもあれは、あの瞬間にしか現れないようなものだ。反対に僕の作品は、あの高台に行けば誰でも見られる。そんなの描いたって全然意味ないんだ」
ラッセルは黙ってディアンの熱弁を聞いていた。そして、ラッセルは答えた。
「そうだね、ディアン。どんなにすごい芸術家でもありきたりな作品だと、全然売れなかったりするんだ。反対に、違いが作れたら、どんなに下手でも売れたりする。それだけ、奇跡が大事なんだろうね」
♢♢♢♢
(僕がこの作品にしか残せない奇跡って何だ?)
ディアンは筆を持ってラベンダー畑を見ていた。見ていても、なかなか筆は進まなかった。ずっと、期待に応えられるような、そんな光景を探していた。
こんなことをしていても、埒があかないとディアンは立ち上がって、昼食をとろうとした。
その時だった。パッとラベンダー畑全体が明るくなった。
「これだよ!これ!僕だけの奇跡だ!」
急いでディアンはキャンバスに戻り、筆を取った。めまぐるしいスピードで、その奇跡は絵になった。




