表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

6 招待状

 その日、夕食を終えて食後のお茶を飲んでいると、おもむろにお義父様が封筒を取り出した。


「さて、娘達。これが何かわかるかな?」


 ちょっともったいぶった言い回しに最初に口を開いたのは姉のドロシーだった。


「何ですか、お父様? 何か良いお知らせですか?」


 こんなふうに封筒を差し出して来る事など無かったので、私とエラも訳がわからずお義父様の次の言葉を待った。


「こちらを見れば差出人がわかるかな?」


 お義父様が封筒をひっくり返すとそこには王家の紋章の封蝋が押してあった。


「王家からのお手紙ですか? 一体何と書かれているのですか?」


 私がチラリとお母様に視線を移しながら問うと、お母様は澄ました顔でお茶を飲んでいる。


 お母様が何も言わずに黙っていると言う事は、何が書かれているか知っているからだろう。


「お父様。何が書いてあるのですか?」


 それまで黙っていたコリンが好奇心を抑えられないように尋ねている。


 そんな息子に優しい目を向けながら、お義父様は少し残念そうな顔をしてみせる。


「コリン。残念ながらコリンには参加出来ないが、王宮で舞踏会が開かれるという事が書いてあるんだ」 


 王宮で舞踏会?


 その言葉に「え!?」と思わず声が出てしまった。


「クリストファー王子の結婚相手を決めるため、国内にいる近しい年齢の令嬢を集めた舞踏会を開くそうだ。クリストファー王子だけでなく、他にも結婚相手の決まっていない子息も参加するそうだからな。我が家もそろそろ娘達に結婚相手を探さなければと思っていたところだ。何もクリストファー王子と結婚しろとは言わないが、せめて自分の結婚相手は自分で決めてほしいと思うのだ」


 そう言ってお義父様は自分の隣に座るお母様を見つめた。


 お母様はお義父様の視線を受けて柔らかく微笑んだ。


「私もボブも最初の結婚はお世辞にもあまり良いものでは無かったわ。だからあなた達には出来る限り自分の手で幸せを掴み取ってほしいのよ」


 お母様の言葉に私達は一瞬で最近のお茶会の参加の多さを理解した。


 ここ最近、お母様は頻繁に私達をお茶会に連れ回していた。


 だが、お茶会の参加者の殆どが女性ばかりだ。


 結局、こうして婚約者もいないまま、ここまで来てしまっていた。


「明日、舞踏会に参加する時のドレスを注文する為に商会を呼んでいますからね。特にエラ。もう少し華やかな装いになるようにドレスを選びなさいね。ドロシーとアナベル。あなた達はエラにアドバイスを頼むわね」 


 名指しされたエラは少し落ち込んだような顔を見せる。


「任せておいて、お母様! 私がエラを着飾らせるわ」


 ドロシーはそう言って安請け合いしているけれど。ドロシーに任せるとゴテゴテとした飾りでいっぱいになるはずだ。


(ここは商会のアドバイスを上手く取り入れないとね)


 その夜はお風呂を終えると、いつものように三人揃ってベッドに寝っ転がる。


 こうやって私達は毎晩誰かの部屋に行って眠くなるまでおしゃべりするのが日課となった。


 今夜は二人とも私の部屋のベッドに集まっている。


「クリストファー王子様の結婚相手を決める舞踏会てすって。きっとみんな張り切っておしゃれして来るわよね」


 ドレスに目が無いドロシーがうっとりしたような目で宙を見つめる。


「お姉様ったらドレスにしか興味無いの? それよりもクリストファー王子様の結婚相手なんて誰が選ばれるのかしら?」


 エラのつぶやきに私は心の中でそっとつぶやく。


(ここが本当に「シンデレラ」の世界ならばあなたが選ばれるはずなの)


 だけど、今は物語とはまったく違うストーリーになっている。


 このままでは魔法使いのおばあさんの出番などない事になってしまうが、どうなるのだろう?


 エラは舞踏会に置いていかれる事もないし、ドレスや靴だってちゃんと用意されるのだ。


 舞踏会に行くのだって私達と同じ馬車に乗って向かう事になっている。


(魔法使いのおばあさんが用意するはずのドレスやガラスの靴が無くても、クリストファー王子様の結婚相手に選ばれるのはやはりエラなのかしら?)


 その部分だけは物語の通りになってしまうのだろうか?


 そんな事をつらつらと考えていると、二人が私に呼びかける声にハッと我に返った。


「アナベルお姉様ったら、急に考え込んじゃってどうしたの?」


「ああ、ごめんなさい。なんだか急に眠くなっちゃって…」


「あら、もうこんな時間ね。もう寝なくちゃ…。それじゃ私は戻るわね。おやすみなさい」


「私もお部屋に戻りますね。おやすみなさい、アナベルお姉様」


 二人が部屋を出ていくと、急に火が消えたような静けさを迎える。


(くよくよ考えたって仕方がないわ。なるようにしかならないもの)


 私は部屋の明かりを消すとベッドに潜り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ