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花しか描けない宮廷画家  作者: Kaspar.
紫陽花編
1/20

1.紫陽花(1)

「おはようございます、ディアン様」

「おはようございます、アーネさん」

 

 パウロ王国の城に仕える宮廷画家、ディアン・ストローサーの朝は専属の使用人のアーネとの挨拶によって始まる。


「朝食の時間でございますよ」

「あぁはい、行きます」

「あと、王様がお呼びでございます」

「分かりました」


 ディアンは食堂で朝食をとったあと、王の執務室に急いだ。


「お待たせいたしました。画家のディアンです」

「待っていたよ。さあ、次の画題をお見せしよう」


 王は数ヶ月に一度画題をおっしゃり、ディアンはその絵を描く。その絵は王の執務室に飾られる。画題は国王の気まぐれだ。


「次の画題は、紫陽花だ」

「紫陽花ですか」

「あぁ。城の裏庭に植えてある。そろそろ見頃になるだろうから、その時期に描いてくれ」

「了解いたしました」


 ディアンはすぐに城の裏庭にある紫陽花を見に行った。もう緑色の蕾が開こうとしている。

 

「これはもうすぐ咲くな」

 

 早速、ディアンは画材を準備しようと、行きつけの画材屋に向かった。


 画材店を営むラッセル・ガートナーはディアンの古くからの友人だ。


「ようディアン、画材の準備かい?」

「そうだラッセル。いつものキャンバスと、青紫色の油絵具、そして桃色もよろしく」

「了解、すぐ用意するよ」


 ラッセルの店には世界各国からたくさんの画材が集まっている。聞けば、彼はそのほとんどの画材の使い方を知っているそうだ。ラッセルは広い店内を歩き回って、注文の品を集めた。


「これで全部だな」

「結構高くつくな」

「あぁ、最近は値段が上がってきてて、外国から染料を輸入できなくなってるんだ。特に紫色とかね」

「まあしょうがない。王国から予算が出てるからいいんだけど」


 なんとか画材を揃えたディアンは紫陽花が咲くのを待った。だが、ただ待っていると完成させることができない。油絵の制作期間はおおよそ2ヶ月。しかし、紫陽花の見頃は1ヶ月ほどで、完成させるには時間がない。

 

(完成させるにも、紫陽花の図鑑でも眺めていようか)

 

 ディアンは図書館に行った。


 もうディアンは宮廷画家として仕え始めて2年目となった。選抜試験に合格し、3年間という短い契約期間の中で、必死に絵を描いている。もし、ディアンの絵が王に気に入られなかったら、即刻でクビになってもおかしくはない。というかそれが当たり前だ。

 これまで何百人という人が雇われ、まだ誰も3年間の任期をやり遂げた者はいない。平均で約半年だ。ディアンは一年目をやり遂げたが、これだけで平均よりはすごいことだ。ディアンは自覚していないけれど。


          ♢♢♢♢

 

 王は、初めてディアンが城に入った日、こんなことをおっしゃった。


「私は君を心より歓迎する。君の描く絵を楽しみにしているよ」

「私で、本当にいいのでしょうか」

「なぜそんなことを聞く」

「私では、描ける絵があまりにも限られています」

「気にすることはない。私は君の絵が好きだから、君を選んだ。ただそれだけのことだ。君の精一杯を期待しているよ」

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