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11 ザカライア

 ザカライアは音もなく自室に戻ると夜会服から黒のローブへと姿を変えた。


(なかなか面白かったな)


 クッと軽く笑いを漏らしたが、それは徐々に大きくなり、やがて抑えきれぬほどの高笑いへと変わる。


 ひとしきり笑い終わると、笑いすぎて滲んだ涙を指で拭う。


 ドカッとソファーに腰を下ろすと、目の前のテーブルに置かれた鳥籠に目を移す。


 その鳥籠の中には小さな人影が横たわっていた。


(何だ。まだ眠ったままなのか…)


 その中にいる人物こそ、この「シンデレラ」の物語の中に登場する魔法使いだった。


 ザカライアが空中に手のひらを向けると、パッとグラスに注がれたワインが現れた。


 ザカライアはそれを飲みながら、今までの事を思い返していた。




 ザカライアは幼い頃から魔力が豊富な魔法使いだった。


 両親は魔法使いの統治者として多忙なため、ザカライアの面倒は他人に任せきりだった。


 それを寂しく思うことも無く、ザカライアは魔法の力を磨いていった。


 ある日、ザカライアは自分に特別な能力がある事を知った。


 人間の世界に流通しているという「お伽噺」と呼ばれる本を読んでいる時だった。


 物語は悪い事をした人物が、最後には懲らしめられるという勧善懲悪の物語だった。


(悪い事をしてきた割にはツメが甘いな。僕ならこうするのに…)


 すると、突然ピカッと本が光ったかと思うと、中に書かれている文字が物凄い速さで動き始めた。


(な、何だ!? 何が起こったんだ!?)


 ザカライアが驚いて見つめる中、やがて文字は落ち着きを取り戻すとまたピカッと光った。


(一体何だったんだろう? あれ!?)


 ザカライアが再び本に視線を戻すと、先ほどと話が変わっている事に気が付いた。


(まさか?) 


 ザカライアが本を読み進めると、先ほどとは違う物語になっていた。


 最後に笑っていたのは悪い事をした人物だったのだ。


(話が変わってる? …まさか!? …もしかして僕がやったのか?) 


 半信半疑だったザカライアは他のラストが気に食わなかった物語の本を引っ張り出してきた。


(これも、最後が気に入らなかったんだよな。こんなのに騙される方が悪いのにさ)


 ザカライアは本を開くと先ほどのように「こうしたい」と思うストーリーを頭に浮かべた。


 すると…。


 先ほどと同じように本が光り、文字が本の中を駆け巡った後、再び光った。


 ザカライアは本を手に取って、ラストシーンを開いた。


 そこにはザカライアが思い描いたラストが描かれている。


(こりゃいいや。自分の思う通りに物語が進むなんて…。もっと早くこの能力に気が付けば良かったな。まぁ、いいや。これからは気に入らないラストの本があれば片っ端から書き換えてやろう)


 こうしてザカライアは時折、気に入らない物語を読むと自分の好きなようにストーリーを変えていった。


 そんなある日…。


 ザカライアはふと「シンデレラ」のお話の本を手に取った。


(これは女性向けの本だな。僕にはあまり関係ないか)


 一旦本棚に戻したものの、何故か心惹かれる物があり、そのまま「シンデレラ」を読みふけった。


 継母と二人の姉がシンデレラを虐めていたが、最後には二人の姉が鳩に目玉を抉り出されるというものだった。


(何だ、これは! これが女性向けの本なのか? いくら虐められていたからといって、目玉を抉り出されるのを平然と見ているなんて、このシンデレラという女も大概だな)


 胸くそ悪さしか残らない結末にザカライアは嫌悪感を示した。


(話を変えるだけじゃつまらないな。いっその事、配役も替えてみるか?)


 ザカライアは「シンデレラ」の話に出てくる人物を入れ替えようとしたが、上手くはいかなかった。


 けれど、二組だけ替えられる人物がいたのだった。


(こりゃ楽しいや。いっその事、僕もこのお話の中に入れれば良いのに…)


 そうザカライアが考えた途端、すうっと身体が本の中へと吸い込まれていった。


 本の中に入り込んだ事に気付いたザカライアは焦ったが、すぐに気を取り直した。


(まさか本の中に吸い込まれるとは…。脱出する方法はおいおい考えるとして、先ずは魔法使いを探しに行くか)


 本の中でも問題なく魔法が使える事を確認したザカライアは、すぐに魔法でシンデレラを手助けする魔法使いを探し出した。


「どなたかしら?」


 ザカライアの前に姿を見せた魔法使いはザカライアをまったく警戒していなかった。


「あんたがシンデレラを手助けする魔法使い? ちょっとばかりこの中に入っていてもらうよ」


 ザカライアは鳥籠を取り出すと魔法使いに向けて籠の扉を開くと魔法使いを鳥籠の中に吸い込んだ。


「きゃあっ!」


 魔法使いは短い叫び声をあげるといとも簡単に鳥籠の中へと吸い込まれていった。


 その姿は小鳥ほどの大きさへと変化していたのだった。


「出して! ここから出してよ!」


 魔法使いは必死で叫ぶが、身体が小さくなったため、声もザカライアまで届かなかった。


「少し大人しくしていなよ。用が済んだら出してやるからさ」


 そうしてザカライアは自分の変えたストーリーを実践するために、魔法使いの家を飛び出していった。

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